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第23話 準備ができたとはどういう意味だ?


 砂漠の港街というのだろうか。

 俺たちが勇者祭りで居た街──【水の都シーシャ・タ】を北よりの門に出て、そこから程良く離れた隣に在る小さな港街。

 小規模というだけで、雰囲気はあまりシーシャ・タと変わらないように思える。

 でもこっちの街の方が、港に近く直接物流取引をするせいか威勢もよく、売り屋に活気があった。

 そんな街中を人混みをすり抜けながら、俺は一人歩いていた。

 もちろん頭上のミニチュア・ジュゴンも健在だ。

 フードから顔をちょこんとだけ出して、辺りを見回している。

 俺は内心でおっちゃんに話しかけた。


 なぁ、おっちゃん。


『なんだ?』


 俺さ、【オリロアン】にダチが居るって話したはずなんだが。


『あぁそうだな』


 なんで【オリロアン】に出現させてくれなかったんだ?


『俺がいつ、【オリロアン】に出現させると言った?』


 たしかにそれは聞いてない。でもさ、この街に居たってダチは居ないんだぞ?


『誤解しているようだから一つ言っておく。

 俺は目的座標エーテル・ポイントという大きな転移魔法を扱えない』


 扱えない? おっちゃんにも扱えない魔法ものがあるのか?


『正確に言えば“扱うことが出来ない”、だ。

 今まで通ったことのある道や街に道標チェック・ポインタを仕掛けて、そこへ転移することなら可能だ。

 しかし全くの未知なる場所となると、そこへ自力で行くしか方法がない』


 “チェック・ポインタ”と“エーテル・ポイント”の違いって何?


道標チェック・ポインタは、ある程度の魔力があれば誰でも扱う事は可能だ。

 だが、目的座標エーテル・ポイントは、宮廷魔導士の地位のある者且つ、ある程度の魔法に関する知識がないと扱えない代物なんだ。

 以前、お前に【魔法の定義】について話したことが──』


 ない。


『そうか。そいつぁ悪かった。

 良い機会だ。今からお前に説明しよう。

 お前は向こうの世界で普通に家電製品を扱えるか?』


 は? なに突然、その質問。


『いいから答えろ』


 意味わかんねぇ。


『そうか、分からないのか。可哀想に。原始的生活の方がお前には──』


 “扱えるから何だってんだ”って訊いてるんだよ、俺は。いちいち腹立つなぁ。


『要領は同じだ。

 つまり、魔力と知識さえあれば扱える。そのどちらかが欠けてしまうと扱うことは出来ない。

 お前にはクトゥルクの魔力がある。あとは知識さえあればエーテル・ポイントを簡単に扱うことが出来る。

 その知識──つまり【魔法の定義】を知り、正しい扱い方を身に付ければ可能だということだ』


 正しい扱い方?


『そうだ。【魔法の定義】を知らずに、莫大な魔力を持つ者が最上級魔法を扱うと大変なことになる』


 大変なこと?


『お前、電子レンジとやらにアルミホイルというものを入れたらどうなると思う?』


 無駄に詳しいな、おっちゃん。


『伊達に|変態癖(盗み聞き)やってるわけじゃない。俺を嘗めんな』


 オイ。


『いいから答えろ。どうなると思う?』


 大変なことになる。


『つまりそういうことだ。定義を知らずに魔法を使うと──死ぬ』


 ……。


 俺の頬が引きつった。


 あのさぁ、おっちゃん。そういう大事なことは最初に説明しておいてくれないか?


『じゃぁ次から気をつけろ』


 軽く流すなよ。もっと責任感持てよ。


『“リターン・テッド”、と言っても分からんだろうな』


 あー、うん。


『何かを得れば何かが犠牲になる。

 お前もこの世界に居れば、いつか複雑な魔術構成を組んだ高度な魔法を目にすることがあるだろう。その時はこの言葉を思い出すといい。

 ──“その魔法は、何かを得る為に何かを犠牲にした【殺人魔法】である”ということを』


 ……。


 ごくりと俺は唾を飲み込んだ。

 次からはきちんと調べてから魔法を使おう、と。


『話を戻すが、道標チェック・ポインタは誰でも扱える。

【オリロアン】に着いたらそのやり方を教えてやるから俺の指示にはきちんと従え』


 うん、分かった。


『素直だな。

 よし、じゃぁ早速【オリロアン】を目指して旅立とう』


 いや待てよ。今から俺、自力でここから【オリロアン】へ行くのか?


『そうだ』


 俺、時間がないんだけど。なんとか魔法で──


『だからその事情を、今説明してやったとこだが?』


 冗談だろ?


『マジだ』


 え、ちょ、待てよ。俺、四時間しかここに居る時間ないんだぞ? それを──


 ミニチュア・ジュゴンが話題を切るように両ヒレを叩き合わせる。


『さぁスタートだ。地道にやっていこう』


 地道って……そんなの悠長なこと無理に決まってるだろ。ダチの命がかかってんだぞ?


 ミニチュア・ジュゴンが遠い目をしてお空に視線を送る。


『俺は俺なりに頑張った。この姿になったのも、砂海を渡って【オリロアン】に行きたかったからだ。その方が最短ルートだったし、なによりここから直線ってのも魅力があってな。俺は砂海の大海原に飛び込んだ。

 ところがどっこい。砂海の中は化け物どもの宝庫だった。俺は命からがら逃げ出した』


 陸路はないのか?


『残念ながら陸路は結界が届いていない。そっちの方が遥かに危険だ。

 それよりも物流取引で使われている砂海ルートの方が太陽も差し込むし、結界内に守られていてまだマシだ』


 マシ? マシってどういうことだ?


『化け物が“絶対に出ない”というわけじゃないってことだ』


 ──で?


『ん?』


 俺にそんな危険な冒険をやれって言いたいのか? 自分が怖かったから代わりに俺がやれと、そう言いたいのか?


『俺に苦労させてお前は楽に【オリロアン】にご到着ってか。ムシの良い話だな』


 分かったよ。やるよ、やればいいんだろ。


『心配するな。俺も一緒に行ってやる。それにこれはお前じゃないと出来ないことなんだ』


 俺にしか出来ない?


 ミニチュア・ジュゴンが片ヒレをかわいく振ってくる。


『俺にこの姿で何が出来る?』


 ……。

 自業自得だろ、とは言えなかった。


『いいから聞け』


 何?


『今から砂海ルートで【オリロアン】へ向かう。その為には大型帆船に乗る必要がある。

 ──その乗船券をこの街で手に入れろ』


 乗船券? ってことは、フェリー・ターミナルみたいな所へ行けばいいんだな?


『そうだ』


 金は?


『ない』


 ……。


『だが金が無くても乗る方法が一つある』


 窃盗か?


『警邏隊に捕まって牢にぶち込まれたいのか? お前』


 冗談だよ。やれと言われてもやらねーし。


『だったら方法は限られてくるばすだ』


 ……。


 なんだか嫌な予感しかしなかった。


ぷぅ三3:)JL

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