第16話 朝倉奪還作戦
(ФωФ)
今日も、俺の隣の席は無人だった。
理由は体調不良らしい。
休み時間へと突入した教室内は、人の話し声や物音で騒がしく、非常に混雑気味だった。
ふと、俺の席にミッチーがやってくる。
開いた隣の席に腰を下ろし、俺に話しかけてくる。
「なぁUMA。朝倉の様子、どうだった?」
いや、うーん……。
すると後ろの席にいた福田が、俺の背をシャーペンで突いて話しかけてくる。
「やっぱさ、お前一人じゃなくてオレ達みんなで説得した方がよくねーか?」
「なんなら俺、今日の塾休むから一緒に行かないか?」
「みんなでだよ。オレも部活休んで行こうと思ってたし」
いや、大丈夫だ。
俺は二人の話に断りを入れた。
朝倉のことは俺一人で何とかするから。
これ以上ダチをあの世界に巻き込むわけにはいかない。全ては俺のせいでこうなったのだから。
朝倉の机を見つめ、俺は誓う。
絶対に俺が何とかしてみせる。
この命にかえても、必ず。
ミッチーと福田がドン引くように俺から少し離れる。
「なんだよ、その気合い入りまくりの重い台詞……」
「結局朝倉は本当に風邪なのか? 否か?」
いつの間に来たのか上田と柏原もちゃっかり会話に入ってくる。
同じくドン引くように俺から少し離れ、
「やめろよUMA、その台詞。お前さ、ゲームしてた時も決まって全滅前にその台詞吐き捨ててたよな?」
「オレ、朝倉よりお前の体調の方がマジ気になる。毎日無遅刻だったお前が、退院後はずっと遅刻してくるじゃん? その理由って何?」
……。
俺は気まずく視線を逸らしてぽりぽりと頬を掻いた。
ぼそりと告げる。
か、家庭の事情ってやつだから、その……気にしないでほしいというか
ダチが口を開こうとした時、タイミング良く授業開始のチャイムが鳴った。
教師が入ってきて、散らばった生徒たちが慌ただしく席に戻る。
俺は内心ホッとした。
これ以上追求されても上手く答えられない。
下手すりゃマザコンのレッテルを貼られそうだ。
日直の号令が掛かる。
生徒たちは一斉に席を立ち、
「礼」
教師に向けて一礼した後、席につく。
そしていつも通りにまた授業が始まった。
いつも通りに俺は教師の指示のもと、教科書とノートを机に広げる。
シャーペンを手に、いつも通りの授業スタイルで授業に取り組む。
そんな何気なしの日常を送りながら、俺は頭の中でおっちゃんに話しかけた。
『おぅ。どうだった? Jとの連絡は無事ついたのか?』
俺は内心で答える。
いや、運転中で電話に出られないそうだ。留守電にメッセージを入れといたけど、いつ聞くかは分からない。
『そうか』
あ、おっちゃん。そういや結衣──Mにも例の件、言ってた方がいいよな?
『マジやめろ、お前。マリアベルには知らせるな』
え? なんで?
恐怖に強張る声で、おっちゃんがぽつりと言ってくる。
『か、顔を合わせた途端に、今まで犯した罪の数々を倍返しに清算させられるからだ』
いや、何やったんだよ? おっちゃん。
『後ろめたいことを色々な。大人の事情ってやつだ』
フッ──。
俺は内心で勝ち誇るように笑った。
悪いな、おっちゃん。もう結衣には連絡済みだ。思う存分清算してくれ。
『NOぉぉぉぉォォォォォッ!!!』
そういうわけで、おっちゃん。
ふと。
教師と目が合い、教師が俺の名を呼んでくる。
「今の例題1の問いかけに対する答えはなんだと思う?」
はい。
俺は席を立ち、頭の中のおっちゃんに向けるようにして教師の質問に答える。
I don't want to become such adults.




