第4話 ダチだから。
「お前──死ぬのか?」
……は?
俺は本気で問い返す。
クソ寒い風が吹く中、誰も居ない屋上に誘い出されて。
朝倉が真剣な顔して俺にそう言ってきた。
「隠すなよ」
隠してねぇよ。
「今朝、福田達から話を聞いたんだ。倒れたのはこれで二度目だぞ? しかも集中治療──」
じゃぁ今ここに居る俺は何か? 幽霊か?
生きてるよ。医者からも何の問題ないって太鼓判もらったんだ。
「その割にはしばらく面会謝絶だったらしいな。
福田達が言ってたよ。見舞いに行こうと担任の先生に入院先聞いたら、“行く必要はない”って。それ絶対怪しいやつだろ。お前、オレ達に何か隠してるだろ?」
何も隠してねぇって。
だって見舞いに来るだけ無駄だろ? ただの検査入院ってだけで俺は元気なんだぜ? わざわざ元気な姿を見舞いに来ても面倒くさいだけじゃん。
「……マジで?」
マジ。
「じゃぁなんで今日は遅れて来たんだ?」
仕方ねぇだろ。親に目覚まし時計の電池抜かれて寝坊したんだよ。
俺のその言葉を聞いて安心したのか、朝倉の表情にいつも通りの笑みが浮かぶ。
「ぷ。おま、ダセ……」
うるせー、ほっとけ。
朝倉の顔が再び真顔になる。
「なぁ、オレ達“親友”だよな?」
何を今更。
「お前の言葉を信じていいんだよな?」
あぁ当然だろ。
「じゃぁみんなで一緒に卒業って、出来るんだよな?」
……。
なぜだろう。
俺はその時すぐに頷くことが出来なかった。
脳裏を過ぎる、黒騎士の言葉。
【これは提案じゃない、お前を脅しているんだ。──大事な友達を救いたくはないのか?】
……。
俺は空を見上げてぽつりと朝倉に言う。
……親友、だから。
そう。ダチだからこそ、あの世界には引き込みたくない。
踏み込めば二度と戻れなくなるあの世界に。
【お前の条件を呑め、だと? ──ほぉ。ディーマンあたりにでも入れ知恵されたか?
クク。いいだろう。その条件を呑んでやる。だがその代わり、その条件が満たされた時、お前は】
だからこそ、俺は……。
俺と朝倉との間に冷たい風が流れていく。
その風に乗って、三時間目の始まりを知らせるチャイムの音が聞こえてきた。
「……わかった」
朝倉が呟く。
そのまま俺の肩にポンと手を置いて、
「ダチだから、オレと一緒に荒俣の説教を受けてくれないか?」
……。
無言の間を置いた後。
俺は真顔で朝倉の手を叩き払った。