表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
188/223

黒騎士様は拾い上げる7




   ◇ ◇ ◇




「ご連絡しました魔道具はこちらです」


「ありがとうございます」


 ギルバートは王城の魔道具塔で魔道具を受け取った。今回借りる魔道具は、普段は主に騎士団が捜査のために使っているものである。通常の記録装置は記録の開始と終了時に操作が必要なところ、これは魔力を感知して勝手に記録してくれる。当然犯罪に利用される危険があるため、一般に流通はしていないが、ギルバート達にとっては使い慣れたものだった。だからこそ、こうして頼んで気軽に借りることができるのである。

 最近魔道具塔に貸しを作ることができたのは、図らずもソフィアのお陰だった。以前エラトスに攫われたときに拘束に使われた首輪の魔道具。それを交渉の上引き取り、戦争終結後、魔道具塔に研究資料として提供したのだ。これまでも任務の際に見かけた珍しいものは渡してきたのだが、今回は特に貴重なもののようだった。

 通常、魔道具が他者の行動を制限しようとする場合、その者の持つ魔力に作用することが多い。しかし、あの首輪はそうではない。ソフィアに効果があったということは、使われる側の人間の魔力を利用していないのだ。


「いやあ。あの首輪は素晴らしいですよ。魔道具であることは確かなのですが、使用者側の魔力を利用して作動するのです。魔力の方向づけともいえる利用法でしょうか。限りなく人工的な魔法といっていいと思いますよ。ギルバート殿、素晴らしいものをありがとうございます」


 魔道具塔の所長であるガスケ男爵が、にこにこと言う。このガスケ男爵という男は、ある伯爵家当主の弟にあたる。家がいくつか持っていた爵位のうち最も低い爵位を継ぐ代わりに、自由を得て魔道具の研究をしているらしい。ギルバートとしては、何かに夢中になっているこの男のようなタイプは非常に話しやすい。


「お気に召していただけたなら何よりです」


「ふふふ。あんなに素敵なものが貰えるんなら、いくらでも力になりますよ」


「そう言っていただきありがとうございます」


 ギルバートがガスケ男爵から受け取った魔道具を手持ちの小箱に入れた。これで犯人が分かり、少しでもソフィアの心が穏やかになってくれればいい。

 フォルスター侯爵家の守りは万全だ。邸の護衛も雇っているし、不法侵入されることがないよう魔道具で塀を守っている。使用人の中にも腕に覚えがあるものを混ぜ、また希望者には積極的に戦い方を教えている。外からの攻撃に強い家だが、同時に、内側には脆さがあった。ソフィアが攫われた件もそれが原因だ。使用人同士の仲間意識や、客への充分なもてなし。それらは美徳であると同時に、弱点ともなる。

 ガスケ男爵が悪戯に笑いながら、分厚いレンズの眼鏡をくいと上げた。


「そうそう、とはいえ壊さないでくださいね。貴方様には前科があるんですから」


 ギルバートは魔道具が入った箱を抱え直した。心当たりはある。腕輪が無いと自身の魔力の強さの影響で魔道具が壊れてしまうのだ。核である魔石が割れてしまうせいである。

 普段は邸の私室以外では腕輪をつけているのだが、以前任務のときに腕輪が壊れ、貸し与えられた連絡用の魔道具を壊してしまったことがあった。


「……気を付けます」


「頼みますよ」


 ガスケ男爵はそう言って、首を左右に振った。





「ソフィア、今少し良いか」


 帰宅したギルバートは、一度自室に戻り簡単に着替えを済ませてから、ソフィアの部屋に向かった。ソフィアは食事のために身支度を整えていたようで、声をかけてから少しして扉が開く。カリーナが開けた扉から、ソフィアが顔を覗かせた。


「はい、ギルバート様」


 ギルバートは素早く室内を見渡した。他に誰もいないことを確認してから、口を開く。


「魔道具を取り付けたから、確認してほしい」


 ソフィアを呼び出すより早く、廊下に誰もいないときを見計らって先に取り付けていた。扉の上の窪みにあるため、意識しないと見つからないようになっている。

 ソフィアが驚いたように目を瞠った。


「あの……意外と目立たないのですね」


「ふ……っ。目立ってしまったら、意味がないだろう」


 ギルバートは堪え切れずに笑い声を漏らす。ソフィアも気付いたのか、少し恥ずかしそうに笑んだ。それでいい。少しでもソフィアの心が軽くなるのならば、魔道具を借りてきた意味もある。


「何かあれば、確認は私かハンスに言ってくれ」


 ソフィアは藍晶石の指輪によって魔道具を扱うことができるようになっているが、扉の上部に取り付けた魔道具を自力で取るのは危ないし、万一犯人が映っていたときに、一人では危険だ。ギルバートがいつも側にいることができたら問題は無いのだが、そうはいかない。代わりに邸で何かあったとき、一番頼りになるのはハンスだ。ギルバートはそのくらい、ハンスを信頼している。


「分かりました、ありがとうございます」


 ソフィアがその存在を確認するようにちらりと魔道具に目を向け、ギルバートの瞳を正面から捉えてしっかりと頷いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
✴︎新連載始めました✴︎
「初恋の皇子様に嫁ぎましたが、彼は私を大嫌いなようです」
悪女のフリをしてきた王女と勘違い皇子のコメディ風味なお話です!
○●このリンクから読めます●◯

★☆1/10書き下ろし新刊発売☆★
「捨てられ男爵令嬢は黒騎士様のお気に入り6」
捨てられ男爵令嬢は黒騎士様のお気に入り6書影
(画像は作品紹介ページへのリンクです。)
よろしくお願いします!
― 新着の感想 ―
[一言] ギルバード様、子爵家が何をしたのか 母親が聞いてそうだな。(^。^;)。 だからこその 映像を残せる魔道具ね。 さすがー!( *´艸`)。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ