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令嬢は黒騎士様と婚約する6

「それは……」


 ギルバートが言葉に詰まった。クリスティーナはそれを見てくすくすと笑う。


「あら、褒めてるのよ? 好きな子を大事にできるのは素敵なことだもの」


「ありがとうございます。──ハンスから聞きましたが、また連絡無しでいらっしゃったそうですね」


 ギルバートが表情を動かさずに淡々と告げた。


「こちらにも準備が必要ですと以前も申し上げたはずですが」


「……何よっ。手紙を読んで、すぐにでも婚約させてあげようと思って来たのよ。感謝してほしいくらいだわ!」


 ソフィアはその言葉に驚いた。


「婚約のため、ですか……?」


 まさか自分の婚約のために、エルヴィンとクリスティーナは王都にやって来たのか。冷静に考えれば息子であるギルバートの婚約に立ち会うのも当然なのだが、なんだか畏れ多い気がする。


「ええ、ソフィアちゃん。私達は貴女の味方だから安心してね。──誓約書を作りたいってギルバートから手紙が届いたから、大急ぎでお土産積んで来たの!」


「でしたら、そろそろその土産を片付けてください。中身が分からない物があると、父上が困っていました」


 ギルバートが溜息混じりに言った。クリスティーナはぱっと立ち上がる。その顔には満面の笑みが浮かんでいた。


「そうよ、お土産! ソフィアちゃんにもあるわよ。このために、ハンスに採寸表を送らせたんだから!」


「──大奥様?」


 採寸表とはどういうことだろう。ソフィアは訳が分からず首を傾げる。


「やだわ、そんな他人行儀なの。お義母様って呼んで頂戴。私、可愛い娘も欲しかったのよ」


「お義母様……?」


 遠慮がちに呼ぶと、クリスティーナはソフィアの手をぎゅっと握った。本当に嬉しそうだ。その様子にソフィアも安心する。


「ええ、嬉しいわ。じゃあまた後でね」


 惚けていたソフィアは慌てて一礼した。クリスティーナが手を振り応接間を出ていく。代わりにギルバートが一度嘆息して、ソフィアの隣に腰を下ろした。これまでとは違う意味で、どきりと心臓が跳ねる。


「遅くなってすまなかった」


 ギルバートは騎士服姿で、少し髪が乱れている。本当に急いで帰ってきてくれたのだろう。ギルバートの手が優しくソフィアの髪に触れた。


「いえ、帰ってきてくださってありがとうございます。──素敵なご両親ですね」


「悪い人達ではない。だが疲れただろう、ソフィア。ありがとう」


「いえ、そんなことは──」


 ソフィアが微笑みを浮かべ、ギルバートがソフィアを引き寄せようとする。近付く距離を予測して頬が染まった。


「──ギルバート様、ソフィア様」


 控えめに扉が叩かれ、廊下からハンスの声が聞こえてくる。ソフィアまで様付けで呼ばれているのは、エルヴィン達がいるからだろうか。

 ギルバートはちらりと扉に目を向け、ソフィアから手を離した。立ち上がってハンスの入室を促す。ソフィアは触れ合わなかった身体を残念に思ったことが恥ずかしかった。手で頬を押さえて鼓動を落ち着けようとする。しばらくギルバートとハンスが話した後、ソフィアにも声がかけられた。


「ソフィア様、今日はギルバート様と大旦那様と大奥様と一緒に、四人で食事をして頂くことになりました」


「え、私もご一緒するのですか?」


「はい、大旦那様と大奥様が是非にと仰っていますよ。それと、お二人からソフィア様へのお土産ですが」


 さっきクリスティーナはソフィアへも土産を買ってきたと言っていた。到着したときに運び込まれた荷物の量はとても多かったことを思い出すと、少し怖い。


「全て服と小物でしたので、お部屋に運んでいます。今カリーナに開けさせていますので、食事にはどれかを選んで着てきてください」


「──どれか、って。あの、そんな……戴けませんっ」


 一着ではないのか。ハンスの口振りからすると、数が多そうではある。申し訳なくて首を竦めるが、ギルバートが隣で頷いた。


「そうか。私もソフィアの服は増やしたいと思っていた。母上には礼を言わねば」


「そうですね。トランクに入る量しか荷物が無いのでは、いつ逃げられてしまうか分かりませんから」


 冗談めかして言うハンスにギルバートが目を向ける。ソフィアは申し訳なくて居た堪れなかった。ギルバートが気付いて、ぽんぽんと頭を軽く叩くように撫でる。


「──私が一緒に買いに行くつもりだったが、仕方ない。部屋に戻って着替えておいで」


「ですが──」


 それでも躊躇するソフィアに、ハンスが首を振った。


「ソフィア様、受け取らない方が失礼です」


「はい。……では、着替えて参ります」


 言い聞かせるような口調のハンスに、ソフィアは頷いて慌ててその場を離れた。数があるのなら、急がねばカリーナが大変だろう。夕食の時間まではまだ一時間程あるが、着替えて準備をしていたらあっという間だ。





 ソフィアは駆け足にならないぎりぎりの速さで階段を上り、自室の扉を叩いて中に入った。


「ソフィア! これすごいわよ。どうしましょう、今日の服はどれが良い?」


 カリーナが熱っぽい声をかけてくる。クローゼットの前まで行くと、そこに並んでいたのは色とりどりの洋服だった。二十着以上はあるだろう。ワンピースとドレスだけでなく、ケープやコートもある。ストールも数種類あり、床には靴が並べられていた。ソフィアはその数と華やかさに驚き、目を見張り呆然と立ち尽くした。

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