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異世界転生太平記  作者: クマはんたー
一章
3/32

3 想像と創造と

 とは言え、やり方はわからない。何せヤツの時は自動スタートだったのだ。只でさえ『ブツ』には視線を向けたくないのにどうしろと?


 考えていることがわかったのか、ヤツはゆっくりと例のブツを指差しこたえた。


「それが何なのかはボクにもわからない。先ずはちゃんと見てごらん? どう見えるかは君次第さ」


 やはり直視しないと駄目か……。

 色々考えつつ、ふと思いついたまま問うてみる。


「この異世界とやらは、人間だけなのか?」


 聞かれて数秒、首をコテンと傾けて、怪訝な様子で聞き返した。


「人間だけ? 虫とか魚とか、動物とかは普通にいるけど……、なんで?」


 聞き返された内容に満足いく解答はない。ならば、もっと具体的に問う必要があるな。

 つまりは──。


「獣人、エルフ、ドワーフ、ゴブリンにオーク! 異世界のど定番でしょ! もう、自分の厨二心が止まらない位の人種諸々だよ!」


 ぽん、と手を打ち得心いったのか、良い笑顔でこたえた。


「なるほどなるほど、うんうん、そういう、ね。そりゃあもういるいる。君の想像を遥かに越えた種族が、わんさかと!」


 キタコレ! マジキタ! もう、どうしよう! そんなこと言われたら、妄想が止まらない!

 キモいとかグロいとか言ってる場合じゃない!

ここは一つ、とんでもないのを創造するしかない。

 そうと決めたら、後ろを振り返る躊躇いなんて、欠片も残ってはいなかった。

 振り返る前に目を閉じ、しっかりとイメージする。そして、自ら封印してきた扉を開け放つのだ!

 


 見えた!!



「開・眼っ!」



 ただ落ちていただけのそれはのそりと立つ。だが見えているものは、まったくの別者と化していた。上から髪型、顔、輪郭、首、肩、胸、腰、腕、脚……、更に細かく、更にリアルに!


 吹き出る汗、荒くなる呼吸、それでも辞めずに少しずつ少しずつ調整を重ねる。

 ああ、寒気してきた。節々も痛い。頭やら胸やらが熱い。……風邪? 


「あっ、やべ!」


 思わず声が出るほど、目の前の創造中の姿が歪んでしまう。余計なことを考えすぎた。集中集中。


 そして、悪戦苦闘すること、暫し──。


「で、出来、た」

 

 こ、これが『削る』か……。

 正直しんどいが、改めて目の前の『人物』を見て、すべてを許せる気がした。


「うんうん、いいね。ここまでガッツリ創造してくれると、ボクもこの地に連れてきた甲斐があったってものさ!」


 隣で頷きながら言うヤツに、照れもなく伝えた。


「創造しうる、最高の仲間だ!」


 虚ろな瞳と釣られた様な生気の無い姿は気になるが──。


 大きな瞳と、猫の様な可愛らしい口、金髪のショートカット!

 引き締まった身体、程よくアスリートな感じに付いた筋肉、何より強調されし!


「それにしてもアレだね。キミは好きなんだねぇ──」


 ヤツは組んだ腕に乗せた自らのそれに視線を落とした後、虎っ娘を見つめてポツリと続けた。


「巨乳が……」

「いかにも!」


 コイツのキャラメイクで既にバレている。しかも新たな大地、知り合い皆無。恥ずかしくない! ないったらない!!


「いやー、本当に立派な──」


 まじまじと見つめヤツは言いきった。


「虎娘だねぇ」

「ケモナーだからな!」


 新たな大地、知り合い皆無。恥ずかしくない! ないったらない!!

 ないんだからな!


 頬や身体に黒い虎柄の模様が入り、全身金色の毛に覆われているのだろう。日の光を綺麗に反射させて、寧ろ神々しく見える。

 虎耳、尻尾。顔や脚も人より獣に近いかな……。

 だが、全力で言える。

 全てを踏まえて、超絶美少女です!


 既に服を着ているが、色々と露わになっていて、野性味溢れる機能美と言ったところか。

 是非ともカポエラやキック重視の戦闘スタイルでいってほしい!


「しかし、あれだな。削る、だっけ? 結構しんどいな」

「んっ?」


 言葉に対して怪訝な表情と意味不明、とも取れる返答をするヤツ……。

 あれ? こいつ自分で言ったこと忘れてるのか?


「このキャラメイク、無茶苦茶疲れてしんどかった、って話だよ。体力と言うか精神力? を削ったってことだろ? 確かに一日で全数、と言うかもう一人ですら辛いけど」


 やっと思い出したのか、なるほど顔で手を打つヤツ。おいおいマジで忘れてたのか? そんなんじゃ──。


「まだ削ってないよ。疲れたのは考えすぎて頭オーバーヒートしただけじゃないかな。ボクの時は疲れなかっただろ?」

「へっ?」


 まだ『削ってない』……だと?

 急激に嫌な予感がしてきた。

 この疲れた身体でも、やる気を損なわすほどの精神力でもない『何かを削る』必要があるのか!?

 ヤツはゆっくりと近付くと、握手を求める様に手を差し出して言う。


「先ずは削る前にボーナスポイントを進呈しないとね」

「ボーナス、ポイント?」


 手を、握れば良いのか?

 ヤツは進呈と言った。しかも『削る前に』と。

 つまり、何であれ受け取らねば始まらないと言ったところか……、それなら!

 差し出された手を強く握りヤツの目を見る。

 来るなら来い、と言わんばかりに。


「ではでは、覚悟も決まったみたいなので、進呈するよー!」


 瞬間、膨大な何かが入り込む感覚が襲ってくる。

 何かはわからない、ただただ量がある。重いのか、色は、硬さは、何もわからない。でも量だけはわかる。身体が固まり動かない。だが、意識はしっかりと、それが入り込んでいるのを認識している。

 不思議と苦しくはない。


 流れ込むそれらが自分に影響を与えているのがわかるのに、どこか他人ごとのように感じる。

 寧ろそのことこそが気持ち悪い。


 いつまで続くのか、なんて疑問を抱き始めた頃、それは唐突に終わりを告げた。

 ゆっくりと手が離れると、そのまま尻餅をつくように後ろに倒れてしまった。


「──えっ? 何で? 体に力が……」


 まったく入らない。と、言うか立てない。

 何だろう、重いのか? でも力が出ないとはまた別だよな?

 

「……体力や精神力まで使ったって言うのも、あながち気分だけの問題じゃなさそうだね。それだけ本気で創造したのなら、この娘も幸せってもんだよ」


 ヤツは何かに納得したかのように頷きながら、手を取り立たせてくれた。まだ、少しふらつくけど、立ってみたら案外大丈夫そうだ。

 二、三歩その場で足踏みをして確認。大丈夫、いける。

 その様子を見て、ヤツも大丈夫だとわかったのだろう、先ほどの『ボーナスポイント』とやらの話を始めた。


「今君に与えたのは、その虎娘も含んだ全員分の魂ってやつだよ。とは言えきちんと洗って刻んだ『新しい生命用』の切れ端に過ぎないけど」

「魂の……切れ端」


 流され込まれた手のひらをジッと眺めて見るが、まったく違いがわからない。

 ただ、自分の中に何かがあることだけは何となく理解出来る。


「これ、どうすればいい?」


 理解の範疇を越えた存在が自分の中にある。

 これが目の前の『虎っ娘』に必要だからというのもあるが、それ以上にさっさと吐き出したい気持ちの方が大きい。


「それらは、今君と一体となった。それを今度はこの子に分け与えるんだよ」


 わざわざ嫌な感覚を強いられ、また次はそれを削って吐き出せと言う。


「分け与える? だったらこっちに回さずに、その洗って刻んだ分をそのまま与えればいいじゃないか」


 すると、ヤツは困ったような顔で腕を組み、話し始めた。


「うーん、切れ端の移動がよっぽど嫌だったのか、君にしては随分察しが悪いなあ。わざわざ『新しい生命用』って伝えたじゃないか。なら、それをこの子に入れたらどうなると思う?」


 そこまで言われてやっと理解した。


「この体に新生児、つまり生まれたてほやほやの魂が入っちゃうってことか!」

「生まれたてどころか、受精ほやほやのレベルだよ」

「じゅ、受精っ!?」


 別にイヤラシいことを想像してキョドったわけではない。ただ、ちょっと、色々と、なっ?


「精子から魂が入ってたら、回収と分別だけでどんだけ忙しくなるとおもっているんだい? 君の無駄撃ちだけでも相当な──」

「ごめんなさい! それ以上は言わんといて!! 本当に反省してるからっ!」


 こんなヤツとはいえ、見た目が美少女風なので、この手の話しを話されるのは、余計にたちが悪い。しかも、まだなんか不服な顔をしている。

 これ以上は聞いてはいけない。

 大人しく『分け与える』方法とメリットデメリットを聞いてしまわなくては。


「そのままだと、ガチのゼロスタートってことはわかった。で、分け与えるとどんな感じにまで成長してるんだ?」

「君と同じレベルで基本知能が付いた、記憶喪失な感じかな」


 まあ、納得出来る。綺麗に洗われちゃったので記憶もないのだろう。だが、それだけでは無さそうだ。妙な含みがあり、断定仕切ってない。ならば、問うしかない。


「性格とかは、こっちに引っ張られるのか? それとも、器に見合う感じに調整されるとか?」

「そこは、君の得意なキャラメイクさ」


 つまり、人格から何からは創れる。逆を言えば創らないと薄くなるということか!?


「うわぁ、責任が重すぎる!」


 とは言え、正直さっさと授けてしまいたい。

 ……やるしかないか。

 「あっ、ちょっとまった!」


 急にヤツから声がかかり、思わず睨んでしまう。

 折角出たやる気を返してほしい。

 そんな言葉を吐く前にヤツは問うてきた。


「まだ、説明は全部してないよ? 君は気にならないのかい? ボクが言った『ボーナスポイント』という言葉に」

「一人に一つの魂って意味で、自分合わせて5個分あるぜ、って意味じゃないのか?」


 つまりは、あと3人は仲間を創れるってことだよな?

 この返答が間違いだったのか、ヤツはニヤリと笑い、こたえた。


「普通に考えればそうかもしれないね。だけど、そんな単純なことじゃないのさ。少しづつで良いからその魂を意識してごらん? 他人のものではなく、自分のものであることが当然であるということを特に強く」

「魂に意識ねぇ」


 ヤツが某奇妙な冒険のエン◯婆みたいなことを言い出した。もしかして、チートな能力は特殊な力を持った背後霊か? 時を止められるのか? 鉛筆をポキッと折るくらい簡単に。

 まあ、先ずはやってみるとする。

 魂に意識を……。


「魂を意識って、どうやるの?」


 純粋な疑問だった。今までの人生、魂を意識したことはない。とあるアーティストの唄に魂を感じたことはあるが……、たぶん違う。

 ヤツは何も難しいことはないと言わんばかりに口を開く。


「人の思い込みや想像は意外な能力を持っているものさ。 考えるな、感じるんだ!」

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