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第27話 俺にはのんびりしている時間がない


 落ち着きなく。

 俺はフォップを買い並ぶアデルさん達から程よく距離を置いた場所で、タイミングを見てさりげなく背を向けた。

 二人に見つからないように腕時計を確認する。

 残り時間がもうすぐ一時間を切ろうとしていた。


「そこで何をしているのですか?」


 怪しげに問いかけてくるミリアの声に、俺は思わずびくりと身を震わせた。

 恐る恐る振り返る。

 そこには疑わしき目で俺を見つめるミリアの姿。

 俺は慌てて腕時計を袖口に隠した。


 な、なんだよ急に。別に何もしてねぇよ。


 ミリアが手を差し出してくる。


「今、袖口に何か隠しましたよね? 見せてください」


 ……。


 俺の頬が大きく引きつった。

 内心でぼそりと呟く。


 こいつ、俺のことをどんだけ監視してんだ。ストーカーか?


 頑なに後ろ手を組んで袖口を隠し、俺は拒否の意を彼女に示した。

 彼女の顔が一気に不機嫌になる。

 俺は動揺ながらに言い返した。


 べ、別に何も隠してねぇって。


「じゃぁ見せてください」


 いいだろ、別に。関係ないだろ。


 そんな時だった。

 紙に包まれたフォップを三つ両手に持ったアデルさんが、俺とミリアの傍に戻ってきた。


「いったいどうしたというのだ?」


 すかさずミリアがアデルさんに訴える。


「聞いてください、アデル様。この者が袖口に何か怪しげなものを隠しているのです。きちんと問いただすべきです」


「ミリアよ」


 言って。

 アデルさんが半ば強引にミリアの手にフォップを握らせる。


「良いか、ミリアよ。勇者とはいつ如何なる時でも腹を空かせてはならぬ。

 なぜなら──」


「はい、アデル様。なぜなら助けを求められた時に空腹では真の力が発揮されないからです。そうですよね?」


「うむ」


 なんなんだ、こいつら。


 ──と、俺は内心でそう思った。


「聞け、弟子二号よ」


 あ、はい。


 アデルさんの言葉に俺は素直に耳を傾ける。


「良いか、ケイよ。勇者とは、いつ如何なる時も空腹であってはならぬ。

 耳を澄ませよ、声を聞け。

 どこかで助けを求める声は聞こえて来ぬか?」


 全然聞こえてこないです。はい。


「うむ。そうか。ならば食事をしよう。

 勇者たる者、食事は常に手早く簡単に済ませるものだ。

 助けを求める声に間に合わぬようであってはならぬ。食事を差し出すほどの余裕を持て。それが勇者の在るべき姿だ」


 はぁ、そうですね。そー思います。確かに、はい。


 俺は魂抜けた薄い反応で肯定した。

 そんな俺の手にアデルさんがフォップを手渡してくる。


 え、いいんですか? 俺の分まで。


「何を言う。お前さんは我輩の弟子であろう。遠慮はいらぬ。さぁ食うが良い」


 ありがとうございます。いただきます。


 作りたてのフォップはほんのり心地良い温かさだった。

 柔らかなパンに挟まれた肉汁ジューシーで炙りたてのドラゴンの肉が、皮はパリパリと香ばしく、中の肉は柔らかいと、なんとも食欲をそそるおいしそうな匂いを漂わせていた。

 途端に俺の腹のムシが鳴る。

 そういえば俺、昼飯をまだ食べてなかったんだっけ……。


「いつまで眺めているんですか? せっかくのフォップが冷めてしまいます」


 え?


 言われ。

 俺はミリアへと目を向けた。

 すでにそこには完食したミリアの姿があった。


 ──って、食うの早すぎだろ!?


 俺はツッコまずにはいられなかった。


「うむ。やはり出来たてのフォップは美味い」


 えぇっ!?


 気付けばアデルさんもいつの間にか完食していた。

 いったいなんなんだ、この人達。

 食うのが早すぎだろ。バーガー早食い選手権でも目指しているのだろうか? つーか、どんだけスクランブル発進する気だよ。


 恐ろしい職業だな、勇者って……。


 呟いて。

 俺はマイペースにフォップにかじりついた。

 味付けされたドラゴンの肉汁が、ぶわっと口の中に広がる。

 あーマジで美味い。東京で店を出したら絶対完売する美味さだ。夜食に一つ持ち帰りたいなぁ。無理だろうけど。

 俺は一口一口、ゆっくりとフォップを味わった。

 ふと。

 頭上にいたミニチュア・ジュゴンが、片ヒレで俺頭をぺしぺしと叩いてくる。


 痛、痛いよ、なんだよ?


『急げ。もうすぐ船が出る。早く食え』


 え? もう船が出るのか?


「ん? どうした、ケイよ。船がどうかしたのか?」


 あ。え、いや、あの……


 つい声に出してしまった。

 アデルさんに問われ、俺は慌てて取り繕う。

 なるべく自然にアデルさんに説明する。


 いや、その、なんか、もうすぐ船が出ますよみたいな感じの、そんな話し声が向こうから聞こえてきたというか、えっと……その……たしか向こうから


 俺は適当な方角に視線を向けた。

 アデルさんもミリアも俺の視線先を目で追う。

 しかし、そこには誰も居なかった。


「話し声が、ですか?」


「お前さんの周りには誰も居ないようだが?」


 ……。


 俺は慌てる。


 ──じゃなくて、なんとなく俺がそう思っただけなんです。

 あの、だから、急いでターミナルに戻らないと船が出発するかもしれないって……

 だからあの、俺、先にターミナルに戻ります!


 くるりと踵を返す俺の肩をアデルさんがガシッと掴んでくる。

 俺は焦った。


 あの、なんか上手く説明できなくてすみません! 俺、急いでるんで! 


 俺を掴んだままで、アデルさんが肩を竦ませ言ってくる。


「そう逃げるな。我輩はお前さんを責めているのではない。知りたいだけなのだ。

 それにしても、船が出るとよくわかったな。もしやお前さん、帆船に何度か乗ったことがあるのか?」


 え、いや、それはその……


 肯定すべきか拒否むべきか。

 曖昧に答えて。

 答えに行き詰まった俺は、内心でおっちゃんに助けを求める。


『なんだ?』


 この状況をどう説明すればいい? もうすぐ船が出るんだろ? 俺、帆船なんて乗ったことないから二人にどう説明すればいいか分かんねーよ。


『そうだなぁ……』


 “そうだなぁ”じゃねぇだろ!

 なに悠長に考えてんだ? 船に乗り遅れたらどーすんだよ。

 ──ん? ってか、待てよ。そもそもなんで、もうすぐ船が出ること知ってんだ?

 もしかしておっちゃん、船に乗ったことがあるのか? 【オリロアン】へ行ったことがないとか嘘だろ?


 鼻で笑って、おっちゃんが言葉を返してくる。


『さぁ。どうだろうなぁ……』


 ふざけんなよ、おっちゃん! また俺を何かに誘導しようとしてるだろ!


 頭上のミニチュア・ジュゴンがやれやれと溜め息を吐く。

 それに合わせておっちゃんの呆れた声が聞こえてきた。


『冗談だ』


 冗談?


『お前を騙すつもりがあるならこんな姿にはなっていない。

 帆船なんてどこの国でも乗る機会はある』


 そりゃそうだけど……


『空を見上げてみろ』


 空を?


 言われて俺は空を見上げた。


『鳥が飛んでいるのが分かるか?』


 あ、うん。何十羽も群れになって港の方向に飛んでいってる。


『帆船の出航準備が始まると、港にキドリが集まるんだ』


 でもなんで鳥が港に?


『一掃式といって、必ず出航準備前に海に向けてドデカい大砲を撃つ。港付近の魔物を追い払う為のな。

 その大砲の影響で、気絶した海老や小魚が海面に浮かぶ。それをキドリが狙ってやってくるのさ』


 へぇ……。


『知りたいことがあれば空を見ろ。大抵のことは空が教えてくれる』


 なぁ、おっちゃん。


『なんだ?』


 なんでミニチュア・ジュゴンになってまで危険な海を泳いで渡ろうとしたんだ?

 空は何も教えてくれなかったのか?


『そういう時は前を見ろ。危険は常に目の前にある』


 ……。


 言われて、俺は空から視線を落として前を見る。

 俺の目の前には不機嫌な顔をしたミリアが、何か言いたげに佇んでいた。


happy メンテナンス・クリーニング!

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