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異世界転生太平記  作者: クマはんたー
一章
32/32

32 ガローへのお願い

 見せるための手合わせも無事に終わり、互いに深呼吸をし落ち着いてから一礼する。

 途端に周りから歓声が挙がり、拍手の雨。

 おお、どうやら好評だったようだ。良かった良かった。

 片手を上げて応えつつ皆の元に行く。すると、真っ先に声を掛けたのはガローさんだ。


「いやはや、2人とも恐ろしい程の武のキレ。思わず見入ったぞ! あれ程の動きが出来るものは我らの地でも数える位にしか居るまいて!」


 同じく反応したのはサシャテラの2人。


「はじさん! 今の何スか! てか、ダイさんもっ!」


 サシャさん素が出てる素が!

 テラさんもやたらと首を縦に動かし肯定してくれる。ははっ、てれますわ!

 とりま、見せる物も見せた。

 このあと、ガローさん含め、腕に自信があると言う人たちと立ち合いをしたり、サシャテラも交互にダイナから構えやら何やらを見聞きし実践しながら教わったり、子供らが恐怖に震える目で見ていたので、自分はどこにも属していない自由な旅人であると伝え、無理強いはしないが、手伝い程度に働くなら、食住は保証すると伝えたら、脅えながらも従ってくれるようだ。

 残留村人のゴンダとボンドによれば、元々『あいつ』が連れてきた子供らなので、村の住民ではないそうだ。

 なんかそれも可哀想な話だ。

 もう、本当の家も親もいない、村自体が無くなったり、口減らしに捨てられたり──。

 記憶は無いが日本人の倫理観は活きている。

 流石に見捨てられないでしょ?

 まあ、ありがたいことに家さえ在ればダイナの『家事ハウスワーク』で無限食料、オレの『工作クラフトワーク』に材料さえあれば、どんなボロ屋もフルリフォームに服だって作れる。


「まあ、なんとかなるでしょ?」


 簡単に考えすぎているかもしれないが、今はそれでいく。そう決めた!

 難しいことは後回しだ!


 その後、ガローさんたちも満足し、遂に樽の中を見せて貰えることになった。

 中身は保存が効くように加工した食料や、衣服に武器の整備をする道具など、小屋の消耗品の補充入れ替えようの物資だったようで、次々に小屋へと運び込まれる……予定だった。

 しかし……。


「あ、あれ? 倉庫が小綺麗な部屋に?」

「……食料がまったく減ってない上に妙に新鮮に!」

「と、言うか……なんだこの綺麗な部屋……こんなだったか?」


 様変わりし過ぎた部屋に、ガローさんの

お供の方々は皆挙動不審。

 仕方あるまい、ご案内いたしますか。


 そして、New小屋をご案内後、ガローさんは直ぐに指令を出す。


「爺、直ぐに親父殿の元へ、はじめから買い取る商品を持って行け!」

「はっ、して若は?」


 まだ夕日には早いがそろそろいい時間だ。帰路がどれだけの距離かはわからないが、急がせるのは夜が、深くなる前に森を抜けるためだろう。

 そんなことを思っていると、ガローさんはとんでもないことを言う。


「ここに泊まる。供はいらん!」

「なっ、若独りででございますか!?」

「えっ! 泊まるのっ!?」


 なんかデジャブ。どっかの獅子姫も似たような流れだった。

 まあ、服やら何やらの布? っぽい製品もあるし、この量なら何枚か敷き布団やタオルケット的な物が作れるかな。

 あっ! 食料と樽も使えないか?


「ガローさん! 作った物の支払いなんですが」

「おお、思った以上の量だったからな! 正直足りぬが、爺に往復させ用意を──」


 おっと、即金の予定だったらしい。しかも足りないとか言ってる。ますます上客としてお付き合い末長くよろしくお願いしたい。

 だが、今は金よりも──。


「なら、その用意していただいている金額も無しで! それよりも、持ち込んでいただいている物資を入れ物ごと物々交換していただきたい!」

「金よりも、これを?」


 ガローさんが即金する位、オレの武器は良いものらしい。ならば全部で足りる気がする!

 メンテ工具があれば、『工作クラフトワーク』のイメージかま広がるし、中身の食料は例の村に全部送り付けてやれば良い。服とかもこの辺りの普段着を知れるし、材料にも使える。

 そしてデカイ樽も!

 物資はいくらあっても困らない!


 営業スマイルを浮かべているオレに怪訝な様子のガローさんだったが、そこまで悩まずにこたえた。


「元々ここに置いていく物でもあるし、それでいて殆どが不要の様だからな。それで良いなら寧ろこちらとしては有難い」

「ではでは、倉庫の物は好きに持って行って下さい」


 オレの言葉に頷くと、ガローさんは指示をして倉庫からどんどん持ち出していった。

 よしよし、ではこちらも動きますか。


「ダイナは服とかが入ってる樽を空にして中身の確認。使えそうなのと、駄目なの分けて。サシャさん!」


 わかりました、と良い返事で樽の元に行くダイナと入れ替わりで、サシャさんが近づいてきた。


「はじさん、どうしたんス?」

「うん、例の村なんだけど、今から出たら帰路隊に追い付けるかなあ?」


 サシャさんは、首を上げたり捻ったりしながら一唸りしてこたえる。


「いやあ、きついっスね。アテには無理っス」

「……うーん、そうかあ。ならどうしようかなあ」

「どうしたはじめ。何かあったか?」


 1人で悩んでいると、ガローさんが問うてきた。


「い、いえ。領内のこと故に、お気になさらず」


 サシャさんが慌てて丁寧モードで言うが、ガローさんは首を捻りオレだけに視線を向けて更に問う。


「……はじめは何処にも属していない、言わば客人であろう? そのはじめに相談出来て、こちらに出来ない話とは?」

「はじめ殿は今件に関しては当事者でもあります。とは言え、これらの話は内々にて解決させていただきますので、ガロー殿にはお心を砕かれずとも、そのお気持ちだけで充分にございます」

「ほお?」


 他領地の(多分)偉い人であるガローさん。頼っちゃうと色々あるんだろうな。

 感覚的には外国なのか?

 あんまり関わりたくないので、常に中立でいたい。

 そんなことを考えていたオレだったが、ガローさんの視線が未だにこちらにあることに気付いた。

 あれ? めっちゃオレのこと見てね?

 視線に気付いたオレにガローさんは問う。


「はじめ、出来ることはないか?」

「ガロー殿! それはっ──」


 咄嗟に返すサシャさんだが、ガローさんは一睨みでそれより先を言わせない。


 言葉に詰まるサシャさんに、ふん、と満足気に鼻を鳴らすと、改めてこちらを向いて聞く。


「はじめ、恩を売るつもりはない。寧ろこちらからの頼みごとばかりだ。少しは返させてくれ」


 言うほど何かをしたつもりはないが……。

 サシャさんを見ると、何か切羽詰まった様な表情で横に首を振る。

 さて、どうしよう。

 ぶっちゃけ使えるなら使いたい。

 話を聞く限り既に村人は被害にあい、他国との戦にすら発展しそうな状況。村人たちも追い詰められたからこそここに来たわけで……。


「……サシャさん」

「は、はい」


 既にオレ次第の状況に身構えられている。

 どうにも仕方があるまいが……。


「村人コンビ連れてきて。聞きたいことがある」

「えっ──、わ、わかりました……っス」


 サシャさんはガローさんとオレを何度か見た後、諦めたようにその場を立った。

 大丈夫、多分悪いようにはならない……はず。


 待っている間は特に会話らしい会話もなく、サシャさんは2人を連れて急いで戻ってきた。


「2人に聞きたいんだけど、村に帰ってる人達の中に、文字や文章が読める人はいる?」


 オレの問いに牛猪コンビは顔を見合せたあと、こたえる。


「センタの奴が読めるだ。あいつは村長の手伝いもしとったから」

「ガンジぃもぉう、読めるぅはずぅだぁ」


 よしよし、ならば。


「サシャさん、一筆頼めるかい?」

「えっ、あ、アテ?」


 あり? まさかの書けない系か?


「ごめん、無理なら──」

「あっ、いえ、書けるっス……けど」


 サシャさんは書けると、よし、ならば!


「ちょっと待ってて!」


 チョイと薪置き場に走り、紙数枚と鉛筆を製作。

 木だけじゃ鉛筆はキツイかとも思ったが、意外とイケた! 駄目なら炭棒でも作って何とかしようかと思ったが、出来たのなら良し。

 急いで部屋に戻りサシャさんを1人端っこに連れていき文章を指示する。

 

『小屋に追加物資有り、到着次第戻れ。間に合わず村が襲われていたら生き残りを連れて小屋に戻れ』


「は、はじさん、これ」


 はい、話は聞きません。

 書き終えた手紙を作った別の紙で包み、中身が見えないのを確認してガローさんのところに戻る。


「竹前村はわかりますか?」

「ああ、河北の備蓄村だろ?」


 場所は大丈夫。ならば後は──。


「ガローさんたちがここに来る前に、そこの村人たちがここに物資を取りに来たんですよ」

「ほお、それで?」


 サシャさんへとかけた威圧は一切なく、オレに先へと促す様に問うガローさん。さてさて、ミスるなよオレ。


「正直ここにある物資を持たせましたが、心もとありません。しかし、ガローさんが沢山持ってきてくれましたから、追加が出来たから取りに来てって伝えたいんですよ」


 オレは先程の手紙をガローさんに向ける。

 手紙を一瞥して無言の声、『何故の秘密なのか?』と視線で問うてくる。

 嘘はない。だが、何故必要なのかは言えない。

 備蓄村で物質集め? 怪しいにも程がある。

 ガローさんサイドへの侵攻だって在りうる訳だからな。

 それでも協力を得なくてはならない。

 

「仕方ない」


 ならば、敵意は無いという信用を得るしかない。




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