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異世界転生太平記  作者: クマはんたー
一章
15/32

15 ヒャウのおうち探訪

 にこやかに、それでいて軽く手を振るロリ邪神こと、クリエ。


「く、クリエ様、なんで?」

「なんでって、ボクだけ抜け者にするつもりかい?」


 ダイナの『なんで?』の問いは違う意味だろう。だが、いちいち気にしていたら疲れるだけだ。

 そんなオレの顔を見て、ブーたれた表情になるクリエだが、さっと顔を変えてビャクレンに笑顔で話しかけた。


「ここを借りて初めてのお客様だ、なら──」

「──っ消え!?」


 そうか、ビャクレンからは消えたようにみえているのか。


 クリエは悪戯顔で、指を口に当てつつオレらに黙っているようジェスチャーしながら立ち上がり、慌てふためくビャクレンの背後に回ってその肩に手を置いた。


「こそこそ隠れるのも──」


 瞬間ビャクレンの裏拳がクリエを捉えてトンだ。

だが、オレたちの目からは透けるように、恐らくビャクレンの目からは消えるように避けられ、悪戯成功のクリエはテープルに足を組んで、優雅にカップを持って言った。


「あまり良くないから、自己紹介を、と思ってね」


 もう、呆れるしかない。


「な、あ、き、貴様! 『影隠れ』か!?」


 ビャクレンは脅え腰ながらも戦闘体勢の構えでクリエにいうので、オレはちゃんと伝えることにした。


「消えたり出たりするが、無害だから気にしたら負けです。調子にのると質が悪くなるので華麗にスルーして下さい」

「はじめちゃん、流石にひどくない!?」

「カレーにするう?」


 晩御飯の話はしてません。

 カレーではなく華麗なんだが、まあスルーはわからないか。

 とは言え詳細を語る訳にも必要もない。それよりも気になるワードが出たぞ!

 敵ではないことは理解できたようだが、得体の知れないクリエに未だ警戒したビャクレンに話しを続ける。

 

「まあ、気にするなってことです。ところでその、『影隠れ』とは?」


 するとビャクレンは、しまった! と言った表情をしたあと、目を泳がせてぎこちない笑みを作って言う。


「あ、あれー? あの部屋は、どう変わったのかなあ? は、はじめ見せてくれないか?」


 リビング横の引き戸を指差す。

 あれか、言っちゃダメなやつか。まあいいや、多分だけど忍者とか暗殺者みたいな奴のことだろう。

 オレは気にした様子を見せることなくにこやかになるような努める。


「そっちは寝室に使わせていただいてますが、客間としても使えます」

「寝る部屋なのに客間?」


 ビャクレンの問いに笑顔で頷き、そろりと戸を開けた。


「っ! 草の匂い? なんだ? ゆ、床が、板じゃない!」


 板はきったなくなってたので張り替えて、更にその上には畳を敷いてる。

 この驚きようだと、この世界には畳は無いのか。

 と、言うことは、だ。

 オレは驚くビャクレンの横を過ぎて部屋の奥に作った押し入れまで進み、襖を開けて中の布団を敷いてみた。


「お、おい。なんだ、そのやたら柔らかそうな布の塊は──」


 似たような煎餅布団はもともとあったから、予想はついているのだろうが、しっかりきっちり説明しておこう。


「こちらは寝具のおふとぅんです」

「し、神具のおふつん……か」


 なんだ? やはり理解していないのか? 

 それにしても、おふつんて……。


 仕方がない。ならば教えねばならない。


「こちらは寝るときの道具でありまして……、よいしょっと」


 敷布団に枕と掛け布団を用意し、オレはゆっくり入り込む。

 はあ、もうこのまま寝たい。いや、先ずは説明か。


「こうやって、使います。ふわぁー。……失礼、身体の疲れをしっかりとる為には、しっかりとした寝具が必要なのです」


 呆けた様子のビャクレン。流石に寝ながらの説明は駄目だったか。

 布団から出ると、ダイナがスッと近寄り布団を畳むと、綺麗に押し入れへと収納してくれた。


「ありがとう。さて、次は……」

「待て待て待て待て」


 ビャクレンに肩を掴まれ揺らされるオレ。

 

「なんだあれ! なんでしまう! ヒャウも使いたい!」

「ヒャウ?」

「ヒャウはヒャウだ! ビャクレンでは硬いからな。はじめもヒャウでいいぞ。それよりもだな!」


 ビャクレンの愛称はヒャウなのか。

 だいぶ呼びやすいものになった。

 ヒャウは勝手に押し入れから布団を出そうとするので、一先ず落ち着かせ、オレはゆっくり上から下まで首を動かし、ヒャウをじっくり見た。


「な、なんだ? そんなにじっくりと見るな!」


 顔を真っ赤にして、隠すように腕を回すヒャウに、オレはしっかりと告げてやった。


「駄目です。不合格。お布団は使わせません」

「な、何故だ! ヒャウは末妹とは言え、ライドウの娘だぞっ!」


 ふむ、理由より権力を推してきたな。だが、それでも言わねばならぬことがある。

 オレはビシッと指を指して言ってやった。


「汚い。散々転げて土やら砂やらだらけじゃないですか! 玄関で払ったくらいじゃお布団はつかわせません!」


 そう、とにかく汚いのだ。

 あの布団はオレのだ。せっかく綺麗な布団を作ったのに汚されてたまるか!


「ぬうう、国主の娘に汚いなどと……、し、しかしだな、はじめ。これ以上汚れを落とすなら、館に戻り水浴びして着替えねばならない。だが、またここに来るまでに汚れてしまうぞ?」


 汚れないように再訪して頂きたいのだが、ヒャウはそれが嫌だと申す。

 仕方あるまい、それならば!


「クリエさん、ダイナさん! 洗っておしまい!」


「りょーかーい!」

「ええっー! そ、それは、あの、あ、わ、わかりました!」


 ニコニコとヒャウの右腕に絡むクリエと、思いもしなかったことに慌てながらも、クリエに同調し、左腕を掴んだダイナ。


「えっ? な、何をする気だああぁぁぁぁぁ──」


 そんな二人に引きづられていくヒャウに、オレは笑顔で手を振った。


「いってらっしゃーい」


 それから、体感時間数分後(時計が無いから曖昧だが)妙な悲鳴後、きゃいきゃいした女子たちの楽しそうな声が響いた。


 

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249ページ

「なあ、はじめ。なぜこの小屋には、あんなものまであるのだ?」


 たてがみのようだった金髪は水気を含んだせいか、ペタッとストレートになり、ケモ耳もペタりと倒れ、頬がほんのり紅いヒャウは、浴衣のような服を着ている為、妙に色っぽい。

 因みにこの浴衣モドキは、ワタクシの工作クラフトワークで作ったダイナの寝間着の1つである。

 因みに、ヒャウの言う『あんなもの』とは……。


「でも、気持ち良かったでしょ? 『お風呂』」

「いや、確かに良いものではあったがな?」

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250ページ

 現代日本で生活していた知識のあるオレと、同じ知識のダイナからすれば、風呂が無いことの方が無い!

 風呂の製作には1日かけたが、ダイナは喜んで助けてくれたし、クリエは露天風呂の本をわざわざ見つけて読ませてくれた。

 写真と効能などしかなかったが、何となく雰囲気で作れた。

 床に排水用の配管を作り蓋をした。

 回りにそれっぽい岩や石を並べ、写真を思い出しながら『工作クラフトワーク』で慣らし、岩風呂の端に木の箱を置く。

 この箱が重要なのだ!

 ダイナさんの『家事ハウスワーク』のヤバさはキッチンに留まらない。

 検証の結果、ハリボテでも良いからダイナが家事を行える何かであると認識すれば、スキルが発動し、家具として使用出来ると、結果(料理やお湯など)が残るのだ。

 欠点はダイナしか家具は『使用できない』若しくはダイナの『手から離れると消えるか見えなくなる』。あと『場所が決まってしまう』こと。それに、ダイナが『家事である』と認識出来るものでなくてはならない。

 残念ながら、トイレがセルフ水洗なのもこれが理由だ。

 さて、話を戻そう。

 では、あの箱は何なのか。

 ズバリ『湯沸し器』である。

 信じられないだろ? オレも信じられない。

 でも、ちゃんとお湯になるんだよ。何でだかわからんが。

 因みに水は小屋の近くにある井戸から組み上げてる。『工作クラフトワーク』で主導ポンプを作ったから、バケツの何倍も早く水が貯まる。

 風呂は体感10分位で沸く。

 何となく作った砂時計をダイナに渡したら、それが終わった瞬間に沸くようになったのだ。

 もう少し小さいやつを渡せば、もっと早くなったのかもしれない。

 あとは、覗きや獣避けの壁や着替えの場所などを木の板を貼っただけだが、作ってある。

 これは今後、もっとしっかり作りたい。

 木は周辺に余るほどあるしな。

 すっかりほかほかで綺麗になったヒャウ。

 本人は高スペックになった小屋に落ち着かない様子だが、そこは慣れてもらうしかない。

 さて、せっかく綺麗になったのだから、お楽しみといこうじゃないか!

 オレはおもむろに押し入れを開けて布団のセッティングをしてヒャウに言う。


「さあ、どう──」

「お待ち下さい!」


 ええっー! いざ、オフトゥンの魅力を堪能して頂こうと用意したのに、まさかのダイナからストップがかかった!


「……そちらは『はじめ様』のお布団ですよね?」

「えっ? あっ、はい」


 ダイナさんの目が怖い。

 彼女はスッと布団を片付ける。ヒャウも楽しみにしていたのだろうが、ダイナの雰囲気に何も言えない。


「ビャクレン様。少々お待ち下さい」


 笑顔で伝えてくるが、逆に怖い。

 暫くすると、クリエの部屋から持ってきたであろうダイナの布団。

 おもむろに畳に敷くと、ダイナは笑顔でヒャウに言う。


「どうぞ。こちらでお試し下さい」


 表情とは裏腹に強い意思を感じる雰囲気に、ビャクレンはごくりと喉を鳴らして慎重に布団に近づいていった。

 ……なんでだろう。ただ布団に入るだけなのに、トラップだらけのダンジョンに挑むような緊張感が漂っている。

 ヒャウはまたごくりと喉を鳴らして布団を見つめると、意を決したようで足先からスッと入っていった。


「ふわあ、はわわわわああぁぁぁぁ」


 身体全部が入り、ヒャウが可愛い悲鳴をあげたあと、ガバッと上半身だけ起こし、凄い勢いで喋りだした。


「あは、あはははは! すごっ、凄いぞ、この『おふつん』とやらは! ヒャウが今まで寝ていた木綿敷とは比べ物にならん! なんだこれ! なんぞこれ! あははははは!」

 

 興奮のあまり笑ってしまっているが、どうやらお気に召していただけたようだ。

 ダイナはにっこりと笑いヒャウに言う。


「はい! はじめ様が作り出したものは素晴らしいものばかりですから!」


 いや、普通にあるものを普通に無いところで作っただけだ。

 りっぱな胸をこれでもかと張って自慢気なダイナさんには悪いけど。


 その後もガロウに持っていってもらった木刀や、他に作ったものを見せたり、ダイナとオレの訓練を一緒にしているうちに日が沈みだした。


「うむ、もう暗いので今日は泊まっていく」


 ……うん、何かおかしなことを言い出したぞ?

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