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第8話 うぜぇくらいに何かとおっちゃんが話しかけてくる


 その声は朝の目覚めとともに、唐突に俺の頭の中に聞こえてきた。


『起きろォォォォッ!!』


 ──!


 俺は声にならない悲鳴をあげて、勢いよくベッドから飛び起きた。

 激しく周囲を見回す。


 ここはどこだ!? 異世界か!?


 夢半分な思考の中で、俺は訳も分からず辺りの様子を確かめる。

 何事も変わらない自分の部屋の中。

 いつもの部屋。

 いつもの朝。

 いつもの時間。

 そして──……。

 ここが現実の世界であることを認識した俺は、ようやく落ち着きを取り戻し、安堵の息を吐いた。

 胸を撫で下ろす。


 良かった……。


『──ということは、だ』


 ニヤリと、おっちゃんが勝ち誇った声で言ってくる。


『聞こえているんだな? 俺の声が』


 あー!! クソッ、しまった!!


 病院で目覚めたあの日から、二度とおっちゃんに話しかけられても返事してやるもんかと誓ったはずなのに。

 反応してしまった自分に苛立ち、俺は八つ当たりに手短の枕を壁に投げつけた。

 そして苛立った口調でヤケクソに言い返す。


 何の用だ? おっちゃん。先に言っておくが、俺はもう絶対に向こうの世界には行かないからな。絶対にだ!


『お前の言いたいことは分かっている。

 そんなことよりお前、そっちの世界に帰ったんなら連絡くらいしろ。心配したんだぞ。

 あれから俺は無駄に街中を捜し回るはめになったんだからな。お前とは全く連絡がとれなくなるしで散々だった』


 ……。


 思い出して、俺は申し訳なく謝る。


 ごめん。


『そっちで異常現象は起きてないか?』


 うん。まだ何も。


『そうか。それならしばらくそっちの世界にいろ』


 ……え? こっちの世界に?


『そうだ。何か不満か?』


 い、いや、別に。


『なんだ? 何が不満だ? 言ってみろ』


 いや、不満とかじゃなくて、その……言わないのかなぁ? って。その……


『ん? こっちの世界に来たいのか?』


 いや、そういうわけじゃないけど……。


『そうか。ならそっちの世界にいろ』


 なんか、その……


『あ? なんだ? 何が言いたい?』


 なんかその、“この世界にいろ”って言われると、それはそれで逆に不安になってくるんだが……。


『じゃぁなんだ。こっちの世界に来るか?』


 いや行かない。


『どっちなんだ? ハッキリしろ』


 行かない。行かないよ、俺は。行かないんだけど、なんか……。

 今まで散々“来い”って言っていたのに、急に“来なくていい”とか言われると、なんかこう、その……嵐の前の静けさみたいで逆に怖くなってくるんだが。


『……』


 いや黙るなよ。なぁおっちゃん。正直に言ってくれ。

 絶対、何か企んでいるよな?


『じゃぁ来るか?』


 嫌だ。


 おっちゃんが舌打ちしてくる。


『あー言えばこー言うだな、お前』


 なぁ、おっちゃん。


『なんだ?』


 もし、こっちの世界で何らかの異常現象が起きたとして、それでも俺がそっちの世界に行かなかった場合はどうなるんだ?


『……』


 ……。


 しばらくの沈黙を置いた後。

 おっちゃんは素っ気ない声で答えてきた。


『教えない』


 

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