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異世界転生太平記  作者: クマはんたー
一章
5/32

5 2人目の異邦人


 深く深呼吸をし、魂に意識を向ける。


『95/95』


 視える数字を消さないように……、あれ?


「なあ、なんかやたらハッキリクッキリ見えるんだが──」

「ああ、たぶん慣れたんだよ」


 軽く返されたが、なんか納得いかない。

 と、は言えだ、虎っ娘をこのままにしておく訳にはいかない。相変わらず瞳に生気は感じられず、空から釣られたように立っている。


 そっと立派な腹筋の割れた腹部に手を添える。

 これで合ってるかはわからないが、なんだかイケそうな気がする!


「エッチだなあ」


 ニヤつきながら言うヤツの言葉はあえてスルーだ。やましくない、やましくないったらないんだ!!

 ヤツから受け取ったのとは逆、全身に満遍なく流し込むイメージ。

 腹から足、腕、頭。そして、各指先、毛先まで。

器に零れる位まで注ぎ込む感じで。

 キャラメイクでわかったことは、とにかく思い、想い、祈り、願い、考えず、そうであること、そうではないとおかしいとまでに思うことで、想像を超えた創造に辿り着けるはずだ──、いや、辿り着ける! 一切の迷いも、不信感も要らない。ただ、そうであると疑わないこと。

 なんとなく右端に掠める様に見えている数値が、本来のものからゆっくりと減り始めた。


 『94/95』


 触れている部分から、温かみを感じる。開いていた瞳はゆっくりと閉じられ、少しずつ胸部ゆったりとしたリズムに動き出し、呼吸音もしてきた。


 『90/95』


 呼吸音が寝息のような音に変わり、腕や足を微動させ始めた。


 『83/95』


 さっきまで垂れ下がっていた細く長い虎尻尾が、ゆっくりと重力に逆らうように振られ始める。

 と言うか、与えてた筈なのに気付けば吸われてる

!?

 そろそろ、絞っていかないと……もしかしてヤバい?


『73/95』


 73っ!?


「ヤバいヤバいヤバいヤバいっ! ストップ! ストーーーーォ、ップ!!!?」


 思わず声が出るくらいに慌てて手を離す。

 す、数値は──。


 『68/95』


「入れ過ぎた! てか、吸われ過ぎたぁー!」


 わなわなと震える自らの手と虎っ娘を何度も交互に見て思う。

 たぶん、もう戻らない。感覚でわかる。アレはもう、こいつの魂だ。


 予定より減った数値に少しヘコんだが、まあ、それはそれだ。多いにこしたことはないし……、ないよな?

 そんな、訳のわからない不安にかられていたところ、不意に、目の前の虎っ娘に更なる変化が訪れる。

 今まで釣っていた何が無くなったかのように──。


「えっ!? ま、待て! 待て待て待て待て待て──」


 急に膝から落ちるように沈む虎っ娘を掴もうとして、左手が相手の右脇を抜け背中を抱え込み、右手が獣耳の後頭部を抱えてみたものの──。


 二人分の重さが地面からの吸引力に勝てるわけもなく、そのまま虎っ娘に覆い被さる様に倒れてしまった。


 地面は延び放題の雑草パラダイスであったお陰なのか軽い擦り傷で済んだっぽい。

 無意識下で倒れ込んだら、どんな怪我をするかわからない。抱きかかえるように頭を守れたのは僥倖と言える。


 だが、問題は、そこでは、ない!


 抱きかかえた。虎っ娘を下にして。これ第三者から見たら──。


「まさか、魂を受け渡した瞬間に押し倒すなんて……」


 後ろから聞こえる声の主は、怯えるような、怖れるような震える声で話してはいるが。


「いくら獣耳だからって、こんな野原でいきなりなんて、流石にワイルド過ぎるんじゃないかい?」


 間違いなく、ニヤついた顔で面白がっていることだろう。見なくてもわかる。

 ここはクールに、変な言い訳は余計にヤツのドツボにハマる!

 無言で、しかし名残惜しく、ゆっくりと地面に寝かせ振り返り言う。


「急に倒れるからびっ──」

「らっきーすけべ発動」


 言葉は被され意味を無くした。よりにもよって『らっきーすけべ』は無いだろ。

 とりあえず、咳払いしつつ空気を変え、改めて見ると、妙に生々しい人形の様な姿から、ただ眠っている姿へと変わっていた。

 魂の有無の重要さを身を持って知った感じだ。

 そんな中、ふとした疑問。


「これ……、自分で、起きる、よね?」

「……さあ?」


 もの凄くイイ笑顔で、首を横にコテンと倒して言った。

 

「いやいやいや、さあ? ってどういう──」


 慌てて問いただそうとした瞬間。


「ん、うぅ、んー」


 ヤツでも自分でもない呻き声に、とっさに目を向けると、身をよじる様に動かしている虎娘が目に入った。あれ? まさかの時間差? ヤツを見ればニマニマしたいやらしい笑みを携えこちらを見ている。

 はいはい、焦り過ぎ焦り過ぎ。

 とは言え悔しいので一頻りヤツを睨んでいたら──。


「っ! がはっっ!? はぁはぁはぁ……、はっ? あ、あれ? へっ?」


 もの凄い勢いで上半身が跳ね飛び、よほどの悪夢でも見ないとならなそうな起き方をした虎娘。

 まだ息も荒く、現状の把握が出来ていないのか、キョロキョロと首を辺り一面に回していたが、こちらの存在に気付き、じっと見つめてきた。


「お、おはよう」


 自分で創造したにもかかわらず、何を言えば良いかまったく検討がつかず、とりあえず挨拶してみた。


「お、おは、よう、ござい、ます?」


 反射的に返ってきた、と言う感じではあるが、それよりも驚きなのは──。


「に、日本語が、通じる」

 ヤツからは説明を受けていた。理解はしているつもりだ。ラノベや漫画だってそうだった。でも──。


「リアルで体感すると、もの凄え違和感がある」


 キョトン顔の虎っ娘に、とりあえず言葉が通じるなら、と問いかけることにした。


「身体に不調、と言うか立てる?」


 その言葉に、肩を回したり、腕を伸ばしたりした後、ゆっくりと立ち上がり、屈伸運動などを繰り返す。

 さっきまで気付かなかったが、全身に微かな体毛があるのだろう。金色の薄く見えない程の毛が太陽に反射しているのか、きらきらと輝き神々しくすら見える。

 だが、真に神々しいのはそれではない。

 上下運動するたびに自己主張を激しくしている双丘、いや、連山こそが神のレベルと言えよう。

 リズミカルに! そして大胆に!

 童貞達よ! 桃源郷はここにあった! 我は今、天女を見た──。


 あまりの景色に瞳から何かが零れて歪んでしまう。だが、拭き取らずに見つめる。


「うわぁぁ」


 後ろから聞こえた声に振り向くと、ヤツが自らの胸を隠すように身をひねり笑顔で言った。


「流石にヒクわぁ」

「無感情な笑顔を浮かべて、棒読みするんじゃない! 普通に傷付くだろうが!」


 無駄に器用なことしやがって。そんな文句をブツブツ呟いていると、虎娘が怪訝な表情を浮かべヤツと自分を交互に見ていた。


「どうした──んですか?」


 今更ながら丁寧語にしてみた。『です、ます』は互いの距離をあやふやにするには丁度良い。

 虎娘は、意を決したのか、恐る恐る問うてきた。


「あの、そちらは、人? なのですか? 言葉もまったくわかりませんし……」


 その言葉に驚きヤツを見ると、呆れた表情で返してきた。


「君がいつまでたってもボクをヤツ呼ばわりしてあやふやな存在にするからそうなるのさ。ボクは全であり1である。本来すべての魂に違うボクがいて、あの娘にはあの娘のボクがいるんだ」


 腕を組み、頬を膨らませ怒ったように続ける。


「だけど、あの娘には君の魂が入っている。本来見えない筈のボクが見えてるのはそういうことさ。つまり──」


 ヤツがヤツ呼ばわりしていることを知っているのはこの際良いとして、ここまで言われれば自分にもわかる。つまり──。


「何だかわからないあやふやなモノって定義にしてるからだ!」


 また虎娘の方を向き、ヤツを指差しながら問うてみる。


「ちなみに、何に見えます?」


 問われ、目を細めながらまるで、見えにくい文字でも見つめるように考え込む姿は、尻尾がゆらゆらと振られて可愛い。

 やがて答えは出たのだろう、一頻り頷いてからこちらを見つめつつ口を開いた。


「警視庁24時のモザイク掛かった犯人みたいです!」

「ああ、そういう感じ──って、ええっ!?」


 あからさまな異世界獣人虎娘の口から『警視庁24時』と『モザイク』の単語が出るだと!?

 驚き振り返ってヤツを見ると、虎娘の言葉がショックなのか、体育座りで背中を向けて沈んでいた。


 色々聞きたいことはあるが、何やら不憫に思えてきた。どうすれば良いかはなんとなくわかっているので、仕方がないが、本当に嫌々だが、本当に仕方がないが、認めるしかない。


 『神』


 その名すら人が勝手に作り出した呼び名でしかないかもしれない『超越者』。


『死神』『魂の運び手』『倶生神』『脱魂鬼』『神と言えばやたら髭が長い爺さん』『爺さんより女神の方が良い』『清楚な茶目っ気のある女神』『守り神と言うより寧ろストーカー』『清楚で茶目っ気とか(笑) そんなカワイイ者ではない』『見た目は認める、だが!』『見た目の幼さが余計に邪悪』『切って刻んですり潰す』『もはや邪神』『ロリ巨乳の悪夢』──etc、etc。


 よし! イメージはしっかりと固まった筈だ。

 改めて虎娘に振り向き聞いてみる。


「さあ、あの方はどうお見えですかっ?」


 満を持して姿勢を正し、自分のデザインした衣装を纏ったモデルを紹介するかの如く!

 我が神も腕を組み、偉そうにふんぞり返りながら直立されているではないか! 妙に乾いた笑顔で何らかの諦めを感じなくもないが、そこはまあ触れてはいけないのだろう。

 虎娘は困ったような苦笑いをしつつ、頬を指で掻きながら応えた。


「す、凄く神々しくて、美しくも儚い御尊顔なんですが……」


 ふむ『ですが』が気になるところではあるが、言葉を止めたのは伝えるのが難しいからであろう。無理強いをさせてはいけない。ゆっくりと回答を待っていると、怖ず怖ずとしかし、頬を朱に染めて伏し目がちにこたえた。


「な、なんと言うべきでしょうか、凄く発育のよろしい、よう……少女?」

「ははは、予想通りさ。イイ趣味してるよ、まったく! まったく!」


 まったくを二回も言った。大事なことなのだろうか?

 とりあえず神様の言葉は虎っ娘にも通じてるようで、走り出してしがみつきながら、何やら文句を言っている神様を苦笑いで宥めている。


 さて、仲間は出来た。神様も見えるようになった。次は……


「このあとどうするんだよ! 家とか! 飯とか! 服とか! 家とかっ!!」


 正直、残りのブツで新たな仲間を創ってる場合じゃない。

 実のところ精神力と言うかやる気と言うか──、とにかく、必要な何かが足りないことはわかる。恐らく今度こそ『削られた』のだろう。

 痛み系じゃないのが救いだが、何をどう削られたのかがわからないと言う別の恐怖は生まれた。

 当分創造は控えたい。

 そんな心の声は丸聞こえなのだろうけど──。


「異世界に来て、衣食住を求めるのは当然だけど、ボクにだってあげられるものとあげられないものがあるんだ」


 まあ、いきなり家は無理か。

 虎娘を見ると、衣食住に関してか、思案顔で俯いている。そうだよなあ、気付いたら異世界なんだから、もっと早く気付かないといけなかった。

 下手に神様とか居たし、何とかなる系かとチラッとでも思ったのは間違いだった。

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