第5話 懐かしい教師
三時間目の授業が終わり。
俺と朝倉は教員室に呼ばれた。
呼ばれた理由はもちろん、授業に遅れて参加してきたことへの説教だ。
言い訳が一切通用するわけもなく、俺達はただ謝罪の言葉を口にすることしか許されなかった。
荒俣からの一方的な罵倒が続く。
反抗するだけ説教が長くなる。
だから俺達は、それを知るが故に機械的で模範的な謝罪の言葉を繰り返す。
そして。
荒俣の説教がようやく終わりを告げる。
俺達はやはり機械的で模範的な一礼をした後、大人しく教員室を立ち去った。
「……」
……。
しばらく黙々と廊下を歩き続ける俺達。
ある程度教員室から離れたところで。
俺と朝倉は一緒になって疲労の溜め息を吐いた。
やっと終わった……。
「荒俣の奴、説教長ぇんだよな」
次の授業ってなんだっけ?
「もう昼だろ」
いやまだあと一時間あるだろ。
「あーめんどくせ。一緒サボらねぇか?」
うるせー。もう巻き込んでくるな。
「冗談だよ」
マジいいかげん怒るぞ、俺も。
──そんな時だった。
急に背後からガシッと、俺達二人を束ねるようにして細い腕を回し、捕獲してくる一人の教師。
「こんにちは、幽霊部員のお二人さん。その後のご機嫌はいかが?」
ゾクリと、俺達の背中に悪寒が走る。
それはまるで井戸から這い出てきた女幽霊のごとく顔と声で、オカルト顧問の女教師──黒江は現れた。
俺と朝倉は途端に言葉を失い、何かを思い出したようにその場で金縛りになった。
黒江がスッと俺ら二人の間に顔を挟み、両方の顔を見比べながらぼそぼそと話しかけてくる。
「あなた達の事情は色々と風の噂で聞いています。
先生はね、部活の顧問として、あなた達二人のことをものすごぉーく心配しているし、興味を持っています。
先生は、顧問として絶対にあなた達二人を見捨てたりしないし、これはオカルト絡みだって本気で信じています。
まずはUMA君、夏休みの事情を先生に打ち明けてくれないかしら?」
いや、あの、その件については勘弁してください。
「あと朝倉君。同じクラスの井上君って子から聞き出したんだけど、最近インターネットゲームにはまって学校に出て来なかったそうね?
知ってる? 今巷で、【ブラッディー・ゲーム】って都市伝説が」
「いや、マジそんなんじゃないです。オレ達ほんと、な?」
そうそう。オカルトとかそんな興味ないし、部活にはいつか顔出しますから。
黒江の表情が生き生きしてくる。
「部活にとって、こんなに魅力的な材料が出てくることなんてめったにないことよ」
「……」
……。
その言葉に俺と朝倉は、いずこへと視線を流した。
黒江がニヤリと不気味に笑ってくる。
「放課後、部室で待っています。二人ともちゃんと来るように。
もし、部活に来なかった場合は──」
……。
俺と朝倉はゴクリと生唾を飲んだ。
黒江が言葉を続けてくる。
「先生は、生き霊になって今夜あなた達二人の枕元に立つかもしれません。
──先生からの話は以上です」