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黒騎士様は拾い上げる6

「あの後は、どうしていた?」


 茶会の後ということだろう。ソフィアは慎重に、言葉を選んだ。


「カリーナと二人でお茶会をしていました。その、皆様とご一緒しているときは、緊張であまり食べたりできなかったので……小さく切ったケーキをいただけて、嬉しかったです」


 ギルバートはソフィアの言葉にほんの少し口角を上げた。それだけで、纏う空気が柔らかになる。皆がこんなギルバートを知れば、きっと無駄に恐れられることもないだろうに。ソフィアの考えを知ってか知らずか、ギルバートが握った手の指先で甘やかすようにソフィアの手の甲を撫でた。


「そうか。……茶会での振る舞いは、母上もお前を褒めていた」


「本当ですかっ、嬉しいです……!」


 クリスティーナの所作や振る舞いは、ソフィアにとっては分かりやすい手本のようだった。何も持たずに嫁いできたソフィアを優しく導いてくれるその姿は、もうなくしてしまった自身の母にも重なる。受け入れられる喜びは、ソフィアの自信にも繋がっていた。


「お前に相談があるんだが」


 ギルバートが、ふと思い出したように言う。ソフィアは先程よりも軽くなった心で、首を傾げた。


「何でしょう?」


「先日の、衣装部屋の鍵の件だ。盗られたものは無かったとはいえ、気味が悪いだろう。だが、ソフィアの部屋には使用人が立ち入ることも多い。……入り口に鍵を掛けるわけにもいかない」


「はい……」


 こればかりはどうしようもない。ソフィアがいないときに使用人が掃除をしたり、魔道具の手入れをしたり、部屋を整えたりしてくれているのだ。至れり尽くせりで申し訳なく思うこともあるが、慣れるしかない。

 しかし、全く知らない人間が自身の部屋に入っているかもしれないというのは、怖かった。善意からそういったことをする人はいない。


「そこで、ソフィアさえよければ、映像を記録する魔道具を部屋の入り口に付けたいのだが」


 その提案に、ソフィアは目を瞠った。


「そんなものがあるのですか?」


 ギルバートが小さく頷き、説明する。


「王城の魔道具塔に問い合わせていた返事が、先程届いた。特定の範囲に人の魔力を感知したときに映像を残すという魔道具だ」


 王城の魔道具塔とは、王家お抱えの魔道具の研究施設だ。王族や騎士団等が使用する魔道具の開発や管理、使用前の確認等を行っているらしい。らしいというのは、ソフィアは本で読んだことしかないからだ。魔道具塔では市場に流通していない魔道具も多く扱っているというが、これもそういった類いのものだろうか。


「構いませんけれど……私のために、よろしいのですか?」


 ソフィア一人のために使っても良いのだろうか。ソフィアには詳しいことは分からないが、本来ならば、王族が、または騎士が任務のために使うものではないか。そう思って聞いたのだが、ギルバートは何でもないことのように頷いた。


「ああ。奴等には、ちょっと貸しがあるから」


「貸し、ですか?」


 ソフィアがきょとんとすると、ギルバートは思わずといったように笑った。くつくつと喉の奥から聞こえてくる笑い声は、面白いことがあったときのものだ。


「ありがとう、ソフィア。明日、登城したときに受け取ってくる。この件は、ハンスとカリーナにしか伝えないことにするから、お前もそのつもりでいてくれ」


「はい、分かりました」


 素直に頷いたソフィアの頭に、ギルバートが優しく触れる。そのまま髪の流れに沿って梳くように撫でられると、言葉にはできない不安がゆっくりと融けていくような気がした。


「今日はもう休むか」


「そうですね」


 ギルバートが立ち上がり、部屋の照明を消しにいく。ソフィアは茶器をテーブルの端に纏めた。こうしておくと、朝の内に使用人が片付けておいてくれるのだ。

 部屋の明かりが消える。ソフィアは扉から漏れる明かりを頼りに、寝室へと向かった。先に灯されていたベッドサイドランプでは、小さな明かりが揺れている。ギルバートが寝台の前にいた。差し出された手を頼りに、寝台に横になる。ギルバートが後に続き、シーツの中、ソフィアを胸の中に閉じ込めた。

 ソフィアが悪夢に魘されるようになってから、ギルバートはいつもこうして抱き締めていてくれる。言葉にされないその優しさが、ソフィアは嬉しかった。夜中に目覚めても、ギルバートがいる今こそが現実なのだと分かるから。


「おやすみなさい、ギルバート様」


「おやすみ、ソフィア」


 そっと触れるだけの口付けが額に落ちる。ソフィアは幸福な気持ちで目を閉じた。

 とくん、とくんと繰り返し聞こえるのは、ギルバートの心音だ。落ち着いたその音に、元々疲れていたソフィアはあっという間に眠りの中に引き込まれた。


「──……ソフィア、すまない。私のせいで……」


 眠りに落ちる直前、そんな声を聞いた気がした。

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