26 ハニトラに幸あれ
「それで、別けられた子供たちは、一体何別けなんだい?」
やっとテラのとこに辿り着いた。もう少しで一段落だ!
オレを見て、小さな鼻を摘まむ姿は、イジメに見えるが仕方がない。そう、臭いのは自分。仕方がない。……やべえ、心が折れそう。
申し訳なさ100%な表情をするダイナも勘弁してほしい。
美少女責めるとか、ただのS得でオレ得じゃない。マジやめて!
まあ、それすら口に出せないチキンなオレは平常心で応対するしかない。
だから仕方がない。
おっと、意識が外れ過ぎた。
子供は2人と5人に別れているが……、たぶん、いや、絶対2人の子らがヤバい。
1人は小さな男の子で、獣より人に近い顔をしており、黒い猫耳と長い尻尾が生えてる小学生3、4年生くらい。
妙に達観した表情でまわりをゆっくりと観察している。こりゃ成長したらクール系イケメンに育つわ……。イラっとする。
しかし、ショタ猫か……、いったい何の需要を求めてる仕様だ?
そんでもう1人。涙をボロボロこぼしながら、静かに泣いている犬っぽい女の子。列の端にいた子だ。
この子も割かし人に近い顔してる。
妙に毛並みの荒れた垂れ耳に、ボサボサな上に赤黒い何かの塊がへばりついている。
1、2年あたりの小学生だろうか。
だが、違和感は痛ましいキズやその過程による汚れではない。その表情だ。
これは比較対象があるからこそわかる。
しくしくと、えづきながら泣く。
訳もわからず何かを諦めた様にかたまる。
不安が限界を越えて、挙動不審。
ただひたすらに泣きすぎてわけがわからなくなっている。
5人の子供たちは、明らかに『幼い子供』だ。
だが、この犬の娘は、子供の見た目だが、何かが違う。
何だ? 何が違う?
大きな瞳から、真珠の様な涙を落とし続け、何かを乞う様な──。
優しく抱きしめて頭を撫で、『もう、大丈夫』と伝えれば、その涙はとまるだろうか?
いや、一層のこと弱っている今、色々と責めれば何らかの情報を落とすかもしれない。
いや、逆に優しく優しく、甘やかせば、なついて話し出すのでは?
いや、それよりも、もっと痛め付けてやれば、すぐに口を割る!
いや、それよ──。
「はじさん!」
急に肩を捕まれて、意識が変わる……。
あれ? 今、オレ、何かヤバいこと考えてなかったか?
「はあ、危なかったっス。はじさん、あの子はこれ以上長く視ちゃダメっス」
「サ、サシャさ、わっ! うぶっ!」
捕まれた肩を回されて向き合う形になった瞬間、後頭部に腕を回されて顔を胸元に押し付けられた!
えっ! 何!? ふわっ、やわらか──、違っ!
逃げ出そうにも、やたらと強く捕まっていて離れられない!
いや、嘘じゃないよ? 本当に外れなくて!
「あの、さ、サシャさん? これ、この体勢マジでヤバいって! マジでっ!」
そんな色んな意味での訴えをすると、耳元にサシャさんの声と吐息が!
「はじさん、あの子は恐らく『神の恩恵』持ちっス。たぶん今は男にしか効果は無いっス」
「の、『神の恩恵』持ち?」
何か凄いワードが出たけどそれどころじゃない! 今は顔面の柔らか枕がヤバい! しかも呼吸可能だから長時間オッケーだ!
つまり、オレの若くて激しいりびどおがあ、てんやわんやのお祭り状態に!?
そんなある意味某マフィアのボスよりも絶頂が続いているオレだが、サシャさんは構わず続ける。
「怪我人の話しによると、情欲に訴え掛ける力だと思うんス。はじさんもヤバい顔してたっス」
「うわっ、あんな小さい子に情欲とか──、でこの嬉し恥ずかしな体勢は?」
少し慣れてきたが余裕はない。そんなオレの質問にサシャさんは教えてくれた。
「あの手の力は、相手を掴んだらなかなか離さないっス。だから、アテじゃ不満かもしれないスが、意識を総てこちらに向けて欲しいっス」
「えっ! えっ!? えーっ! い、意識とか! あれ? サシャさんまさかのハニトラ系とか!」
「いやいや、はにとら? は、わからないっスけど、これで籠絡出来ちゃったら、はじさん、軽過ぎっスよ?」
クスクス笑いながら言うサシャさんに、オレはもうどうすれば! ああ、顔が熱い! 周囲がどんな目で見てるか気になるがみたくない!
……あれ? そう言えば、こんなラッキースケベ時には必ず来るはずのダイナさんが……。
オレの考えを察したのか、その楽園からオレの頭を離しながら口を開く。
「ダイさんならあそこっス。ちゃんと説明済みだから大丈夫っスよ」
サシャさんの言葉に、恐る恐る振り返ると、例の犬っ子を後ろから抱きしめ、目を腕で隠しているダイナ。だが、その顔は泣いてるような怒っている様な、それはそれは恐ろしい形相でオレを睨んでいた。
怖い……。
そんなオレの心情に気付かずサシャさんは教えてくれた。
「もう、わかったと思うんスけど、あの二人が『返し鏃』っス。あとの子は孤児やらの目眩ましっスね」