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ひとりぼっちの友達(ギルバートとマティアスの場合)1

「悪役令嬢は最愛の婚約者との婚約破棄を望む【連載】」連載開始記念!

(※完結しております。)

いつも応援ありがとうございます。


ギルバートの過去とマティアスとの出会いのお話です。

「──ハンスには黙っていてくれ」


「何を……?」


 そしてギルバートは、魔法を使った。まだソフィアがフォルスター侯爵家に来て、あまり経っていない頃のことだ。二人で買い物に出かけ、帰宅して、ソフィアの話を聞くため、邸の屋上で星を見た。

 あのとき、ソフィアに聞かれた。


「何故ハンスさんには秘密なのですか?」


 当然の質問だろう。良い大人が、使用人に隠れて魔法を使うと言ったのだ。それも、どこかばつが悪そうに。


「ハンスは私がこの魔法を使うのを好かない。子供の頃、季節に構わずに服を着ていたら注意されて、それ以来だな」


 あのとき、ソフィアは笑ってくれた。それまでの強張った表情が柔らかくほぐれて、安心したものだ。

 そうして結婚してしばらく経った今も、ギルバートはソフィアと共に星を見て、その度にこの魔法を使っている。





 あれは、ギルバートがまだ子供だった頃だ。

 当時のギルバートは、優秀で面倒な子供だった。家庭教師に褒められ、剣の師範にも筋が良いと言われ、根拠のない自信があった。何でもできるような気がしていた。

 その頃からギルバートには膨大な魔力があって、魔道具のない生活を余儀なくされていた。まして当時はまだ魔力制御の腕輪もなく、生活には全て旧道具を使っていた。当時の侯爵邸は、使用人区画以外には魔道具が一切置かれていなかった。


 自身の意思に関わらず触れた人間の心を理解してしまうのは、生まれた頃からだったらしい。母であるクリスティーナ曰く、乳母が困ってしまうくらい、よく泣く赤児だったと。成長し、言葉を話すようになって初めて、ギルバートが魔力の揺らぎを読んでいることが分かったのだそうだ。勿論、ギルバート自身にはその記憶はないけれど。

 とはいえ、ギルバートは上手くやっていた。万一のことがあってはと同じ年頃の子供達と遊ぶことこそなかったものの、家族は皆優しかったし、普段接する大人達は本心からギルバートの潜在能力の高さに感心していた。魔力の揺らぎを読み取ってしまっても何の問題もない幸福な世界が、そこにはあった。

 だからあの事件が起きてしまったのだ。


「ギルバート様。お願いですから、上着を脱いで遊ぶのはおやめください。今日は来客があるのですから、皆が驚いてしまいますよ」


 季節は冬。外の空気はきんと冷え切っている。制服の上からコートを着てギルバートを迎えにきたハンスに対して、ギルバートは魔法で自身の周囲の気温を上げて、軽装で庭をうろついていた。いつものことで、ハンスに窘められるのも慣れている。ギルバートとしては、風邪をひかなければ構わないと思っているから、この考えの違いはどうにもならないが。


「ごめんなさい。ハンス、私の上着は持っている?」


「はい、こちらですよ。これを着て、魔法を使うのをやめてくださいね」


 ギルバートは、ハンスの手から上着を受け取って素直にそれを着た。言い返しても意味がないと、もう知っている。しかし寒いものは寒いから、魔法はこっそりと使い続けていた。


「今日は分家の方々がいらっしゃるので、ギルバート様もそろそろ中にお戻りください」


「うん。もう戻るよ」


 ギルバートは分家の人達が嫌いだった。彼らはギルバートが魔力の揺らぎを読めることを知らない。魔力が多いことは知っていて、その不便さを蔑むことで自分達の立場を上位に置こうとしている様が、滑稽に思えた。

 とはいえ来客は来客だ。会いたくなくても行かなくてはならない。ギルバートは重い足を引きずりながら、溜息を吐いた。





「お久しぶりでございます」


「伯爵、久しぶりだね」


「どうぞゆっくりしていってくださいませ」


 邸に着いた者から順に列になって、エルヴィンとクリスティーナに挨拶をしていく。二人は和かにそれに応えて、使用人達が彼等を次々と食堂に案内していった。


「いらっしゃいませ」


 ギルバートも整えた衣装を着て、両親と同じように挨拶をしていた。堅苦しい挨拶は苦手だったが、ギルバートとて、フォルスター侯爵家の人間としての自覚はある。

 歴史あるフォルスター侯爵家は分家も多く、彼等はそれぞれ違う爵位を持ち、違う名前を名乗っていた。派閥としては大差ないが、一概に仲が良いとは言い難い関係だ。クリスティーナからも、分家の人達には触れないようにと念押して言われていた。


「ギルバート様も、大きくなりましたね」


 頭を撫でようと手を伸ばしてくる大人を人見知りのふりで躱して、エルヴィンの影に隠れる。そうすれば大抵の人は笑って許してくれた。


「──ありがとう、ございます」


 ちょこんと顔を出して軽く頭を下げる。礼儀正しく見えるだろう。子供だからこそ通用する技だ。

 全員への挨拶が終わると、食堂での食事会があって、大広間で大人達が会議をすることになっていた。その間、子供達は邸の敷地内で遊ぶらしい。ギルバートは食事会が終わり次第、自室に戻る手筈になっていた。

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