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ひとりぼっちの友達(ギルバートとマティアスの場合)6【完】

「ギルバート、獅子鳥が出たらしい」


「学校の七不思議を調査しないか?」


「屋台飯が食べたいんだが、共に行かないか」


 マティアスは何かにつけてギルバートに声をかけ、


「仕方がありません。ご一緒しましょう」


 ギルバートもまた、それを楽しみにしていた。

 実際のところ、冒険と言えるほど危険なことがあったわけではない。大抵のことはギルバートの魔力でどうにかなり、残りのことはマティアスの頭脳と口の巧さで解決できていた。それが楽しかったのだ。協力して問題にあたる日々には、これまでになかった高揚感があった。パブリックスクールに入学して良かったと、ギルバートは両親に感謝した。

 しかし、楽しい日々はいつまでも続かない。ギルバートよりも二歳上のマティアスは、知り合って一年で、卒業を迎えることとなった。

 いまだギルバートにはマティアス以外の友人はいなかった。マティアスと過ごす日々の中で、他人と関わり身に付けた社交術があるだけだ。この頃には、魔力の揺らぎを読んでしまう能力も受け入れており、割り切って利用することが当然になっていた。

 卒業の日、ギルバートは祝いの言葉を贈るため、マティアスが人に囲まれているのを遠くから見ていた。マティアスはしばらく完璧な笑顔で皆に対応していたが、ギルバートに気付くと、話をまとめて人の輪を解散させた。


「ギルバート」


 先程までと同じようで異なる笑みをギルバートに向けて、マティアスが名前を呼ぶ。


「マティアス殿下。ご卒業、おめでとうございます」


「ありがとう。君と共にした冒険は、本当に楽しかったよ」


 ギルバートは、心に渦巻く寂しさに動揺していた。いつの間に、マティアスがこんなにも大きな存在になっていたのだろう。卒業したら、マティアスはこのアイオリア王国の王太子だ。フォルスター侯爵家が歴史ある大貴族であるとはいえ、今までのように気安く話すことも、ましてや冒険をするなんてことも、きっともうできないだろう。


「私こそ、ありがとうございました。殿下と過ごした日々、本当に、楽しかったです」


「──終わりにするつもりかい?」


 感慨に浸りつつ言ったギルバートの言葉を、マティアスがいつか見たような悪戯な笑顔で受け止めた。


「そんなことを仰っても、卒業してしまえば、気軽に会うことなどできないでしょう」


 ギルバートは自身にとって残酷な事実を口にした。

 そう、だから慣れなくてはならない。心許せる友人などいない、表面上の付き合いしかない、以前よりほんの少しだけ居心地が良くなった、あの空間に。そうして、心を落ち着けるように意識して過ごす日々を、繰り返すのだ。


「ふふ、そうか」


 マティアスは心の底から楽しそうな笑い声を上げる。そして、ギルバートの肩に手を乗せた。


「待っているよ」


「はい?」


 マティアスの言葉は、ギルバートが予想していないものだった。言葉の意味を考えるより前に、疑問がそのまま無防備に言葉になった。


「君のその魔力は素晴らしいものだ。卒業後は引く手数多だろう。勿論、実家の仕事を選択したって良いはずだね。──だが、もし良ければ……近衛騎士団第二小隊も、君を歓迎しよう」


 近衛騎士団第二小隊──それは、王太子直属の部隊だ。つまりそれは、マティアスの側近として、直属の騎士となり働くという選択だ。卒業後の進路の話をされているのだと、今更になって理解する。本当に、マティアスは予測が難しい。


「殿下……」


「また共に冒険をしよう。今度は、これまでよりも巻き込むものが大きくなるだろうけどね」


 第二小隊を選ぶならば、王族を守る剣として務めることになるのだ。マティアスが王太子となるのだから、そうすれば、新たな冒険の規模は、きっと国を、世界を、動かすものになるだろう。

 知らず、口角が上がった。ギルバートの父親であるエルヴィンはまだ若い。ギルバートが騎士になっても、しばらく現役で領政を行うことはできるだろう。ならば、将来の選択の自由は、完全にではないだろうが、充分にある。


「それは、……楽しみですね」


 簡単なことではないだろう。近衛騎士団自体が狭き門だ。しかしこの煩わしくも感じていた魔力と、引き篭もりの日々の成果の成績があれば、実現可能なように思えた。これまで重責としか感じていなかったフォルスター侯爵家の嫡男という立場すら、マティアスの側近になるためならば、意味のあるものに思えてくる。

 世界の色が変わる、というのはこのようなときに使うのだろう。どこか退屈が拭いきれずにいた世界が、行き止まりのように感じていた未来が、鮮やかに色付き出した。


 それから、ギルバートは卒業と同時に近衛騎士団の入団試験に首席の成績で合格し、特務部隊の勧誘を蹴って第二小隊に入隊する。

 国を巻き込んだ冒険は、紙の上でも、戦場でも、終わることなく、今日も続いている。

『ひとりぼっちの友達(ギルバートとマティアスの場合)』はこれにて完結です!


引き続きよろしくお願いします(*^^*)

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― 新着の感想 ―
[一言] 番外編2、ほわほわの恋愛話2本、くすぐったくて、good!って感じです♪ギルバートとマティアスの友情話、面白かったです。冒険しようとか、時間がかかってすみませんとか、何かちょっとズレた感じが…
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