13 マッスルフォームは読書から
勿論部屋は別、クリエ部屋に二人で寝てもらい、小屋の寝所でオレが寝る。
布団は日本式の敷くタイプたったが、何か床も布団も臭うし薄っぺらいので、『工作』にて床を削ったり磨いたり。
布団はふわふわにして綺麗に作り直した。
木の板に布団直置きは何か嫌なので、床には一部だが、畳を敷いた。
別の布団を材料にして合わせて作り、新品となった布団でゆっくりと寝かせてもらった。
ふわふわの布団と新品畳のい草の匂いがたまらない。
一人で雑草集めるのは苦労したし、3人分のふわふわ布団を作る為に、同数の3人分余計に材料として、消えてしまった。
気分がのってきて、夜通し何か作ろうとしたが、妙な倦怠感と身体中、バキバキ鳴りながら酷すぎる筋肉痛が始まり、それどころではなくなってしまった。
結局、その痛みは昼近くまで続いた。
「大丈夫かい? はじめちゃん」
「わかんない。もう、どこが痛くてどこが痛くないかわからない位に痛いし辛い。これアレか? 工作し過ぎた反動かなんかか?」
もう、身体中を折られたり絞られたり叩かれたりした痛みが続き過ぎて、正直泣いた。
朝起きたダイナさんが冷凍庫で出来たらしい氷くれたり、ストレッチしてくれたり、色々介抱してくれたおかげで、だいぶ楽になった。
こんなことなら調子こいてスキル使いまくらなければよかった。
そんなオレの言葉と心情に、クリエは首を傾げて口を開いた。
「その痛みは、たぶん『工作』のせいじゃないよ」
な、なんだと……?
「じゃ、じゃあ何が原因──」
「昨日読んだ剣豪の本で得たスキルじゃないかい? その証拠に、キミの身体すんごいことになってるよ」
クリエに言われて見てみるが……。
腕が、ゴツくなってる? あれ? 腹筋がガッツリ割れ、こんな感触だったか? 自分の身体をじっくり見るようなナルシストじゃないし、ぶっちゃけ記憶トンでるからさっぱりわからない。
「どっかに鏡とかないかな。全然わからん」
「それならボクの部屋にあると思えばあるよ」
あると思えばあるよって……、まあ、そう言う部屋だから仕方がないのだが。
「うぅ、起きるのが億劫だ」
介護士のダイナさんはお昼を作りに行ってるからいないし、まだ痛みも倦怠感もとれた訳ではないので正直辛い。
ちなみに、さっきまでダイナさんの膝枕だった。
天国だった。このままで居られるなら、痛くても良いと思った。割りと本気だった。
「まあまあ、たぶんその姿を自分で見たらテンション上がるぜ?」
ふむ、そこまで言われたら見てみたくなった。
「んーっ、よっこいせぇ! うぅあぁぁぁ。いたぁぁぁ……」
「アレだね。おじいちゃんみたいだね」
うるせぇ! けど、言い返せない。起き上がると余計に腹と背中が痛い。
「はじめ様っ! 大丈夫ですか──」
オレの叫びを聞きつけ、オタマ持ってエプロン着けたダイナさんが駆けつけた。
なんか、ベタだなあ。
似合ってるし可愛いとは思うが、状況的にそんな言葉が真っ先に浮かんだ。
おっと、心配させてはいけない。ちゃんと返さねば。
「大丈夫、大丈夫。寝てばかりもいられないし、少し動ける様になったからクリエの部屋に──、どうしたん?」
心配させまいと、色々言うオレをダイナは呆けた様子でこちらを見つめていた。
「──ふわぁ……、あっ、いえ、な、何でも無いです! クリエ様の部屋ですね? もう少しでお昼ご飯が出来ますので、用意して待ってますねっ!」
オレの言葉に正気を取り戻したのか、バーっと言葉を並べて一礼すると、風の様に台所へと走り去ってしまった。
「はじめちゃんも罪な男だねぇ」
罪? オレそんなに悪いことしてたっけ?
でも、謝ることは多数あった。
「やっぱり昼まで寝てたのが悪かったのかなあ」
「寝てたよりも、その空気読めない感が最早罪だよ」
クリエにやれやれとボディランゲージされた挙げ句、ため息までつかれた。
イラっとした。
取り敢えず痛い身体を引きずりながら、クリエの部屋に向かった。
扉を開け入ってくクリエを確認後、扉を閉めた。
「何でいきなり閉めるんだよ!」
閉めた瞬間、ものすごい勢いで開けたクリエに、オレは静かにこたえた。
「変なセキュリティを考えたせいで、一回目は壁にしか見えなくなった」
「……本当に余計なものばかり考え付くね」
説明をして呆れられる。
解せん!
さて、これ以上は不毛なので不思議書庫に入る。ログハウスに出来た隠れ家的な佇まいの書庫は気持ち木の香りが感じられる。
等間隔に掛けられたランタンから、ふわりと光を放たれ、暗いはずなのに、本棚はしっかりと照らされていた。
本棚の手前、入ってすぐに幾つかのテーブルと椅子、左を向くとシャレた喫茶店の様なカウンター。
逆を向くとカーテンで遮られた空間があり、そこにはダイナとクリエのベッドが並んでいた。
夜中に畳と一緒に作った代物だ。おかげで薪は一つ残らず無くなった。
まあ、ダイナの『家事』にはどこから来てるかわからないガスを使ったコンロがあるので、薪は無くても困らない気がする。
そして、そんなカーテンの近くに『姿見』があるはず。
「鏡、かがみ、っと……、うわっ!?」
「うん? どうしたんだい?」
鏡を探していたら、見覚えのあるおかしなものが床に布を敷いた上に置いてあった。
後ろを振り返り、クリエを見たらニヤついてやがる。くそっ! オレが驚くと知っての所業か!
「いきなり見たら驚くに決まってるだろ! ビックリ箱の方がまだ可愛い気があるわ!」
「置いてきたことすら忘れていたから、余計にビックリしただろう?」
「えっ?」
「えっ?」
「いや、最初にこの世界へ降りた場所に放置されたままにしたことを忘れてて驚いたんでしょ?」
「いや、見た目、要モザイクがいきなり目に入って、うわああっ、みたいな?」
「…………ふぅ」
「なんだよ! 仕方ないだろ? 確かに忘れてたってのもある……けど?」
「……今度は何?」
呆れた様子のクリエはスルーしつつ、もう一度カーテンの先の二人のベッドを見る。
あれ? 何か絵面がおかしいところが……。
「なあクリエ、あのやたら小さいやつだけ、何でベッドに乗ってるんだ?」
オレの質問に合点が言ったのか、短的にこたえてくれた。
「ああ、アレはダイナちゃんが、最初から持ってきてたんだよね。夜は抱き枕みたいになってた」
最初から? 森探索からずっと?
「持ったことないけど、地味に重そう。てか、あの見た目……、ダイナからは違うものに見えてるとか? ま、まあいっか」
深くは追及せんでおこう。
さて、問題の鏡をーっと!
「あったあった、これ……だあっ?」
鏡に写ったクリエと2人♪
細身のようでやたら逞しくもある~♪
何ぞこれ!? ジムすら通わず細マッチョなオレ!
アレか? 寝てる間に突然変異なクモにでも噛まれたか?
取り敢えずスパイディなポーズをしてみると、身体が軋み音をあげ筋肉痛を思い出して悶絶。
手首からクモの糸も出ませんでした。
「あうあぅ、いだいぃぃ……、で、これ何ぞ? 本読むとマッチョになる仕組み? ああ、気怠い」
「ダイナちゃんも揃ったら改めて説明をするけど──」
クリエが謂うには、この『書庫』に保管された知識や記憶、経験が本となっており、前の世界でオレの、もしくはダイナや物体Xたちが産まれてからクリエに洗われるまでのものらしい。
ただの本と違うのは、その知識や記憶を読み込むことにより、この世界がそれを実現出来るよう変化を加えてくるらしい。
オレのムキムキボディもその一貫だそうだ。
読むことで得られるスキルは魂のレベルを消費する。
世界が与える変化が大きいほど消費され、数値がある分だけ好きに得られるようだ。
但し、相性などもあるし、スキルによっては融通が効かないこともある。
ちなみに、オレの『剣豪』のスキルは『剣特化』の為、他の武器は扱えないらしい。
扱えないの意味がわからないが後で試してみようと思う。
クリエの説明が終わった頃、ドアをノックする音が鳴り、ダイナが顔を出した。
「はじめ様にクリエ様ぁ、お昼ご飯が出来ましたよー」
三人で食べる昼食。
ご飯と味噌汁と岩魚? の塩焼きにお新香。
うん、異世界感がまったく無いです。
よく、ラノベとかアニメとか、『白米食いたいなあ』みたいな……、『味噌みたいなものが○○にあるだと!』とか、『何だかんだで和食を再現するぞ』……とかのイベントがあるのだが──。
……無いな。まあ、美味しい食事が食べられれば問題ないがな。
その後、食事しながらダイナにもさっきの話をし、色々試してみることにした。
スキルを得るには、結局のところ魂の数値が必要で、悪戯に増やし、数値を減らしたくない。
書庫には純粋な資料(転生前に知った情報)もあるらしく、本棚を間違えないよう注意するようにとクリエに言われた。
何故かオレにだけ二回も言ってきた。
解せん。
取り敢えずダイナには自己防衛の為、『格闘技大全集』とやらを読んでもらった。
入ったスキルは『武芸』と『拳士』『蹴士』の3つだったが、数値は4しか減らなかった。
スキルマニアのクリエ先生曰く。スキルにもランクみたいなものがあるとのこと。オレが取得した『剣豪』も本来は剣を扱うスキルを取得するところから始め、身体と技術を高めてやっと到達出来るもの……らしい。
飛び級したかわりに、急速肉体改造を施され、更にはそれに特化した能力、癖、体勢を無意識に叩き込まれた為、今現状まで続いている筋肉痛になるわけだ。
ちなみに、ダイナはクリエセレクトにより無理の無いスキル選びとなりオレの様な実害は皆無だった。
ダイナ創造時に『蹴り技が似合う』とか『虎の時点で腕力半端ない』とか、『自然なシックスパックは美しい』とか……。
うん、土台は既に出来上がってたな。
平凡な高校生だったオレとはわけが違う!
結局、筋肉痛が抜けたのは二日後だった。
二日の間は『工作』で畳を敷ききった和室を作ったり、水を入れると簡易浄水出来るでかめの木の樽を作ったり、風呂を作り始めたりと、やることは満載だった。
二日目には、一日に三十分位(時計は無いのでなんとなく)三回に分けて、ダイナと手合わせ的なことをし始めた。
身体は痛いが動けないレベルではないし、寧ろ動かしたくなる衝動に突き動かされた感じである。
とは言え、いくらスキルを身に付けたとて産まれて初めてのことである。
まずは『武芸』を得たダイナのゆっくりとした基礎の動きに対して、それに合わせてこちらもゆっくりと木刀を振るということから始めた。
互いに手加減も本気も難しいので仕方がない。
何せオレの太刀筋は腐っても『剣豪』らしく、(次にガロウが来たときに交渉出来るように、と)製作した石の刀を庭に生えた木に本気で居合いを放ったところ、楽に斬り倒せてしまった。
ちなみに、ダイナさんは蹴り3発と右ストレートで倒してしまった。
可愛い顔してめっちゃ怖いんですけど!
そんな感じで暮らしていたオレたち3人に、6日目の昼ごろ初めての来訪者が現れた。