30 色々教わってみた
ダイナの駆け付け一言に驚いたのはオレだけではなかった様だが、無理やり咳払いしてガローさんは続ける。
「そ、そうか。虎人が恩恵持ちと聞いたからだったが、こちらの思い違いのようだ。すまない」
「いえ、と、言いますか。何故ダイナが恩恵持ちだと姉弟に?」
「……えっ? 何故って……、えっ?」
当然の疑問のつもりだったが、ガローさんは大きな目を更に大きく丸くし、唖然と言った感じに口がパクパクと動いている。
あれ? 聞いちゃ不味い系だったか?
ど、どうにか言い訳を──。
「てっきりどこかの工房の跡継ぎかと……、すまん、こちらの勘違いであった。しかし、そうなると、はじめ、お前たちは──」
ああ、あの木刀と石剣見てそう判断していたのか。それなら、旅人設定のまま、門外不出の秘伝の技術ってことにしよう!
……あれ? ダイナの料理は『神ノ恩恵』なのに、オレの『工作』は違うのか?
疑問には思うが、やぶ蛇はしたくない。
「前にもお話した通り、旅人ですよ」
もう、この設定で押しきろう。知りたいことは増えたが今じゃない。
「う、うむ、そうか。……だが、それなら尚更我が地に来るには抵抗無かろう? まあ、ヒャウの奴との約束の後になるだろうがな」
「申し訳ない」
約束があるとは言え、ここを紹介してくれたのはガローさんだ。たぶん、上の方に話も通してくれたのだろう。
故に申し訳ない。
「いやいや、気にするな。来たくないわけではなかろう?」
「はい、どちらかと言えば寧ろ行きたいです」
「はは、ならば順番を待とう。しかし残念だ。借りた見本は勿論買い取りをするつもりだが、幾つか落ち着いた場所で作って貰えればと考えていたのだが──」
……買い取り確定で更に追加注文。
おっと、これはまさか商談チャンスか!
「幾つか用意はしてあるので、是非見て行って下さい」
営業スマイルのオレに、ガローさんの顔が固まる。
「──今なんと? いや、幾つかとは元々の荷物にあったとかか?」
あれ? なんか驚いているが……。
「いや、ここで拵えた物ですが」
「……いやいやまてまて、この小屋でか? 録な道具も設備も無くここでか?」
「えっ? あ、はい──、はい?」
設備に道具……?
そうだよ! ここただの小屋だったんだから、ガローさんからすりゃ無から作り上げてる様にしか聞こえないじゃん!
それじゃ、オレの製作ってことすら疑われて、なんだったら盗難の濡れ衣まで……。
いやいや、結論付けまで早すぎるぞオレ!
ならば、『工作』は『神ノ恩恵』ということにしておこう!
詳細を語らずに上手いこと話さねば。
「えっと、実は、その『神ノ恩恵』を自分も持っていてですね」
「それはそうだろう」
「えっ?」
「えっ?」
んっ? 何かおかしくないか?
「あの、だからオレにもあるんですよ『神ノ恩恵』が!」
「いや、それはわかっている。だが、環境はただの小屋だろう?」
おう、ちょっと待て。オレにスキル、つまり『神ノ恩恵』があること前提の話?
えっ? なんで?
「はじめ、お前は只人であろう? 爪も牙も鱗も尻尾無い」
そう言いながらオレの回りを歩き、じろじろと身体を見ている。さながら無抵抗な獲物を見る狼。
ぶっちゃけ怖い。オラオラ系の人に絡まれるより怖い。
「……は、はあ、ただびと? っいうのが当たってるかは今一わかりませんが、その定義でいくとケモナーですが、ケモっ子ではないですな」
「けも? まあ、それはわからんが、只人は必ず恩恵を持つ。知らなかったのか?」
はい、まったく知りません。
クリエの奴も少しくらい教えてくれても良いと思うんだ。
さて、どう言えば良いか……。
知らないものは知らないのだからか、相手が納得するような……、とは言え交渉発動させるほどではないか。
よし、旅人は無知の方向で!
「旅人として、あまり長いこと集落に居たりしたことも、誰かの下に付くこともなく、身内としか居なかったので、何となく恩恵の所有は言わなければわからないものかと思っていました」
「……うむ、そうか。まあ致し方あるまい。何故かと聞かれてもわからないが、只人は必ず恩恵があり、その中でも特殊な力を持つ者や、片親が只人で恩恵を所持したを者を稀人と呼ぶのだ」
「はあ、そのような呼び名が」
ガローさんは梟の爺やさんを交えつつ、色々と教えてくれた。
どうやらこの世界ではオレみたいな者を只人と呼ぶ。他各種色々な人種があるのだが、只人以外は必ず身体的に何か特徴があるそうだ。
それは爪であったり、牙であったり。
しかし、それら身体的なものが特筆して無いかわりなのか、必ず何らかの恩恵を備えている。
恩恵を持つのは只人か、その子供。
ちなみに恩恵を持つ只人以外の種族からは恩恵は授かれないらしい。
ついでに人種の産まれ方も教えてもらった。
父が虎人で母が只人の場合、息子なら只人が産まれ、娘なら虎人が産まれる。
そして、この場合は種族に関係なく子供は恩恵を授かるのだ。
ガローさんがオレたちを姉弟と勘違いしたのはこの辺りが理由とのこと。
確かに、聞いてみれば納得ではある。
更に恩恵に関しては、どんな能力を授かっているかを調べることも出来ると言う。
ぶっちゃけてしまえば、それを視る能力も恩恵の一種の様で『神ノ御告げ』と言う名の能力。
能力を視る以外の力は無いが、どこでも重宝され食いっぱぐれはない。20人に1人位の割合なのでそこまで珍しいわけではないが、能力がどこまで視れるかで重要度が変わる仕事なのではっきりとどんなことが出来るかわかる、というレベルになると、かなり稀少な部類なんだそうだ。
基本の恩恵は『見る』『聞く』や、『運動能力』など身体的な向上などが殆んど。
そっとオレやダイナみたいなスキルはあるかを聞いてみたが、『そんな能力は聞いたこともない』と言われた。
おっと、これはヤバい。
情報を開示しすぎるとろくなことがなくなるだろう。
だが、変わった能力もあるようで、そう言う恩恵持ちは『稀人』と呼ばれているそうだ。
つまり、オレらは『稀人』な訳ですね。わかります。
只でさえ異世界を渡ってきたのだ、稀以外の何者でもないわな。
とは言え、ダイナのスキルは開示しようと思う。
何せ『家の中』で『ダイナにしか見えず』『ダイナにしか使えない』のだから。
囲っても駄目だし、悪用も出来ない。
よっぽどの詐欺師とかなら一儲け出来たのかもしれないが、世の中物騒なので、あまり大金は持ちたくない。
『ちょっとずつ』『必ず買って』くれそうな客さえいればいいのだ!
金欠にならないギリギリのラインを目指そう。
オレは新たな決意と共に、早速売り込みを始めるのであった。