第3話 言えない事情
(-""-;)
二時間目の授業の途中。
俺は教室の後ろからそっと入室する。
クラス中の視線が集まる。
事前に連絡を入れていたこともあって誰も何も言わない。
視線は散り、授業はいつも通りに進んでいく。
静かに俺は自分の席へと歩き始めた。
そして、福田の横を通り過ぎようとしたところで──。
俺は急に制服の裾を掴まれる。
ッ痛て。
犯人は分かっていた。
掴まれたことで首がガクンとなった俺は、思わず足を止めて福田へと振り向く。
福田が声を落としてぼそぼそと話しかけてくる。
「なぁお前、マジでどこか悪いわけじゃないんだよな?」
マジ健康。俺の親がウゼーくらいに過保護すぎるだけ。家庭の事情だからほっとけってーの。
素っ気なく俺はそう言い返した。
その言葉に安心したのか、福田が手を離す。
俺はそのまま何事なく自分の席へと足を進めた。
椅子を後ろに下げて、席に着く。
そして溜め息を一つ。
……。
薬を飲んでいることがバレたら、過保護者がまた一人増えそうだな。
昼に飲む薬があるんだが、どうしよう。
このままずっと隠し通せるだろうか。
ふと。
隣の席から朝倉が、顔を合わさず片手を挙げて、気まずく声をかけてくる。
「……よぉ」
おぅ。
俺も顔を合わさず、どことなく他人事のように挨拶を返した。
朝倉が気まずく言葉を続けてくる。
「昨日は、その……悪いな。迷惑かけてしまって。上田にも、その……謝っといたから」
いや……別に。
福田が後ろから俺の背をシャーペンで突いてくる。
俺は振り向く。
……何?
「お前ら二人、喧嘩でもしたのか? いつもと反応違くね?」
「別に」
別に。
俺は振り戻り、朝倉とほぼ同時に答えた。
「……ふーん」
……。
なんとなく察してか。
福田はそれ以上問いかけてくることなく会話を打ち切った。
……。
気にせず普段通りに。
俺は無言で、鞄の中から筆記用具と教科書、そしてノートを取り出した。
再度背後から。
福田がシャーペンで俺の背を突いて知らせてくる。
「もうすぐ授業終わるぜ」
それと同時。
教室内にチャイムが鳴り響く。
……。
俺は取り出したばかりの教科書とノートを無言で机の中に片付けた。
教師が授業の終わりを告げて、教室から去っていく。
みんなが一斉に席を立ち始めた。
休み時間だ。
各々自由な行動をとっている。
俺は振り向かず背中越しに福田に尋ねた。
なぁ福田。次の授業なんだっけ?
「いや、なんで朝倉に聞かないんだよ? お前らマジ喧嘩でもしたのか?」
……。
「……」
問うのを止め、福田が溜め息を吐いて諦めたように言葉を続けてくる。
「マタマタの授業だよ」
うげー。荒俣かよ。もう一時間ズラしてくればよかった。
「やめとけって。あいつ容赦なく教科書のページぶっ飛ばして進めていくから授業ついていけなくなるぞ」
ついていけない奴は屍になれってか。
──なぁ福田、今までの分のマタマタの授業ノート貸してくれ。
「いいぜ。五百万だ。ツケにしといてやる」
無駄に高ぇーな、オイ。
福田からノートを受け取って。
俺は筆記用具からシャーペンを取り出して自分のノートに書き写していった。
ふとそんな時だった。
隣から朝倉が静かにぼそりと俺の名を呼んでくる。
……何?
「話がある」
それ、今じゃないとダメか?
「今だ」
言って、ガタリと朝倉は席を立った。
はいはい。
溜め息混じりにそう答えて。
俺はシャーペンを机上に置き、ノート類をそのままにして席を立った。




