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第24話 素敵な出会い


 おっちゃんに誘導され、向かった先で見たものは──。

 帆船ターミナル前に設置された掲示板だった。

 そこに貼られた一枚の紙。

 無意識に。

 俺はそこに書かれた異国文字に手を翳かざし、撫でるように指先を文字の上にスライドさせていった。

 文字に光が灯り、それが吸い込まれるように頭の中へと入ってくる。


 船での雑用者、募集中?


『翻訳機能を与えた覚えはないんだがな』


 え?


 言われてようやく、俺はハッとしたように掲示板から手を退けた。

 自分でやっておきながら不思議に。

 俺は自分の掌を目前に寄せると、それを呆然と見つめた。


 本当だ……。俺、何してんだろう。


『大方見当はついているけどな。お前が以前口にした【星の雫草】。あれは絶対にお前が口にしてはいけないものだった。

 恐らく効力はだいぶ薄れてきているだろうが、その副作用が脳回路を狂わせている』


 狂わせている?


『あぁ。人格というか、記憶的なものだ。

 まぁ一時的なものだろう。時が経てば自然と少しずつ治るとは思うが……』


 思う、が? 治らないかもしれないってことか?


『まぁそうだな。俺が心配しているのはお前が無意識にそれを行っているということだ。

 もしかすると、それが癖として一生残ってしまうかもしれん。

 声は掛けてやるから気付いたら意識して直すことを心掛けろ』


 わ、分かった。


『とにかくだ。俺がここに案内したのは他でもない。この紙が読めたのなら言わずもがな分かるはずだ。

 【オリロアン】まで無料タダで乗船する為にはこれしか方法がない。その為には──』


 俺に働けってか?


『そういうことだ。【オリロアン】までの道のりを魔物と戦わず他力本願で行くにはこれしかない。しかも体力も使わないし、金もかからない』


 なぁ、おっちゃん。訴えてもいいか?


『誰にだ?』


 この世界では未成年者の労働が許されているのか?


『この世界でそんなこと言ってると餓死するぞ』


 いや、分かるけどさ。


 ふと。

 俺の隣にスッと現れる一人の男。

 男は掲示板に貼られた紙を見て、ふむと唸った。

 そしてその隣に居る少女へと野太い声で話しかける。


「船での雑用者募集中か。これなら【オリロアン】までの道のりを魔物と戦わず他力本願で行けるな。

 しかも体力も使わないし、金もかからない。

 それに勇者とは正義だ。

 誰かの役に立つことで、それが恩義となる」


 ──!?


 俺はびくりと身を震わせてその場に固まった。

 聞き覚えのある声。

 忘れもしないこのフレーズ。

 まさか……。

 次いで、聞き覚えのある少女の声が聞こえてくる。


「はい、アデル様。勇者とは正義です。もちろんこれは誰かの役に立つことであり、立派な恩義で──」


 ……。


 声が、止まった……。

 俺は恐る恐る機械的な動きで隣へと視線を向けた。

 そこには山賊の頭領のような風貌をした見覚えのある男と、露出度のある踊り子の服を着たちょっとセクシーな見覚えある少女がいた。

 二人ともぽかんとした顔で俺を見て驚いている。

 俺の手がじわりと汗ばんだ。

 顔から血の気が引く。

 なんだろう、この切迫感……。

 まるで肉食獣に睨まれた草食獣の心境だ。


 ……。


 俺は見なかったフリをして、他人事のようにそっと視線を逸らした。

 二人が声を揃えて俺を指差してくる。


「あ。こんなところに弟子二号が」


 ……。


 無言で。

 俺はくるりと彼らに背を向けると、その場から猛ダッシュで逃げ出した。





 ※




 ──数分後。

 俺は二人に捕まってしまった。



フライング メリークリスマス・イブ チェーン

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