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黒騎士様は令嬢と再会する1

 翌日、早朝の内に王城の北の塔を訪れたギルバートは、やはりと言える変化に落胆した。塔の周囲には全く人はおらず、念の為中に入ってみても、既にそこはもぬけの殻だった。地下から最上階まで、どの部屋も荒れていて人はいない。

 しかし人が出入りしていた痕跡まで消せるものではない。確認してみたが、地下でコンラートが入れられていた牢には埃が溜まっていなかった。そこまで擬装する余裕は無かったのだろう。同じように不自然に埃の無い部屋が、塔の上階にあった。その部屋の入り口の側には、鎖や鍵が不自然に落ちている。


「──ここにいたのか」


 その部屋は家具が端に寄せられ、カーペットも敷かれていなかった。しかしよく見ればカーペットは折り畳まれて態とらしく適当な布と重ねられており、家具も実用に耐える物ばかりだ。

 もうソフィアのいた名残など何も残っていないその部屋で、ギルバートは静かに目を閉じた。こんなに近くにいたのに、気付いて助けることができなかった。ソフィアはギルバートがエラトスにいることすら知らない筈だ。この場所がどこだったかすら、知っていたか分からない。窓一つ無い部屋で何を思ったのか。ギルバートがどんなに考えても答えはなく、何処に連れて行かれたのかも分からない。唯一分かるのは、その行方にヘルムートが関わっていることだけだ。


「行くか……」


 ギルバートは小さく嘆息し、北の塔を出た。そろそろ人も増えてくる時間だった。ギルバートは警備に警戒しながら塔を出て、今日も郵便配達の事務所に向かった。動きがあったのだから、報告する何らかの書簡があるかもしれない。ヘルムートの周囲の様子も改めて確認したかった。


「おはようございます、今日の分はどれですか?」


 ギルバートは作った無邪気そうに見える笑顔で扉を開ける。上司である男が、既に振り分けていた箱の中から一つを手で示した。


「これだな。よろしく、ジル」


「うわぁ、今日は何だか多いですね?」


「本当だな。送り主を見るに、多分、王子様の気紛れのせいだと思うが……ま、頑張れ」


「気紛れですか。皆さんもお疲れ様です」


 送り主を見て分かるということは、特定の派閥の貴族達ということだろうか。ギルバートは後で確認しようと決めて、この場は素直に頷いた。箱の中身を仕分け、それぞれに軽く束ねて鞄に詰め替える。


「いってきます……」


「多いからってそんなに落ち込むなよ。いってらっしゃい」


 男はひらひらと手を振ってギルバートを送り出した。ギルバートは先に王城の建物の、誰も使っていない物置に入る。事務所で一度は束ねた手紙を、散らかして床に置いた。こうすれば万一見つかった時にも、手紙を整理していたと言い訳ができる。

 ギルバートは一つずつ手をかざして手紙の内容を探っていった。手に入れたいのは第二王子ヘルムートとの接触方法か、ソフィアの居場所だ。できるだけ時間を掛けないように調べ、ようやく見つけた手掛かりはヘルムートのとある予定だった。


「──貴族の邸で行われる、仮面舞踏会か」


 確かに仮面舞踏会ならばお忍びにはもってこいだろう。正体に気付いたとしてもそれを口にすることは無粋とされている場で社交を楽しむのだ。まして今回は第二王子派の侯爵家主催である。ヘルムートが参加していても、何の不思議もない。

 仮面舞踏会は次の週末に開催される。都合の良いことに、ギルバートはその招待状を手に入れていた。ヘルムートに直接触れる機会はあるだろうか。そうすればソフィアの居場所の手掛かりも簡単に掴める筈だ。

 ギルバートはそのまま残りの手紙もひと通り確認してから束ね直した。アパートメントで隠れているコンラートに、表に出てきてもらう日は近いかもしれない。ギルバートは確信に近い予感を胸に、急いで物置を出た。





 ソフィアが不安な眠りから目覚めた時、真っ先に驚いたのは眠った部屋とは異なる場所にいたことだった。


「ん……、痛っ」


 痛む頭に目を顰めて、相変わらず重い身体を寝台から無理に起こす。ゆっくりと天蓋を掻き分けると、そこはこれまでにいた石壁が剥き出しだった場所とは異なり、絢爛豪華と言って遜色無い部屋だった。フォルスター侯爵家のような上質な豪華さともまた違う。高価な物を集めたことが分かる鮮やかさだ。照明は明るく、暖炉には金の装飾がある。壁には派手に着飾った女の絵画が掛けられており、机や書棚、テーブルの上の銀の水差しにまで細かな彫刻が入れられている。


「──ここは何処なのかしら」


 今度は何処に連れてこられたのだろう。窓の外は明るかったが、拐われてから何日経ったのか、どれだけ眠っていたのか、ソフィアには分からなかった。窓には外側に金属の格子があって、ソフィアには外せそうにない。それでもせめて場所が分かればと必死で窓に近付いてみたが、そこから見えたのは広大な庭園と視界を遮るように植えられた木々だけだった。


「そんな」


 また何処か分からない場所に連れてこられてしまった。ギルバートに居場所を知らせたのが無意味である。改めて扱える魔道具を探そうと、ソフィアは視線を巡らせた。

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