31 面接の特技はみせてなんぼ
狼ヘッドのガローさん、顎が外れるのではないか、ってくらいだらしなく大口をあんぐりと開けていた。
そんで、一歩後ろいた梟さんは、様子のおかしいガローさんを訝しげに見つつ、部屋を覗いて固まった。
おかしい。サシャテラの使っていた部屋を、また倉庫部屋に変えて、クリエ部屋に一時置いていたオレの製作物たちを急いで並べたのだが──。
ちゃんと言ったよ? そこそこあるって。
見る前に。
だが、2人は呆れたって訳では無いだろう。
なんてことはない、全面木目張りの6畳間に『木刀』『石刀』『石の大剣』『割りばし飛行機』などなど、皆が驚いていた『売れそうな』商品を並べただけだ。
『木刀』に『石の大剣』は見本として渡しているから、そんなに驚くことだろうか?
確かに最初に受けた環境の指摘もある中で、と言うのはあるが……。
「これは、なんだ?」
何か微妙に震えながら、そっと倉庫を指差しガローさんは言葉を溢す。
えと、やっぱり不味かったか?
「一応、ガローさんが来たときに見せられるようにと……」
「いや、そうではなくて、この数だ……。材料は一体どこから?」
「……小屋の周りの木とか岩とかですけど」
これ、失敗か? やっぱりスキル説明しないとダメか?
オレの言葉に頭を振ったあとに深く、本当に深く呼吸後、ガローさんは言う。
「ダイナの恩恵を聞いた時も驚いたが、これもとんでもないな。一体どんな恩恵を? まあ、簡単には言えないだろうが、はじめの差し支えなければ教えてくれ」
おっ、これは黙秘権があると!
ならば社内秘ということで。
「申し訳ありませんが、日銭を稼ぎ、旅人として生きるための能力です。他の能力は教えられても、これはお教えすることが出来ません」
「そうか、まあそうだろうが…………んっ? 他の?」
おっ、あっさり引いてくれた。
まあ『剣豪』とかなら、ある意味舐められることも無いだろうし実演も出来るからな。
「はい。他のなら」
「……爺、聞いたな。──はじめ、他の恩恵は見せてもらっても?」
よしよし、食い付いたならそれで工作は有耶無耶に──。
「は、はじめ殿! 私にもそれを見せてはいただけませんか!?」
およ? 誰かと思えばサシャさんではないですか。
普通に話すサシャさんには違和感しかないが。
「えと、構わないですが、サシャさんはもう何回か見てるよ?」
「えっ?」
いや、驚かれても困る。目の前で何度も『一閃』してるし。まあ、いいか。
「それじゃあ、入ってすぐで申し訳ありませんが、皆さん外に行きましょう」
と、外に出たものの……。
「なんか、いっぱいいるね?」
皆出てきた。奥の部屋に居るはずの子供らも揃ってる。例の2人をサシャテラが1人づつ残りを残留2人。
で、何故か隣にはダイナが居る。
まあ、丁度良い。便利スキルだけ伝えて何か支障が出ても困る。スキルを狙った誘拐とか──。
「さて、始めますか。ダイナ手伝ってもらうよ?」
「はい!」
よい返事が返ってきたので、宣言通り始めた。
最初は口頭での内容説明のため、皆に近くへ集まってもらった。
集まったところで、オレの『剣豪』と、ダイナの『武芸』をかいつまんで説明し、皆の目の前で木を一閃したり、ダイナに徒手空拳にて木を倒させた。
まあ、分かりやすい攻撃力として見せたのだが、皆の驚く理由が様々だった。
ガロー組は純粋に攻撃の威力として、テラサシャはそれが恩恵に寄るものであったことに関して、子供らと村人は素手で木をぶっ倒すダイナに対して。
最後のはオレも初見で驚いたよ。
次はダイナとの手合わせ訓練を見せる。
ちなみにオレは目隠しをして。
スキルのおまけに感知能力があるので、試しに目隠ししてから上手い具合に出来そうなのでやってみる。
最初はゆっくりと、ダイナは大振り、オレも避けることに専念する。
うん、他の探知系スキルも入ったお陰か、すんなり避けれるぞ!
慣れてきたら細かい動きを混ぜ始め、オレも避けるだけでなく受け流す。
次第にダイナの回転数が上がってくると、連撃やフェイントが入り、オレも体勢を崩さないで、常にダイナを正面に見据えているイメージで動く。
ダイナはオレからしっかりとした1発を当てれば勝ち、オレは貰わないように立ち回りつつ逃げ切れば勝ち。
時間は、砂時計の砂が落ちきれば終わり。
そんで、今日の勝敗はと言うと……。
「せいっ!! りゃあっ!」
顔面近くに何かが横凪ぎにくるのを感じて、慌てスウェーで避けたが、まだ何かある!
ギリギリ避けた鼻先に不自然な風を感じつつ、その音が遠ざかる筈なのに、また同じ方向から来てないかっ!?
身体の右側に石刀を地面に差し、しゃがみこんで刀の腹に合わせて壁を作ると、瞬間物凄い衝撃が刀を通して横っ腹と刀を支えてる腕に走った。
「あぐっ、やべっ!」
一瞬の痺れと鈍痛に思わず口から零れる言葉。だが、その一瞬が命取りとなりそうだ。
更に反対側から来る何かを感じた。
慌てて強引に差した刀を軸に身体を回し、地面から引っこ抜く様に刀の鍔を掌底で突き上げつつ刃を握る──。
「はい、しゅーりょー」
クリエの間の抜けた終了宣告に、オレは伸びきった体が瞬間に動かせず、間をおいて刀を握って伸びきった腕とは反対の手で目隠しを外すと、そこには刀の柄がダイナの顎に当たりそうなギリギリでとまっており、ダイナは涙目になっていた。
「あっ、ごめん。オートで反応しちゃった」
「はうぅ、怖かったですぅ」
オレ、一応武器有りだし、剣道三倍段って言う言葉が有るくらいなので本来は攻撃しない……、と言うルールを2人で決めてたんだよね──。
だけど、無意識に危険を感じると、『剣豪』が発動して反撃やら反撃やら反撃やらを──、まあつまり勝手に反撃してしまうんだよ。
「すまんすまん、どっか怪我とかした?」
「いえ、寸止めしていただいたので……」
まあ、初めてではないし、そうなるだけの技術がダイナにあると言うことなのだから良しとしてもらおう。腕とか毛が逆立っているが……。
力を抜いて石刀を鞘に入れたあと、ダイナの頭を撫でてやると、相変わらず尻尾だけは嬉しそうに動いていた。