22 にゅうスキル入ったお
夜が明けて、朝の食事が終わると、ヒャウは護衛の3人と帰ると告げてきた。
「ガローを待つのにまだここにいるのだろ? それにこんなに住みやすくなったのだから、父上にこの場所をはじめに優遇していただけるよう進言しよう」
「えっ! そんな……、良いのですか?」
ぶっちゃけ有難い。だいぶいじくったので愛着あるし、ここを離れたらダイナの『家事』が使えなくなる可能性もある。
顔に出ないよう、控えめに問うオレに、ヒャウは頷き、リンカさんが続けた。
「その代わり、と言ってはなんですが、テラとサシャを置いていきます。一応、コンゴウ一族の休憩場ではありますので」
「まあ、それは仕方がないでしょう。テラさんも怪我をしてますし……まあ、原因はオレナワケデスシ」
「感謝します。正直ここからの道程は川を越えたりと、早足で向かう関係上、無理はさせたくありません」
リンカさんは苦笑いでこたえる。
まあ、テラさんの怪我も、恐らく強行軍も本当なのだろうが、その実、目的は監視だろう。
まあ、借家な上に大家はこの国のトップ、しかも護衛を相手に大立回り。
まあ、仕方あるまいて。
「サシャはテラの看護、それと、はじめ殿たちの手伝いとして置いていきます。仕方がないとは言え、独りというのも──」
「大丈夫です。ご心配もありましょう。お2人は確かにお預かりします」
オレが気付いて了承していることすら、リンカさんには筒抜けだろう。でも、それで良い、信頼は少しずつ重ねていくものだ。
「父上に報告次第、すぐに戻るぞ! おふつんを作ってもらわねばならないからな!」
「ちゃんと木綿敷を持ってきてくださいよ。最低でも10枚は」
すぐに戻りたいヒャウは、3人を促すように先へと進み、軽く手を振りながら森の奥へと消えていった。
それを見送ると、サシャさんとテラさんはこちらに向きなおり、2人揃って挨拶を始めた。
「改めて、よろしくっス」
「よろよろ」
「はい、よろしくお願いしますね」
正直ククさんじゃなくて良かった。川渡りにはククさんの能力がもっとも有効的で、本人からも『謝罪を諦めた訳ではない』と更に詰め寄られた。
一体どうすれば認めてくれるのか……。
「アテもテラさんもただ飯食う気は無いっス」
「テラテラ、働く、です」
からからと笑いながら言うサシャさんと、むん、と力強く胸元で拳を作るテラさん。
まあ、テラさんは怪我人とは言えサシャさんも居るのだから、出来ることをお願いする形でいこう。
「はい、改めてよろしくお願いします。サシャさん、テラさん」
すると、サシャさんは、人差し指を左右に振りながら言う。
「はじさん、偉い人もいないんス。アテもダイさんやクリさんみたいな感じで話して欲しいっス」
「テラテラも、です」
うーん、ヒャウ様たちとは親交を深めるつもりはあるし、そうしても良いのだが、何か立場を持ち上げられそうで……、まあ2人とは数日暮らすことになるし、今後の交友に一役買ってくれるかもしれないから、ここはありがたく、そうさせてもらおう。
「わかった。じゃあサシャさんにテラ、今日からよろしくな」
「よろしくっス。しかし、なんでアテだけ『さん』付けなんス? アテのはほぼ口癖みたいなもんスよ?」
ああ、どうやら『さん』付けは気に入らないらしい。とは言えだ。
「年上に呼び捨ては出来ないよ。親しき者にも礼儀有りってね。話し方が軟化しただけで勘弁してくれ」
オレは高2が最終学歴だから、16か7歳。ククさんは19回目の春を越えたって、謝罪の口頭分にあったから、双子のサシャさんも必然的に年上だ。
テラは14回春を迎えたって言っていたから、年下だ。公認ロリではない。非公認ロリだ。まあ、2つか3つしか変わらないオレガ、ロリと言うのもおかしいが。
「うーん、まあ、そこははじさんの曲げられないとこなんスね。わかったっス。無理強いはしないっス」
「悪いね。じゃあダイナ、2人に掃除とか色々指示をあげて」
「ええーっ! ワ、ワタシが指示を、ですか!?」
何かえらい驚かれた。いやいやでもさ。
「家事全般をダイナがこなしてるんだから、指示するならダイナでしょ。それになかなか大人数じゃないと出来ないことも今なら出来るしさ」
「ううん、わか、わかりました! 僭越ながら
指示を出させていただきます!」
何かを決意したかのように了承したダイナだが……、耳がピンとたち、尻尾も力強く立ち上がっている。うーん、空回りしなければよいのだが。
「まあ、気を張らずにね。2人もよろしく」
「はいっス!」
「はい、です」
まあ、精神年齢的には似たようなものだし、ダイナも女子だけで話せる内容とか、あるかもだしな。
「じゃあ、オレはクリエの部屋で相談しているから、何かあったらダイナを通して呼んでくれ」
3人が頷くのを見て、オレはクリエの部屋へと向かうことにした。
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例のピンクのドアを開け、部屋へと入る。相変わらず季節感はなく、可もなく不可もない室温で保たれたクリエの部屋。
クリエは左のカウンターに何冊かの本を重ね置き、カップを片手に脚を組んで椅子に座っている。
「まさか、本当に見送りに来ないとは思わなかったよ」
別に非難するつもりは無いが、純粋になんでだろう? って思ったから聞いてみた。
クリエの方も特に気にした様子はなくカップに口を付けて一息してこたえる。
「あの娘はすぐに帰ってくるからね。それに、気が向けば、ボクらは全生命体にリンクしてるんだ。それなら逆に何も知らない時間こそ貴重な時間なんだよ」
「ふーん、そんなもんか」
何言ってるかよくわからんが、まあ、何かあれば言ってくるだろう。
「それよりも、だ。ボクは君に興味津々なのさ!」
マドラーでオレを指すクリエの表情は、恍惚とした笑みでこちらを見つめて言う。
理由は1つ。
「相変わらずの変態め! 魂ポイントが急増したからスキルと新しい仲間を創るって言っただけだろ」
そう! ポイントが凄い増えたのだ!
75/113
前より15も増えてた!
ポイントも増えたし、今回の戦闘で仲間も能力もこの世界で生きていくには足りないことを思い知らされたオレは、ポイントを有効に使うため、クリエに相談したのが始まりだ。
「さて、はじめちゃん。君の希望は聞いた。だからボクが出来る限りのことをしようと思う」
クリエはテーブルに載った本を軽く叩いて続ける。
「さあ、これが君の欲する闘うため能力の元さ」
「……随分あるな。これ全部がスキルになるのか?」
パッと見て10冊は越えている。やたら分厚い物からパンフレット並みに薄い物まで。
とは言え、必要なら仕方がない。気合いを入れて上から──。
すると、本の塔を抱き締めるようにオレの伸ばした手を阻み言う。
「はじめちゃーん、がっつき過ぎー」
息も荒めに相変わらずの恍惚顔のクリエに制止され、なんか昇っちゃいけない方向の大人の階段を垣間見た。
そんな顔でそんなセリフを吐くな!
思わずドキッとした自分が許せない。
一度ため息をついて落ち着いた後、改めて問う。
「ではどうしろと?」
すると、クリエは重ねた本を、丁寧に一冊づつ降ろして並べはじめ、終わるとこちらに向き直って口を開いた。
「総てに力はあるが、総てをねだると無駄になる。ボクが出来ることは選ばせることだけ」
意味深な言葉をはいて並べるクリエ。
オレは手には取らずにタイトルを眺めてみる。
『鉱石図鑑』『日本の名刀』『誰でも簡単護身術』『あなたの知らない世界~ふりむいた先に』『初心者から始めるダンス~基本動作徹底解説』などなど……。
他にも色々な本があるのだが──。
オレは取り敢えず一冊の本を持ち上げクリエに問う。
「これは一体、何の役に立つんだ?」
「読んでからのお楽しみ!」
……教える気はないと。はいはいわかりました。
オレは『あなたの知らない世界~ふりむいた先に』を開いた──、瞬間!
「あっ、ちなみに見た直後に反映されてポイント消えちゃうから気を付けてね」
と……。
何時だったか、話をする人の目を見ろ、と教わった気がします。それが実現出来ているオレは偉い!
オレはクリエから視線を外さずに全力で開いた本を閉じた。
「ふっざけんな! 最初から言っとけよ!」
「いやいや、この部屋の注意事項ではじめちゃんには2回言った。ちなみに今ので3回目」
マジか! じゃあ自業自得じゃん!
あっ、そういえば、それで剣豪が手に入ったんだけ。
駄目じゃん!
まさかぁ、まだ無効だろぉ、チラッとしか見てないよ? 寧ろ見てないよ?
『危険察知』
『敵影探索』
「あっ、駄目だ」
「マジかっ!」
思わず口から零れるレベル。で、クリエの食い付きがめちゃくちゃ早い。
なになに? どんな? どうなの? 何なの? と、非常に煩いので口に人差し指をあて、言った。
「静かに」
もう諦めて読みきるしかない。
スキル名的には極上の代物だ。しっかり読み込んでガッツリ使わなくてはならない。
「ねえねえ、勿体振らずにボクにも教えてくれよぉ」
読み始めたオレの腕に絡まりついてきた変態を無視してしっかりと読み……たいのだが。
クリエの身体が腕を締め付けるかの様な力でくるため、柔らかくて温かいアレと、相変わらずの顔が、めっちゃ近くて──。
「駄目ぇぇーー!」
「えっ? おわっ!? ギャー!!」
突然、何かの衝撃に身体が吹っ飛ばされたかと思うと、激しく何かにぶつかり、後頭部に恐ろしい痛みが雷の如く全身を駆け巡った。
「あ、あああ、い、痛い! マジで痛いぃ」
「ああーっ! も、申し訳ありませんっ!」
両手で頭を抑えて悶絶するオレと、何故かここにいるダイナ。
あっ、痛すぎて何にも考えられない……。
「ふああっ! はじめ様! はじめ様! ああぁ、どうしましょう!? どうしましょう!?」
オレの上半身を抱き起こし、テンパるダイナが抑えたオレの両手ごと撫でてくる。
顔面に脅威の胸囲を押し付けながら……。
あっ、何かデジャヴ。
確かこのあと、息が──。
「ダイナちゃん、はじめちゃん呼吸困難で死んじゃうよ?」
「はうあっー!」
「──ぶはっ! がふっ! ぜぇぜぇ……死ぬかと思った──あー、あったま痛えぇ」
ようやく呼吸も頭打った衝撃も消え、地味に続く痛みを感じながら正面を見る。
すると、いつの間にやら正座して、耳や尻尾を垂らしてびくついているダイナがいた。




