10 家と家事とワタシ
正直、お土産レベルの玩具だがどうだろうか。
じっくりと見つめている
「……っ! はじめ、と言ったか。すまないが、その木剣を持たせてはくれないか?」
渡して油断しているところを……って感じではなさそうだ。こりゃマジで上手くいくか?
「どうぞ、何だったら振ったり構えたりしてみてください」
手渡されたガローは、軽く振りつつ眺めたり指を滑らせたりと、じっくり検分する。
「これは、見た目に妙な艶があり手の込んだ物と見受ける。しかし、武器にしてはやたら軽い」
ガローの言う通り見た目綺麗で、武器にならなそうな軽さなのは仕方あるまい。だって土産物だもの。
「護身用や訓練用というより、主に飾りとしての物ですかね」
「飾り……、実用は難しいということか?」
何となく察した。この世界、剣と魔法なファンタジーだ。いや、魔法はあるかわからないけど。
さて、実用に対しての質問には答えねば。
「いや、あくまでも材質の問題ですね。中に芯を入れても良いですが、重みのバランスが悪くなるので。それなら木に拘る必要無いですし、こっちの方が良いかもしれません」
言葉に合わせる用に視線を自分の手元に持っていくと、ガローも納得いったのか、頷きながらこたえた。
「つまり、そちらも見せてもらえる品、と言うわけかな?」
笑顔で手渡し見てもらう。
おぉっ、と驚きの声をあげている。やはり攻撃力と耐久力か。
一頻り検分したガローはこちらを見て問うてきた。
「ちなみにだが、これは一つどのくらいの期間で制作出来るのだ?」
ふむ、多分頑張れば二時間位で出来そうな気がするが、真面目にそれを言うこともない。
「材料が揃っていれば、ですが、二日間位ですかね」
「二日あぁっ!?」
あれっ? 早い? 確か良い感じに乾いた木を機械で寸断したり、磨いたりして仕上げは二時間とか三時間くら……。
ああ、忘れてた! そんな『機械』なんて存在しないのか!?
どうにか言い訳を……、あっ、駄目だ。ガローの中で木刀の価値が変わった。何と言うか、見る目が明らかに変わったのだ。
「な、なあ。これらは幾らくらいで取引しているのだ?」
ほらな?
「いや、私たちは旅人故、これで路銀が出来れば充分です。なので価値は売り手に任せています」
ぶっちゃけ、幾ら? って聞かれても通貨がわからないし、安く買い叩かれても困らない。元手は掛かってないしな。
すると、一唸りして少し考えて口を開いた。
「正直、これに価値があることは解るが、実際幾らが妥当かわからん。で、ものは相談なのだが、これら二つを借りられはしないだろうか。勿論ただとは言わない。この先にあるうちの休憩小屋と、そこにある食糧を好きにしてくれていい」
マジか! 家と食事!
やべっ、どうしよう乗っちゃうか?
「それは、はじめ様が制作した貴重な物でっ?!」
「くっそ! 悩むことすら━━、ああすいません! 大丈夫ですよ。寧ろありがたい話です。ああ、それらはお貸しいたしますのでご安心を!」
「えっ、あ、ああ。で、では小屋まで案内しよう」
ダイナが余計なことを言い出したのをチョップで止めて、乗っかることにした。
駄目だ。忠誠心と言うか、尊敬度と言うか、何かが振りきれている。
これ、早いうちにどうにかしないと酷い目にあうかもしれない。
ガローはと言うと、オレらのやり取りに呆気に取られたが、ダイナの『はじめ様が制作した』の言葉を聞いたからか、特には詮索してこなかった。
「特に問題が無いなら、行こうと思うがどうだろうか?」
「はい、お願いします。ほら、ダイナもっ!」
「ううっ、お願いしますぅ」
そんな哀しげな目で見るな。
くそぅ、何かオレが悪いことしてるみたいじゃないか! あれ? 悪くないよな?
「はじめちゃんは酷い男だねぇ」
「うるせぇっ!」
「んっ? どうした?」
「ああ、いえ、何でもありません。気にしないでください」
ガローに見えないこともあって、ダンマリしてたクリエが無駄に弄ってきやがるもので、ついつい声を出してこたえてしまった。
この辺りも、少しずつ対応していかないと……、ああ、何かイガイタイ。
何かクスクス笑いながらダイナに耳打ちしてるクリエを無視してオレたちはガローの後を付いていった。
「ここだ」
着いたのは木で建てられたログハウス的な家。
小屋じゃない、家!
「基本は魔獣の群れが出たときの拠点で、5、6人は寝泊まり出来るようになっている。決まった定期で予備食糧の入れ換えや補充もしているから、今ある分は気にせず使ってくれて構わない」
すげえ、ってか、待て!
魔獣? 何かヤバいワードが出たが?
「この前、討伐隊が群れを鎮圧したばかりだから、次の繁殖期までは当分使う必要もないだろう。まあ、俺みたいな暇な狩人はいるだろうから、客人が使用していると伝えておこう」
とりあえず魔獣の脅威は大丈夫そうだな。
ガロー先導で家を内覧し、適当な説明を受けて今日は別れた。結局小屋は1LDKの平屋だった。部屋には扉は無いし、洗面所や風呂も無い。
作りは和風な感じなので、違和感と言うほどのものはなかった。
また数日以内に来ると言うので、それまでには数本の木刀を用意しようと思う。他にもどこまで作れるのか『工作』の力も試してみたいし。
そんな思考をしてる中、クリエが声をかけてきた。
「はじめちゃん。工作で扉を1つ作ってくれないかい?」
急な願いに首を傾げる。
「扉って、女子部屋作らないとだから、構わないけど」
「いや、扉だけあれば良いんだけど……、君は変なところで気が利くんだね」
「いや、変じゃなくて重要だと思う。まあ試したいことが山程あるから一緒にやっちゃうか。ダイナはどうする?」
オレに声を掛けられたダイナは台所から、顔を出してこたえてくれた。
「食糧の状態とか、量を確認したあとご飯をつくりますので、終わるまではここにいますよ!」
おおっありがたい! 炊事も出来るダイナさんマジ女神!
まさかのメシマズじゃないことを祈りつつその場を任せ、オレとクリエは家を出た。
家の裏には薪割り場と井戸、小さな畑がある。
「よし、先ずはクリエの扉を作ってみよう! 割る前の薪を集めて、と。さて、扉……扉……扉ぁぁぁ」
集めた薪の上に手を置き扉を想像しながら念じる。そして……。