25 心配性な2人
並んだ村人たちが、次々に帰って行くなか、纏める仕事を終えたサシャさんが、近付いてきた。
「お疲れ。残ったのは子供と大人何人?」
「大人は2人っスね。倒木に巻き込まれて足を痛めたのと、肩を痛めたヤツっス」
「んっ、なら人数的に物資もそこそこ運べたかな」
「──はじさん」
「はい?」
サシャさんに呼ばれ振り返る。
何やら、困った様な、戸惑う様な……、そんな不思議な表情を浮かべて聞いてきた。
「何で、わざわざ手土産まで持たせて帰したんス? あいつらはここで弓を引き、しかもビャクレン様を狙っていたっス。しかも、厄介な置き土産まで……」
まあ、言いたいこともわかる。対応が甘すぎるのかもしれない。だが、仕方ないだろう。
ため息一つ吐いて苦笑いになってそうな作り笑顔で言った。
「無駄な恨みは買いたくないんだよ。オレ、小心者のビビりだから」
「……へっ?」
間の抜けたような返事のサシャさんは、呆けた顔でかたまった。
さてさて、未だにオレの言葉を信じられない、と言った表情で付いてくるサシャさんを引き連れて、残った2人と子供たちのいる場所へと向かう。
村人たちは恙無く荷物を持って帰村していった。
何人かは感謝の言葉を告げて言ったが、間に合うか迄は知らない。
まあ、頑張って帰ってほしい。
問題は残った者たち。彼らをどうするかだ。
「お疲れー」
片手を挙げて声を掛けると、一斉にこちらへと視線が向いた。
怖っ!
「はじめ様! お疲れ様でした。これ、先程テラが分けてくれた塗り薬です。お顔の傷にお使い下さい」
ダイナが走って近付き、お使い下さい、とか言いながら、いきなり顔に薬を塗りだした。
薄皮で済んだおかげか、だらだら血が出てる訳じゃないんだが……。
ダイナはこれでもか! と、言うぐらい塗りつけてくる。
特に染みて痛い訳でもないのだか……、ただただ青臭い。
韮とか、葱みたいな臭いがする──。
正直超臭い!
だがしかし、泣きそうな顔で薬を塗り続けるダイナにそんなことも言えず……。
なんだかんだで数分がたった──。
「いや、流石に塗りすぎじゃねっ!?」
「えっ? あっ! も、申し訳ありません!」
慌てて塗るのをやめたダイナだが、オレの顔半分が青臭くてベトベトするし、ダイナの持ってる薬も半分近く無くなってる。
「心配してくれるのは嬉しいけど、ダイナは少し、程々を覚えてほしいかな」
「は、はいぃぃ! 本当に申し訳ありません!」
まあ、これで過剰なダイナさんが落ち着くとは思えないし、悪いこと、ではない、たぶん、きっと。
さて、それは後にして、先ずは残った者たちの処遇だな。
「テラ、お疲れ。子供らは確保出来てるかい?」
「はじは──、その顔どうした、です?」
子供らを2グループに別けて見張りをしていたテラが奇妙な物でも見るかの様に怪訝な表情で返してきた。
子供らも、揃って不安な様子だ。
「心配性の虎娘に、これでもかっ! て程に薬を塗られた」
オレの言葉に納得したのか、ああ、と呟いて教えてくれた。
「ダイダイに渡した薬、です。患部に少し塗れば大丈夫、です。でも──」
「あ、あれ? 塗りすぎると何かヤバい? 肌が荒れるとか?」
まあ、荒れる位なら良いのだが……。
テラは首を振った後、その小さく可愛い鼻を摘まんで続けた。
「匂い、とれなくなる、です。数日……」
「顔洗ってきまーすっ!」
テラ以外の皆が唖然とするなか、小屋へと走って帰って顔を洗った。
顔はもの凄く染みて痛かった。もう匂いは染み付いていた。ダイナ、実はオレのこと嫌いなんじゃないかと身体を震わせたのは、オレとニヤニヤしながら覗いていたクリエだけの内緒だ。
「さてさて、改めて仕切り直しましょうか!」
小屋から出たオレは、改めて全員の視線を集めて仕切り直しを伝えた。
出てきたオレに、涙眼のダイナがビクビクしながら近づくと、頬の傷に指先でちょっとだけ薬を塗って小さな震える声で謝罪してきたので、下げた頭を撫でてやった。
「気にするな。でも、次はちょっとにしてね」
「はうぅ、申し訳ありません!」
まあ、嫌われてる様ではないので良しとしとこう。
「えーと、何度もごめんね? じゃあ先ずは村人2人。自己紹介して」
オレの言葉に2人は顔を見合わせた後、ゆっくりと話始めた。
「お、おらは竹前村のゴンダ。普段は臼回しと粉まとめをしとる」
「おいらぁはぁ、ボンドぉ。倉庫ぅ番のぉ下っ端ぁだぁ」
脚を痛めたのがゴンダ、肩やったのがボンド。
ゴンダは牛、と言うかバッファローみたいな見た目で身長が低く上半身がムキムキ、足も短く太くって感じだが、片方の脚は脛に手当てされて布みたいなものが、ぐるぐる巻かれている。
で、のっそり喋るボンドは猪みたいな見た目で、ゴンダに似た体型だ。腕はゴンド程ではないが、結構逞しい。脚は太股がやたらと太い。こっちは右肩と首を巻かれている。
ただ怪我と言っても打撲や軽い捻挫の様で、流血沙汰じゃなくて良かった。
2人とも、まだ怯えているのかデカイ図体の筈なのに妙に縮こまっている。
まあ、調子にのられても困るからそのままで良いか。
2人を近場にいるサシャに預け、今度は団体さんだ。




