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第21話 頼るべき仲間


「そら、単なるお前の妄想が生み出した勘違いや」


 そっかなぁ。


 呟いて、俺は助手席の窓へと視線を移した。

 窓から見える都内の風景。

 俺はぽつりと言葉を続ける。


 芸能人でもコード・ネーム保持者は必ず一人はいると思う。その可能性を否定できないのは確かだ。


「だからって【杉下ゆいな】に限定することはないやろ。お前の願望ちゃうんか?」


 でも彼女自身が番組で言ってたんだ。“頭の中に小さいおっちゃんがいる”って。


 チャラい格好のJが、ノリの良い曲に合わせてハンドルを指で軽く叩いてリズムをとりながら言ってくる。


「そんなん番組のネタで言わされとっただけちゃうんか? ウソホン番組のレギュラー枠なんやろ? 彼女」


 やっぱりネタで言わされてただけなのかなぁ。


「【杉下ゆいな】が一度でも、番組で自分のコード・ネームを言うたことあるんか? ないやろ?」


 いや、それはないけど……


「せやったら、それは単なるお前の妄想や。確認のしようも無いしな」


 だよな。確認のしようが無いんだよなぁ。


「夢見過ぎや。忘れた方がええ」


 うん。そうする。


 ちょうど曲が終わって。

 新たな曲が始まった。

 それに合わせるかのように、Jが話題を変えてきた。


「腹減ったやろ?」


 俺は腕時計を確認する。


 あー、もうすぐ昼になるんだな。


「待ち合わせに遅れたから何か奢ったる。何食いたい?」


 い、いいよ別に。俺が呼び出したんだし。


「ええって。年上やし、奢ったる。あんま高いモンは奢ってやれんけどな」


 ……。


 無言で、俺は都内の風景へと視線を移す。

 正直腹は減っている。だが、それよりも先にやるべき事をしなければならない。

 俺は表情を変えると、Jに向け、重く口を開いた。


 ごめん、J。実は時間がないんだ。


「時間がないやと?」


 ……。


 俺は頷く。


 ダチが向こうの世界に引き込まれたまま、まだこっちの世界に帰ってきていないんだ。

 このまま放っておいたら確実にダチが死ぬ。

 俺はそれを助けたいんだ。

 その為にはこの世界で誰かの協力が必要になる。

 J──俺に協力してくれないか?


 真剣に話を切り出した俺に気遣ってか、Jが車の音楽を止めてくれた。

 尋ねてくる。


「それはつまり、ダチがコード・ネーム保持者だったっちゅーことか?」


 ……たぶん。


「たぶんやと?」


 分からないんだ。向こうの世界に引き込まれたまま戻ってきていないから確認のしようがない。


「戻ろうと思えば戻れるんちゃうんか? ログアウトすればええだけの話やろ」


 きっと出来ないんだ。──いや、出来ないようにされている。向こうの世界の奴に……。


 俺のせいで向こうの世界の奴に人質にされている、とは話せなかった。

 俺は言葉を続ける。


 ダチは向こうの世界で俺の助けを待っていると思う。けど、向こうの世界が広すぎてどこに居るのかさえ見当もつかない。


「捜すアテも無いのに向こうの世界へ行って、お前どないする気や?」


 捜すんだよ。それでもダチを捜したいんだ。ダチの顔を知ってるのは俺だけだし、捜せるのも俺だけだから……。


「だから俺にどう協力せぇちゅうんや?」


 俺の体を保護してほしい。

 俺が向こうの世界に行けるのは寝ている時だけだ。

 だからその間だけでも、寝ている俺の体を保護してほしい。


「“お前の体を保護しろ”って、そんなん言われたかて──」


 向こうの世界の話なんて誰が信じる?

 俺の両親に事情を話したって、きっと信じてくれない。

 頭の具合を疑われるだけだ。

 目が覚めたらまた病院の中。その繰り返し……。

 でもJなら──事情を知ってるコード・ネーム保持者同士のJなら、俺が何で寝ているのかも、そして絶対に目を覚ますことも分かってくれる。


「せやったら、俺と一緒に行けばええんちゃうんか? その方が時間も止まるし、日常に不都合ないやろ」


 可能なのか?


「ただし先方からの|声が聞こえてきた時(お呼びだし)に限りやけどな。それがいつになるかは約束でけへん」


 それじゃ遅いんだ。


「そんなに時間ないんか?」


 ダチはもう何日もこっちの世界に戻ってきていない。このままだとこっちの世界のダチの体が保たない。


「……」


 頼む、J。俺に協力してくれないか?


 Jは答えてこなかった。

 ただ何かを考え込むように前を向いたまま、ハンドルをトントンと指で叩き続ける。

 赤信号になり、車が止まった。

 一時的にエンジン音が消え、車内が無音の時間に包まれる。


 ……。


 しばらくして。

 Jがぽつりと言葉を切り出してきた。


「ログアウト出来るんか?」


 え、誰?


「お前」


 俺?


「前に病院で言うてたやろ。お前だけログアウト機能がついてへんて。

 それ、改善出来たんか?」


 ……。


「まさかそれも出来んと、俺に協力頼んどるわけやないやろな?」


 それは……向こうの世界のおっちゃんがちゃんとやってくれると思う。


「ほんまそいつ信用出来る奴なんか? 騙されてお前も帰れなくなってしもたらどないすんねん。そこまでのこと考えとるんか?」


 ……。


 視線を落として、俺は言葉に詰まった。

 Jが不機嫌に語気を強めて言ってくる。


「お前は自業自得でそれでええかもしれん。けど、俺はどないすんねん? お前の両親とは何の面識もない。世間から見れば、俺とお前はネットで知り会うただけの赤の他人や。

 こんなん一歩間違えば誘拐犯や。それに加えてお前も目覚めんと、俺殺人犯やんか。

 他人を地獄に突き落としてでもやり通そうとしていることがあるなら、それはやり方として間違っとるんちゃうんか?」


 ……。


 信号が変わり、車にエンジンがかかって動き出す。

 俺はぽつりと答える。


 最初は一人で全部解決しようと思った。

 誰にも言わなくても俺一人で解決出来るって──きっと何とかなるって、簡単にそう思い込んでいた……。

 でもそれは間違いだって気付いたんだ。

 それをおっちゃんが教えてくれた。

 このまま一人で問題を抱え込んでいても、ダチを捜しきれずに死なせてしまうかもしれない。

 もしかしたら俺自身も何も出来ずに巻き込まれて死ぬかもしれない。


「……」


 誰かの協力無しだとダチは救えない。

 みんなに土下座してでも協力を頼んで早くダチを助け出さないと、このままじゃほんとにヤバいんだよ。 


 俺は視線をJへと向ける。


 頼む、J。俺に力を貸してくれ。

 ダチを向こうの世界から助け出したいんだ。

 戻ってくるよ、必ず。

 限られた時間の中でダチを捜し、でも時間が来たらどんな手段を使ってでも俺はこの世界に戻る。

 ──この世界が、俺の生きていく世界だから。


来年

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