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令嬢は黒騎士様の宝物1

 次にソフィアが目を開けると、朝日とは言えない程に高く昇った太陽の光が窓から差し込んでいた。初めて見る景色に、ここはどこだろうと首を傾げる。

 状況を把握しようと顔を横に向けると、床に座って、頭だけ寝台に乗せてギルバートが眠っていた。日の光を受けて輝く、見慣れていたはずの銀髪がすぐ横にある。


「夢じゃなかったのね……」


 ソフィアは昨夜ギルバートに救い出されてすぐに眠ってしまっていた。それはあまりにソフィアの願望そのもので、夢であったらどうしようかと思ったのだ。これまで押し込めていた孤独も恐怖も、ギルバートがいてくれるのだと思うとふわりと解れていく。

 ギルバートの隣には、同じような姿勢で眠る男がいた。明るい茶色の髪に、ソフィアやギルバートよりも濃い肌色だ。その男の寝顔もまた、疲労の色を覗かせていた。

 ソフィアは上体を起こす。あまり広くない室内は最低限の調度しかない。小さな机の上に、二つに割れた金属製の首輪が雑に転がっている。ソフィアが右手で首筋に触れると、そこからはずっと付けられていた魔道具の首輪がなくなっていた。身体の節々は痛むものの、思えば腕も身体も随分と軽く動く。

 魔道具を壊すのは難しいと、ソフィアでも知っていた。核となっている魔石の魔力が暴発する危険があり、不容易に回路を破壊することはできないのだ。


「──ソフィア、起きていたのか」


 ギルバートが目を開け、顔を上げていた。


「ギルバート様……助けてくださって、ありがとうございます。ここは……?」


「私が借りているアパートメントだ」


 ギルバートがソフィアの手をそっと握った。その指先は冷たい。


「──お身体が冷えていませんか? あの、寝台を」


「大丈夫だ」


「ですが──」


 ソフィアが躊躇すると、ギルバートは一度立ち上がって寝台に座った。繋いでいない方の手がソフィアの髪を撫で、流れるように頬に触れる。


「私は大丈夫だ。そんなことより……本当に、生きていてくれて、良かった。──お前を守ってやれなくて、すまなかった」


 ギルバートが目を細め、悔しそうに唇を噛んだ。


「私……」


 ソフィアは視線を落として俯いた。それでもギルバートは頬に触れている手を離そうとはしない。触れていても何が分かる訳でもないソフィアから、それでも何かを知ろうとしているかのように、ギルバートはソフィアの瞳を覗き込んでくる。すぐ近くにある瞳の藍色が、日の光で綺麗に見えた。そのすぐ下には、隈ができている。


「どこか痛むか? 医師は呼んでやれないが、何かあれば通信機でアイオリアの医師に聞くことはできる。今日は何も予定は入れていない。──私にできることなら何でもしよう」


 心配されているのだと分かって、ソフィアは申し訳ない気持ちが募った。別に、身体のどこにも怪我はしていないのだ。ただ付けられていた魔道具の影響で、身体を動かし慣れておらず、動くと軋んだように痛むだけだ。しかし同時にギルバートがソフィアを想ってくれていることが伝わって、心にできた傷が優しさで覆われていくのが分かる。ぽかぽかと熱を持っていく身体と心は、ただギルバートを求めていた。


「──何でも、よろしいのですか?」


 ソフィアはおずおずと問いかけた。ギルバートは当然だと言わんばかりに頷く。


「では、お願いします。……少しだけ、少しだけで良いんです。あの、抱き締めて眠って頂けませんか?」


 ギルバートは目を見張った。ソフィアの頬に触れている指が、ぴくりと動く。ソフィアはやはり言うべきではなかったかと、少し後悔してシーツを握った。ギルバートが深い溜息を吐く。


「──……そんなこと、頼まれなくても」


 寝台が軋む。ギルバートが隣に滑り込み、ソフィアはゆったりと抱き締められた。それは壊れものを扱うように、包み込むような力加減だ。そのまま寝台に身体を倒されて、ソフィアはギルバートの腕を枕に、その胸元にぴったりと擦り寄った。ギルバートの唇がソフィアの額に触れる。


「ありがとうございます。嬉しい、です」


 ソフィアはやっと自然に笑うことができたように思った。ギルバートも喉の奥でくつくつと小さく笑う。先程までソフィアが眠っていた寝具の中はまだ温かく、二人で横になっているとギルバートの冷えた身体もすぐに温まってきた。


「ソフィア、もう……離さないから。側にいてくれ」


 言葉の通りの強さで引き寄せられる。ソフィアは久しぶりの幸福な場所でしっかりと頷き、ギルバートの香りに包まれながら目を閉じた。





 本当に眠るつもりはなかった。ギルバートは自身の失態に気付いて猛省した。ソフィアが無事目覚めて、心配だったが怪我はないようで安心した。何があったかは本人に聞いていないが、犯人達を捕まえて順に聞いていけば良いだろうとギルバートは思っていた。ソフィアに、辛かっただろうことを思い出させる必要はない。

 可愛らしい頼みをされ、当然のように受け入れた。ソフィアに触れていると空になっていた心が満たされていくようで、ギルバートも気を休めることができた。

 昨夜はソフィアに付けられていた魔道具の首輪を外す為、ギルバートは殆ど眠っていなかった。コンラートにも魔道具の知識はあるとのことで、協力してもらった。無事安全に破壊する方法を見つけた時にはもう明け方で、喜んだそのまま揃って寝台に頭を乗せて眠ってしまったのだった。

 確かに疲れてはいたが、ギルバートは徹夜や無理な任務には慣れている。ソフィアの髪に顔を寄せて目を閉じたが、まさかすぐに寝入ってしまうとは予想外だった。


「──侯爵は随分幸せそうで、良いことだよ」


 二度寝をしたギルバートとソフィアよりも先に目覚めたコンラートが、寝台の上で抱き合って眠る二人を見つけて呆れている。目覚めたソフィアにエラトスの第一王子であると紹介をしたら、慌てて寝具から出てギルバートから離れていった。

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