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神社の忍者は貴族の末裔  作者: 陸 なるみ


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10/18

二人でできること

 

 第三土曜日が近付いてきているのに、学校のあちこちで見かける加藤君が落ち込んで見える。眩しいほどの外向きオーラを放っていたのが萎んだ。

 僕が今まで知ってる信也なら、次の出し物を考えてウキウキしているハズ。

 気になったから、終業後走って校門に向かい待ち伏せした。三回目、水曜日になってやっと捕まえた。

 こないだの公園まで連れだって歩いた。

 

「どうしたの? 何か元気ないよ?」

「そう? だとしたらお母さんだね。僕は元気だけど」

「加藤さん、身体の調子が悪いとか?」

「ううん、身体は大丈夫だと思う。何か、悩んでる。明るい曲弾いても明るく聞こえない」


 そうか、信也とお母さんはピアノで気持ちがバレてしまったりするんだ。僕の歌や笛も体調や気分に左右されるもの。父さんはいつもそれを見破ってた。

 そんな微妙なところまで聞きとれる間柄だということだけれど。


「今までは何でも、お父さんのこと以外なら話してくれてたのに」

 父親のことは禁句。あんなに仲のいい音楽親子でも、そりゃ、いろいろあるんだろう。

「明るい曲がどうなっちゃうの?」

 少しばかり「音楽神社」の神官ぶってみようか。


「まだるっこしいの。ためらってる」

「例えば何の曲?」

「ラプソディ・イン・ブルー」

「サマータイムみたいになっちゃってる?」

 ジョークだから笑って、と心の中で念じた。

 サマータイムは同じ作曲家ガーシュインの間延びしがちな短調な曲。


「だよね、あれはないよね。暑過ぎてどろりんとしてんのか、子守り歌だとしてもクラすぎる」

「歌詞に裏の意味があるのか深読みしちゃうよね」

「え、僕歌詞までは知らない」


 笑ってはくれなかった。分析結果の発表みたいなコメント。

「ラプソディ弾くの大変じゃない? 忙しそう」

「うん、だから乗り移られたみたいに頭真っ白てか、真っ青にしたい時に弾く曲。なのに悩んじゃってるの」

 ブルーは青のブルーというか、ジャズのブルーと掛詞だろうけど、と思いながら答えた。

「拍のぎりぎりまで溜めてるのかな、信也の来て欲しい時に来てないんだろうね」


 初めて面と向かって呼び捨てした僕に、丸い目をもっと見開いた。

「やっぱ、あきふみってじっちゃんの孫だね」

「何で急にそんなこと言うの?」

「じっちゃんぽいから」

 加藤奈緒子さんは信者じゃないけど、じっちゃんと音楽談義をすることはあるのかもしれない。


「土曜日唄ってみようか、一緒に」

 僕から提案してみた。信也は信也らしくあって欲しい。

「唄える?」

「プァーララララララ、ララララ、タタタンタタターラララ〜」

「テロロリンリン、テロロリンリン」

 信也は付け足しておいて、愚問だったかと肩をすくめた。

「だったら伴奏をそっちに任せて僕は踊ろうかな。だとしたら全部は長いね。編曲しよう。今の冒頭と、第一主題、第二主題、第一主題に戻って終わり」


 信也のいう主題ふたつとはメインテーマとスローパートだろうと見当をつけて唄ってみた。

「いいねぇ、持つべきものはあきふみだよな」

 信也の声に生気が足りないから、褒め言葉が胸に響かなかった。

「僕が次の主題をスキャットしたらそっちに移って繰り返して。歌詞つけて唄うかもしれないから覚悟しといてね」


「わかった。それで、笛と声とどっちがいい?」

「笛? リコーダー?」

「日本の横笛」

「吹けるんだ」

「たぶん」


「唄うほうが合いの手いれやすくない?」

「合いの手も入れていいの?」

「いくらでも。メロディだけでも忙しいだろうけど」

「お母さん、喜んでくれる?」

「と思う。好きな曲だし。テンポは? 最後とかすごいゆっくりにするかも、だけど」

「いいよ、何でも。身体の動きやら息やら見ながら合わす」


「やっぱりあきふみだね」

「それどういう意味?」

「話が早い。すぐ通じる」

 僕は首を傾げたけれど、信也は納得している。


「あ、家では練習しないでよ? じっちゃんに聞かれちゃだめ」

「内緒で、だね」

 明日、親戚の音楽教室に行こう。雅楽の和笛や箏(そう)を習っているけれど、ピアノもある、楽譜もあるはずだ。ガーシュイン吹きたいって言ったら先生のほうが熱中しそう。



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