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異世界転生太平記  作者: クマはんたー
一章
29/32

29 ガローさん、再び

細かい木々を踏みつける男と、数人の気配に気づく。

 そして、柄に手を置いて音のする方を睨むと、見覚えのある狼の頭が見えた。


「ガローさん!」

「おお、待たせてしまったな!」


 片手を挙げてにこやか? な表情のガローさんは、見知らぬ者を数人と、妙にデカイ樽を土産に、遂にやって来たのだった。

 挨拶もそこそこに、ガローさんの一歩程後ろに控えた少し小柄な梟? みたいな人がおり、後の数人はデカイ樽を降ろしたりしている。

 全部で3つもあるようで中身が気になるところだが……。


「いやあしかし、はじめを送って以来にはなるが……」


 ガローさんは小屋を眺めてから改めて言う。


「短期間で随分様変わりしたな」


 うん、そうだね。なんだったら全然違うね!

 小屋を眺めて驚きはしたようだが、悪い印象ではなさそうだ。

 まあ、中を見たらもっと驚くことになりそうだが……。 


「中の準備もありますから、少しお待ちください。先程、ちょっとしたトラブルがあったので──」

「とらぶる? まあ、先触れを行かせなかったのもこちらだ。荷物の準備もあるから、ここで待たせてもらおう」


 そう言うと、ガローさんは大樽を数人に指示をして、中を開けさせ始めた。

 時間はかかりそうだな。


「では、準備が出来次第お呼びしますね?」

「ああ、悪いな」


 一礼し、オレは小屋へと戻る。さてさて、あの子供らはどうするべかなあ。

「戻ったぞー」


 無言で入るのも何なんで声をかけてみたが、何やらわちゃわちゃ聞こえる。

 ばっしゃばっしゃと水? の跳ねる音が妙に響く。風呂場の方か?

 すると、奥からダイナが出てきた。

 表情はいままで通りだが、先程の『病み闇モード』のイメージが薄まる程の時間は経っていないので、自然と顔がぎこちなくなるのが自分でもわかる。

 そんなオレにダイナは苦笑しながらも少し照れたように言う。


「お帰りなさい、はじめさん」

「あ、うん、ただいま」


 ん? なんだ? ちょっとイイ気がしたぞ?

 今までは『お帰りなさいませ、はじめ様』だったのが、『お帰りなさい、はじめさん』……。

 うん! イイ!

 ──いやいや、それはとりあえず置いておいて。


「ダイナ、ガローさんが来た。人数も多いし、大人数用の何か料理を作れ、ますか?」


 と、は言え調子にのったら駄目だ。

 一先ず怒りの沸点を確認しながらいこう。


「焼きもちからの、誘導言質、後は出来る女のアピール……」

「あれ? えと、やっぱり難し、いか、な?」


 なにやらぶつぶつと呟くダイナ。

 そ、そりゃそうだよね! いきなり大人数分とか無茶振りにもほどが──。


「はいっ! 大丈夫です! ちびちゃんたちも居るので、多少の量は問題なく増やせますし、追加もすぐに用意します!」

「お、おう。流石ダイナさん」

「そうですか? エヘヘ、いえいえそんなぁ」


 オレの言葉に頭をかきながら照れる虎娘。尻尾は大暴れし大変なことになっている。あれ? ダイナってこんな感じだったっけ?

 ちょいと前からなんかおかしい。

 病み闇もそうだけど、もうちょい前か?

 


「それでは調理に戻りますね、はじめさん、ワタシ頑張ります!」


 両腕を曲げて二の腕で胸を挟み込んで頑張るアピールするダイナ。

 うん、何か、どうしよう。


「あ、ああ、よろしくぅ……」


 妙なテンションで動きも可愛く見せるような行動をするダイナ。それを見送って隣にいるクリエに問う。


「あれ、誰?」

「見紛うこと無くダイナちゃんだねえ」

「……そうか」


 偽者ではないらしい。まあ、『家事ハウスワーク』使える時点で間違えようはないのだけども。

 さて、今後のダイナとの距離感は課題としといて、やたらとうるさい風呂場が気になるが……。


「……何してるの?」


 風呂場の入り口で門番よろしく怪我した村人コンビが立っていた。

 廊下は3人が何とか横並び出来るサイズだが、ぶっちゃけ邪魔だな。オレの問いかけに気付いた2人は、わたわたと慌てる様に説明を始めた。


 曰く、子供の人数が多すぎて入れない。

 曰く、サシャテラコンビも一緒だから入れない。

 曰く、戻ってきたオレにここに居ると伝えること。


「……うん、お勤めご苦労。クリエ、皆と風呂場で遊んで良いから、サシャテラにガローさん来たって伝えてくれる?」

「いいよ。ボクとしても、新人ちゃんたちは気になっていたからね」


 子供もイケる口ですか──、いってらっしゃい変態女神。

 とは、流石に声を出すことなく温かく見送った。


「お前たちも、怪我人とは言え、重要な客人が来るから大人しくしてろよ?」

「へ、へえ」

「わかったぁだぁ」


 2人してムキムキのコンビはへこへこ頭を下げて了承したので、まあ大丈夫だろう。

 で、色々と準備をしつつ、結局食事は外にすることにした。

 何せ人数が多い。でかいテーブルと沢山の椅子を急遽作り、何食わぬ顔で手伝わせながら並べる。

 ダイナのスキルで作った『料理』は持ち出しできたが、器は別らしい。

 お椀とお盆と箸、スプーン、石鍋その他多数……。

 まじで疲れたよ。

 子供たちは和室でクリエとテラが見てくれている。暇潰し用の玩具たちも、これでもか! って位に渡してきた。

 クリエは観察対象が多いこともありニッコニコ、テラも玩具類に興味津々。

 これなら飽きることはない、と祈っている。

 ダイナがご飯の用意もしてきてくれたし、大丈夫だろう。

 オレが用意している間は、サシャさんがガローさんと話している。何か難しい話を、はすっぱな喋りをせずに話すサシャさんは別人に見えた。

 ガローさんとしても、ヒャウが来たことは想定内の様で、特に驚くことはなかった。


「こ、これはっ!」

「なんという──」

「これほどの物が……」


 数々の驚愕の声を上げさせたのはダイナの料理だ。

 ちなみに華麗なるライスの甘口である。

 見た目はドロドロとした茶色なせいか、最初は誰一人口を付けようとしなかったが、オレは勿論サシャさんも、なんの疑いもなく食べるのを見て、意を決したガローさんは、今は三杯目のおかわりを要求していた。


「はじめ、散々いただいてから言うのも何だが、これは何だ? 旨いにも程があるぞ?」

 

 まあ、文明レベル的にも材料的にも作れないから仕方ないか。

 ならば、満を持してお答えせねばならない。

 オレは姿勢を正し、にこやかになっているであろう表情を作り答えた。


「これは、カリィーライスにございます。遠く、果てしなく遠くの国の材料を使い調理した逸品。お口にあったようで何よりです」

「ほお、遠く離れ異国の地。作ったのはダイナ、だったな。爺、これを我が地で流行らせることは可能か?」

「……若、わたくしはこちらを初めて食しましたが、旨い、見知った野菜が入っている位でしかこれが何かを知ることは出来ませんですじゃ。流行らせるのであれば──」


 梟みたいなじいさんは、オレとおかわりの盛り付けに奔走しているダイナを見た後に続ける。


「はじめ殿らをご招待した上でご教授願うしかありますまい」

「そうか、そうだな! それが良い! 元々はじめには来てもらおうとは思っていた」


 おっと、オレちゃん既に企業からヘッドハンティング予定だったのね。

 だがしかし。


「ご招待はありがたいのですが、すぐには行けそうにありません」

「うん?」


 ガローさん、目が怖い。

 狼頭だけど、良く見れば獣っぽさは言うほどない。丸み? 身体との調和? 獣人だからか?

 でも、だからって睨まれれば怖いのは変わらない。


「ありがたい、本当にありがたい話なのですが、ヒャウ……ビャクレン様との約束もありますし、何より──」


 ダイナに視線をやってから言う。


「ダイナの料理は場所と人員など制限がかかります」

「制限……、つまりは『神ノ恩恵ちから』と言うことか……。まさか、はじめの製作物も──」


 『神ノ恩恵ちから』? あれか? スキルのこの世界バージョンの呼び方か?

 知らないことに、下手に頷いてもなあ……。

 そんなことを考えていたところ、ガローさんは続けて問う。

 

「主人と従者と思っていたが……、2人は姉弟なのか?」

「いえ、違います」


 未だにおかわり戦線で動いていたダイナが、そこだけ即答して、また前線へと戻っていく。

 器用だな……、それ以外は言わんとこう。

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