28 愛しの病ンデレラ
「身内と言うことなら、ワタシはどんな立場なのでしょう? お母さん、もしくはお姉さんでしょうか?」
文字通り一歩近付き問うてくる!
な、なんなんだよ! し、しかし──。
「お、お母さん!? いやそれはさすがに──」
「ならお姉さんですか? お姉さんならはじめ様は謝罪するのでしょうか?」
尚も進みよるダイナ。微かに上がる口角とちらりと見える犬歯、いや虎牙。
その眼光は鋭く腰だけが引けて逃げられない──。
な、何とか正解を導きださねば!
「謝罪……する、あれ? するかなあ。ちょっ、ちょっと待っ──」
ガシッと両手で肩を捕まえられた!
よく考えたらオレ、土下座中で正座じゃないか! 逃げるどころか動ける訳もねえ!
こ、怖い! で、でも目線は外せない!
外せば──ヤラレテシマウ……。
「はじめ様はいきなりワタシに謝罪をされました。お姉さんに謝罪をするかがあやふやならそんなことはしないでしょう? なら、お姉さんでもないですねぇ」
「そ、そそそ、そうですねっ!! お、おね、お姉さんはないですねっ!」
最早口も上手く回らない!
ヤバいヤバいヤバいヤバい!!
解答を! 正解を──。
すっ、とダイナの顔がオレの真横に来た。視線をそちらに動かしても後頭部しか見えない。ダイナの髪がオレの頬をくすぐるが、それがまるで隙を見せたら首を獲られそうで恐怖しかない。
肩を掴んでいた両腕は、何時のまにやら後頭部に絡まるよう、逃がさないように巻き付いている。
力は入っていない。だが、逆にそれが怖い!
ガタガタと震えだすオレの耳に、吐息を吹き掛けるように問うてくる。
「なら、ワタシがどんな立場なら、はじめ様は謝罪するのでしょうか? 例え過失が無くとも女性に抱擁され、そのこと謝罪しなければ、と行動してしまうような身内とは?」
話し方が妙に優しくまとわりつく。
耳元に湿り気を帯びた吐息と共に言葉が続く?
「ワタシは貴方の何?」
「ひっ!?」
艶かしくもあるが、それより怖い。
何がどおしてこうなった?
いつの間にこんなミステリアスホラーに?
いやいや、先ずは状況の打破!
「え、えと、差し出がましいけど、ほら、連れって言うか、連れ合いって言うんだっけ? そんな感じの」
「……言質、いただきました」
途端に離れたダイナの顔は、いつもの朗らかな笑顔で、少し赤く染まっている感じがする。
「最初から怒ってませんので気にしないで下さいね、はじめ様……あっ、はじめさんの方がそれっぽい気もしますね?」
「あ、ああ。オレも様付けより気が楽と言うか──」
すると、パッと嬉しそうに顔を綻ばせた。
「はいっ、はじめさん。ワタシは2人を手伝いに先に小屋へと戻ってますね!」
そう言い残すと、先程の雰囲気が霧散したかの様に、いつものダイナが嬉しそうに小屋へと帰って行った。
「いやあ、ダイナちゃん怖かったねえ」
「……うるせえ。出歯亀しやがって。本気と書いてマジで怖かったわ!」
非常に楽しそうなクリエにイラッとしながらも心境を語る。もう、あんなダイナと遭遇したくない。
クリエは肘でオレをつつきながらニヤニヤとした顔も隠さず言う。
「しかし、『連れ合い』って! クスクス、はじめちゃんはキャラクリの罪悪感を未だに地味に背負ってるから、そこまで言うなんて──」
「……? 『連れ合い』って、ほら『相棒』とか、『やたらつるんでる友達』とか、そういう意味じゃなかった?」
クリエはオレの言葉に顔をひきつらせると、ゆっくりと近付き、耳元でそっと呟いた。
「今の言葉、絶対ダイナちゃんに言うなよ? 完全なヤンデレラが誕生しちゃうからね!」
こいつ、なんつう恐ろしいことを!
次にあんな状態のダイナに出会ったら、生きて帰れる自信がない!
しかし、連れ合いってそう言う意味じゃなかったのか?
まあ、いいか! 考えるのも怖いし、オレはオレの──。
その時、こちらに向かう何かの気配を感じた。