17 ぼくらの庭先攻防戦 後編
「許、許さない! はじめ様に……ワタシのはじめ様にそんな凶悪な物をっ!!」
いつもなら怯えて泣きそうになりながら護ってくれようとするダイナが、牙を剥き出して獣の形相で相手を睨み付けている。
フルスイングしたのであろう巨体の黒装束もキックで止められたことに驚いたようで、直ぐに動けない。
「許さない! 許さない!! 許さない!!!!」
ダイナは上がった脚をスッと降ろしたかと思った瞬間にまたハイキックを放ち相手の頭部を狙う。
それがわかっていたかの様にデカイこん棒を軽々と持ち上げ盾にしたのだが……。
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279ページ
「な、なぎぃぃっ!?」
ダイナの蹴りはこん棒もろとも黒装束の頭部を打ち抜いた。
完全にグロッキーとなった黒装束だが、ダイナは更に容赦なく腹部へとワンツーを入れてアッパーをぶちこむと、意識が無くなったように前のめりにふらつく黒装束のその顎部へと鋭いフックを入れてダウンさせた。
「ふっ、ふっ、ふぅう……」
まるでボクシングのステップの様な動きを呼吸を整えながら止めるダイナ。
ヤバい、黒装束よりダイナさんの方が数倍怖い!
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280ページ
「は、はじめ様っ! お身体は!? お怪我は!?」
「え、あ、うん、大丈夫です」
すると、さっきまで猛獣のようだったダイナさんは、ヘナヘナと力が抜けるように崩れて泣き出した。
「よ、良かったぁ。何か、凄い胸騒ぎがして、でも何故かはじめ様のいる場所がわかって、何か大きい人が、大きい物をはじめ様に、振りかぶってたから……ふええぇぇん」
あ、たぶんいつものダイナだ。たぶん大丈夫だ。
オレはダイナに近より頭を撫でながら倒れた巨体を見た。
死んで……ないよ、ね?
そっと座ってダイナと視線を合わせて言った。
「ダイナ。ありがとう、たぶん来てくれなかったら本気でヤバかった」
「ぞ、ぞんなぁ、ぞんな、ごといばないでくだざいぃ」
普段かなり臆病なダイナ、もし間に合っていなければと考えたのだろう。余計に泣かせてしまったオレは苦笑しつつ、紙をダイナに渡す。
「ティッシュ並みに柔らかくなってるからそれで顔を拭いて。そんなに濡らしてたら可愛い顔が台無しだぞ?」
「は、は、はじめさ……うえぇぇぇん」
最高の獣な美少女にしたのはオレなのだから、可愛い顔と恥ずかしげなく言える。寧ろちょっと胸張って言える……、すいません、やっぱちょっと恥ずかしげです。クサい気もします。
顔を紅くしたダイナは余計に泣いちゃうし。
さて、まだ全てが終わった訳ではない。
2回も襲撃されたのだ、わからないはずがない。
「で? まだこれ以上やる気ですか?」
オレの言葉に泣いていたダイナは声を必死で止めて辺りをキョロキョロ見回す。
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283ページ
オレとダイナの対角に1人づつ黒装束が姿を見せた。
まだ1人足りない。
落ちている石刀を確認しつつ、鞘に手を当て警戒する。ダイナもオレとは逆の位置にいる黒装束へと正面を向けた。
互いに警戒しつつ、オレは気になっていたことを聞いてみた。
「ダイナ、ヒャウ様は?」
「ヒャウ様は、クリエ様とジェンガで遊んでいました。かなりお気に召したようで、まだ続けているかと」
ああ、暇潰し道具のあれか。
まあ、それなら大丈夫かな?
すると、こちらの会話に反応してオレと対面している黒装束が声を出した。
「……ヒャウ様、だと? 貴様、どこでその名を聞いた」
ん? 本人が普通に喋ったが……。一応言っとくか。
「ヒャウ様本人から聞きましたが。一応そう呼んで良いと本人から言われていますので」
「……あの方がどのような立場の御方か……、貴様わかっているのかっ!?」
あからさまに敵意剥き出しの黒装束。
あれ? この感じだとヒャウの警護の方々なのか?
「ちょっ、ちょっと待って下さい! 貴方たちはヒャウ様を狙ってきたんじゃ?」
「ふざけるな! 我等を潰し、ビャクレン様を人質に──」
「しませんよ! 本当にちょっと待って! 行き違いにも程がある!」
だが、相手はまったく信じてくれない。
「妖しげな模型鳥を飛ばす妖術士め! 我等は騙されぬぞ!」
だ、駄目だ。割り箸グライダーが裏目に出た!
興味を引かせるには良いアイデアだったんだが。
黒装束は倒れた二人を一瞥すると、ぶっとい針の様な武器を構えて言う。
「その2人を倒す程の腕。恐らく奏出野の隠れであろう」
ダイナの対面にいる黒装束がぼそりと言う。
『カナデノ』ってなんだ? 隣接の国か? 『隠れ』は、たぶんコイツらみたいな忍者のようなもんか?
「ダイナ、マジで嫌だけど戦うっぽい。まだ何人かいると思うから、何とかしてクリエの部屋に逃げ込むぞ」
「……は、はい」
クリエの部屋にはこいつらも入れないだろうし、ヒャウもこれだけ護衛がいるなら放っておいても問題ないだろう。
オレたちは逃げることを優先する方針に決めた!
あとは悟られずにやる。
「いくぞ?」
ダイナに声をかけ頷いた瞬間、大木刀を構えて相手に向かい走る!
上体を前傾したまま目標を睨み付けてロックオン!
間合いに入った瞬間、右足を大きく踏み出し力を込める。
「きぃえーーーぇいっ!!」
無意識に出る叫びと共に振られていく大木刀は恐ろしい速度で黒装束へと吸い込まれるように進む。
相手もその速度に驚いたのか、避けずに受けるようだ。
それなら、さっきの手が使える!
黒装束が受けた瞬間、木刀から手を離して踏み込んだ右足と前傾の勢いのまま更に一歩進んでいく。
例え手が離れたとは言え、重さと遠心力は馬鹿には出来ない。
受けたがよろめく黒装束を無視するように走り抜け、先程落とした石刀を踏みつけて工作始動!
腰にかかる重みで石刀が戻ったことを確認して、来た道を戻るように改めて走る。
「ダイナ急げ!」
ダイナの身体能力は虎っ娘なだけあって、異常な程高い。
幾つかの牽制攻撃の後、こちらに向かいながら後方に何かを投げつける。
工作で作った木のナイフだ。
何度も投げて調整した芯を通して投げやすくしてある中、遠距離用の武器だ。
オレは剣豪のせいでまったく使えない、なのでダイナには常に数本装備してもらっていたのだ。
ちなみにオレが投げると下手なアイドルの始球式みたいな放物線を緩やかに描き、小さな子供でもキャッチ出来そうな位、優しく落ちる。
黒装束たちはどうやらその手の武器を持っていないようで、幸運以外の何物でもない。
オレはさっき斬った丸太まで到着すると、後ろを振り返り敵を確認する。
「はじめ様!」
瞬間ダイナがオレの横を通り過ぎた。
よし! 本当は身内以外に見せたくはなかったが、背に腹は変えられない!
オレは両手を柏手を打つように大きな音を立てて、どこぞの錬金術士よろしく叫んで作り上げた。
「工作!」
声に合わせるように、目の前に木の板が何枚も立ち上がっていき、そこそこ巨大な壁が現れたのだが……。
ズガっ、と何かが刺さる用な音がした。
目の前にはギリギリのところで止まった、ダイナが投げていた木のナイフ……。
「あ、あっぶねぇぇぇ」
板を立ててなければ眉間にでも刺さってお陀仏だったかもしれなひ──。
「い、行くぞっ!」
ビビりながらも、足をこれ以上止めないように走る。
最悪ダイナが投げていた木のナイフを数本確保されている可能性があるのだ。
ヤバいヤバいヤバいヤバいヤバい!
早く小屋に逃げ込んでクリエの部屋に辿り着かないと、本気で死ぬる!
小屋が見える距離までしか離れてなかったのに、えらく遠い!
何せ玄関は反対側、こちらからは回って行かないといけない。
ダイナはまだナイフを所持しているようで後ろを警戒しつつオレの数歩先まで進んでいる。
急に出来た壁を警戒しているのか、未だに黒装束の2人は現れてはいない。
逃げ切るには今しかない!
「み、見えた!」
「はじめ様! 後ろはまだ来てません!」
視線が捉えた玄関に、オレは少し気が抜けてしまった。
後ろは未だに追い付いておらず、ゴールが目の前に現れた、故に1つ、重要なことが頭から抜けていたのだ。
視線と気配は『5人』だったことを……。
玄関に辿り着くと、ダイナが後方を警戒してくれているので、その間にドアを開ける。
よし! 後はクリエ部屋に引きこもりすれば勝つる!
時間さえあればパーティーメンバー増加もスキル取得もあるのだから、どうにでもなる、はず?
そんなことを考えながら玄関を開けたオレはその場でかたまった。
目の前には、何故か機嫌の悪いクリエと、逆にご機嫌のヒャウ。
そして……やたら申し訳無さそうな苦笑いを浮かべている見知らぬ女性。
「おおっ! はじめ! ちょうど呼びに行こうと思っていたところだ!」
外と中の温度差に、オレとダイナは理解が追い付かず、呆けることしか出来なかった。
このあと直ぐに、呆けたままのオレたちを追ってきた2人も玄関を開けて入ってきたのだが、にっこにこのヒャウやら既に覆面を取り苦笑いの仲間をみつけたせいなのか、やはり理解が追い付かず呆けたメンバーが更に増えることになった。
とりあえず、留守番組と戦闘組のすり合わせが必要だ。
「あー、固まってしまうのもわかるけど、一度皆で話し合おうか」
そんなオレの言葉に、一同頷いて了承してくれた。