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異世界転生太平記  作者: クマはんたー
一章
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2 新たなる地平線


 止まった地獄で一頻り笑い終えたヤツは、目元に残った雫を指で掬い、口を開く。


「ゴメン、ゴメン。脅すつもりは無いんだけど、反応が良すぎてやりすぎてしまったよ」


 質の悪い冗談の類らしいが、環境が環境だ、謝られたところで警戒が解けるわけでもない。ヤツはコホンと軽く咳払いをし語り始めた。


「さて、まずはようこそ『狭間』へ。どこの? と、言われたら一つとすべて、そしてすべてと一つの間かな。無理に理解しなくて良いよ。まあ、そう言うものだとだけで充分だよ。話がズレてしまったね。さて、君は今身体が死んだ状態で所謂魂だけで活動している。理由は一つ、ボクと話し、今後を決めるためなんだ。本来は選択なんてないんだけど、最近多いんだよね。困ったものさ。まあ、ボクらは一であり全であるから忙しくもあり暇でもあるんだけど……」


 瞬間顔が付くギリギリに近づかれ目が見開くことを自覚する。

 微かに笑みを浮かべて続けた。


「このまま天寿を全うするか、それとも……新たな試練と共に『違う場所』で、更なる先へと向かうかい?」

「し、試練? 違う、先?」


 咄嗟にはわからない。違う場所? 先? 一体何を言っているんだ?

 ヤツは少しづつ離れ自分を中心にステップを踏むように回りながら話を続けた。


「さて、君は死んだ。もう、どうしようもない即死だ。本来ならそのまま抜き出た魂を綺麗に洗って、細かく刻んで色んなものに変換する。まあ、リサイクルかな。君らの時間軸で言う一分一秒でこの世界はうんざりするほど死んで、ちょっといらないかなって言うほど産まれるんだ。知ってるかい? マンボウは数億の卵を産むんだ。ねっ? 大変さがわかるでしょ?」

「マンボウって」


 上手く理解できないが、簡単に言えば死んだ自分は一つに生まれ変わるのではなく、刻まれる限りの色んなものになるらしい。魚が出るくらいなら虫や何やらも入るのだろう。輪廻転生なんて話だがその規模は果てしないようだ。


「さて、話が逸れたね。まあ普通ならそうなんだけど、今回はちょっとその条件から外れられるんだよ。ボクが勝手に決めても良いんだけど、それじゃあつまらない。申し訳ないんだけど、同じことの繰り返しで飽きちゃうんだ。たまにあるこの機会を楽しませて欲しいんだ」

「楽しむって、嫌な予感しかしないんだけど」


 超常現象の暇つぶし、もしくはオモチャにならないか? 嫌なら刻むけど、というドMでもなければ嬉しくも何ともない提案に、どの選択が正しいのかなんてわからない。

 だから、一つ問う。


「こっちに、何かメリットはあるのか?」


 力強く、とはいかないが、どうせもう死んでる、と、言う状況が背中を押した。

 ヤツはその言葉に立ち止まり、うーんと考え込んでから、困った顔で答える。


「さあ? あると言えばあるけど、無いと言えば無い、かなあ」


 予想外な回答に思わず言葉が出ない。あるかないかもわからない、ならば何を判断材料にすれば良いのだろうか。答えの出せない自分にヤツは、うーんと唸り例を挙げてきた。


「わかりやすく言うなら、今までやっていた君の人生と言うゲームを終わらせて、別の初見ゲームに変える、って言えばいいかな。初見だからやってみないとわからない。もしかしたらはまりにはまる名作かもしれないし、絶望でしかないクソゲーかも知れないし。プレーヤーは君、ボクはそれを見守る観客ってとこかな」


「つまり、異世界転生的なアレってことか?」


 こちらの言葉に、人差し指を立ててにこやかに応えた。


「それ、そんな感じ!」


 話はわかった。確かにメリットデメリットで確認するのは難しい。

 わからないと言ったということは、環境有利ということは無さそうだ。更なる先とは、そのままの姿ということだろうから、無双種族転生な訳ではないのだろう。

 ならば、ついでに聞いておいて損は無いだろう。


「ゲームに例える位だから、やっぱりこの世界とは違うのか? 特に能力的に」


 ヤツはニヤニヤしながら言う。


「良いね、その中二病感。まあ、何も無くはないが、始めてからのお楽しみだよ」


 未練が無いわけじゃない。寧ろありまくる。

 だが、刻まれてこの世に止まるか、ラノベよろしくな転生体験のどちらが良いかなんて……。


「転生しか選びようがないでしょ!」


 ヤツに手を伸ばし、承諾した。

 試練を受けて、楽しませろ?

 上等だよ!


「お前の試練、寧ろこっちが楽しんでやる!」


 ヤツはそれはもう、とびきりの笑顔で手を取り言った。


「更なる先、魅せてもらうよ? ああ、久方ぶりの楽しみだ。特等席でその全てを魅せてくれ」


 そして、景色は無色となった。


「さて、先ずは身体を作り直さないとね」


 そんな軽い言葉の後、両手で肩を掴まれた。


「さあ、最初の試練の始まりだよ」

「最初の試練って、なにっ!? い、はべっ? ふへっががが!! あだ、がだばばっっっ──」


 痛いのか、熱いのか、寒いのか、叩かれているのか、潰されているのか、絞められているのか、抉られているのか、のばされているのか、折られているのか、割られているのか、崩れているのか、何もわからない……。

 ただ、一つこれだけはわかる。


「えぐっ、がらはか、ぐそっ! ばだろがぎっっ!? ばでぐうぅぅぅ!?」


 声を出さなければ、壊れてしまう。

 何も見えないが、不可解で不愉快な音と、声が鼓膜をたたき続けて止まらない。

 口から鼻から目から、全身の穴という穴から何かが滲み出し漏れゆく不快感。

 終わりも始まりもわからなくなった頃、『自分』は知らない地平線を見つめて立ち尽くしていた。


「こ、ここは……?」


 一瞬かもっと長い時間だったのか、思い出したくもないアレを忘れる。自覚はしているが、敢えて気づかないように振る舞うこととする。

 地平線の先にうっすら山が見えるが、それ以外何も見えない。いや、森? っぽいものもあるか。

 遠くを眺めていると、後ろから小さな音が聞こえ、振り向くとにこやかにこちらを見つめ小さく拍手をする、例のヤツがいた。


「おめでとう。無事に壊れず身体を作り直せたね」


 言われて身体に触れる。

 最後に触った自分の姿かは、正直わからないが、恐らく大丈夫そうだ。


「これ、一応生身ってことで良いんだよな?」

「ああ、その通り。紛れもなく君の身体さ。潰れた身体を逆行させながら、この世界の空気やなんやかんやを混ぜ込ませた、正真正銘! 異世界からの来訪者さ!」

「異世界、の。来訪者……」


 口に出して改めて馬鹿げたリアリティの無い言葉だと思う。思う、が──。


「正直こうならなくて良かったよ」


 ふう、とため息を吐きながらぽそりと呟いた言葉の先に、嫌な予感だけをひしひしと伝える空気。

 瞬間、近場にどちゃりどちゃりと、まるで泥でぬたぬたになった地面に、何か柔らかくて重いものが落ちたような──。


 所謂ホラーフラグ。


 回収しなければ進めないが、回収したら後悔しそうなヤツである。


「君の好きなように使うといいさ。折角だしね」


 折角の意味はわからないが、何やら使える『もの』らしい。

 気配だけで、泣きたくなる。正直な話、苦手なジャンルである。つい先ほどまで地獄絵図を見ていたし、落ち着いて確認すれば──。

 意を決して振り返ると、そこにあったのは。

「ああ、うん。やっぱりと言うか……、うわぁぁ」


 視線の先には大きな『かたまり』が三つと十分の一位の小さなもの。

 特に蠢くわけでもないし、匂いもない。ただ、元が何だったのか位は想像がつく。

 ただ、あり得ない形というか、何故そうなったかが全くわからない状態と言うべきか、現実味が無いために気持ち悪いなあ、という不快感くらいしかでない。

 これで動いたり、匂いやら何やらが出ていれば間違いなくアウトだったと思う。

 とは言え直視はしたくないし出来ない。


 ヤツへと振り返り問う。


「で、どう使えと? まさか食えとか言わないよな。 ……言わないよな?」

「ああ、うん。言わないけど……、いや、食べるのもアリかな?」

「いやいや、本来の使い方でいきましょう! そうしよう!」


 うーん、と深く考え出すので急いで止めに入った。ちょっと残念そうに『そうかい?』とか言うな!


「なら、気を取り直して説明といこうじゃないか。さあ、お待ちかねの『能力』のお話だよ!」


 能力! チート! ……てか、グチャグチャの死体? を使って? それ、なんてネクロマンサー?


「まず、この力は『それら』にしか発動出来ない」


 それって、それか? その、なんかヤバい塊。


「そして、発動するたびに、君は削られる」

「えっ? 削れ?」


 何かヤバいフレーズが出たぞ?


「だが、唯一無二の結果が生み出せる」

「……唯一、無二──」

「この世界、繋がりを新たに作るのも良いけど、独りスタートは淋しいだろ? それらに改めて身体を創造してあげるといい」


 身体の創造? 嫌な予感しかしない。

 あれか? 超ハイレベルなねんど工作的な?

 と、いうか『アレ』に触るの?


「無理無理無理無理無理っ! あんなの、視界の端っこで有無確認が限界!? こねくり返すとか──」

「こねく……り? ああっ! そう! そういうことか! イケる、イケるよ!」

「ふっざけんなし! 絶対本来の方法と違うだろ! イケるとか言うな! 先ず否定して下さい! お願いしますっ!」


 マジで質が悪い。その方が面白そうって顔に書いてあるぞ!

 まあ、それが正規ルールではないことがわかっただけでもまだマシだと思う。『よくわかったね』とか、普通に返されていたら、間違いなく放棄していただろう。

 見えなくなる場所まで移動とか、まあ、触れず見ずの方法で。


「ちぇっ、面白そうだったのに……」


 くっそ! むかつく。

 下手なこと言ったらヤバそうだから、黙って聞いておこう。


「ふぅ、まあ良いさ。さて、先ずは身体の創造だけど、君は一度、既にやっているんだよね。ボクとの出会いを思い出してみると良い」


 コイツとの出会い?

 やっと落ち着いて確認出来るようになった地獄絵図を見ていたところに、後ろからビビらせるようなヤツ。

 まあ、正直わかってはいるんだ解答は。でも、まずはこの一言から伝えたい。


「なんか、改めて嫌なヤツだな」

「うん、なんの事を言ってるのかはわかるけど、それじゃないね。……そうだなぁ、ヒントは──」

「お前を見たときに始まったキャラメイクだろ?」


 言葉を途中で遮られて、眉間に皺がよる、いわゆるムッとした表情で返す。


「君も意外と嫌なヤツだね」



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