1-2 異能力があればラブコメどころではない 『LCM・D』冬華
「ふむ……さきほどの小百合くんは危険性を『ランクD』に落とせるかもしれないな? 家族や学校にも監視の協力を望めるなら、年に数回程度の診察で済む」
「私と同じランクですか」
「私としては秋実くんのほうが『ランクC』以上になりかねないと思っているけどね。助手に推したのだって研究資料を兼ねて……あれ? 聞いてなかった?」
冬華の目配せで、警備員たちはさりげなく秋実の退路へまわりこむ。
「あの……博士の分析の根拠って……」
「天才だから。まあ、学習努力も続けてきたし、その手の異能力者でもあるけどね」
「それは同じ分野の学者さんにとって、反則で博士号を横取りされたような……」
「だ、だまれ! いずれにせよ希少な才能が社会に貢献してやっているのだから、ありがたく思え!」
秋実だけでなく、職員や警備員まで悲しげにうなだれた。
検診が進むと、秋実は診察結果のかたよりに困惑する。
「見ているだけで露出が進む……ふたまたが味でわかる……貧乳ばかり集まる……恋愛というか、性に関わる効果ばかりですね?」
「能力者自身の特徴や嗜好に関連する傾向がある。無意識でも体が求めているから身につく……と考えたいところだが、そのわりには『生存』や『成長』に関わる能力が極端に少ない。そこはまだ不可解で、今後の研究課題だな」
「しかもラブコメじみた効果のような……」
「非科学的な発想はやめたまえ。若者の意識がその方向へかたよっているだけだ……たぶん」
冬華は休憩のために問診バスから出て、何度かのびをするだけでもどる。
「秋実くん、はた目に見た感想は?」
「少し安心しました。博士の言う『平和的解決』がたてまえだけでもなさそうで」
「え。あ……うん、そうだね」
冬華がなぜか目をそらし、秋実の笑顔がこわばる。
「じゃ、次にいこうかー、『ランクC』はかったるいな……お、もうすぐ『ランクB』か」
冬華はうれしそうだが、職員たちには緊張が走る。
秋実もすでに学んでいる基本として、異能力者はこの施設へ来た段階だと、おおまかな危険性しかわかっていない者も多い。
『ランクE・異能力は確認されたが、危険性はほとんどない』
十代なら数百人にひとりは見つかり、念のために行われている追跡調査も予算を圧迫して問題視されている。
冬華によれば『変人や性悪のほうがよほど危険で有害』という。
『ランクD・危険性はあるものの、悪用される可能性は低い』
本人や周囲の協力によっては監視の必要もなく、年数回の診察を受けるだけで済まされる。
冬華によれば『ナイフや催涙スプレーを持っている程度の危険で、本人の性格が少し短気やふまじめというくらいなら、まず問題ない』という。
『ランクC・懲役刑相当の影響を与える危険性がある』
原則として拘束・収容の対象で、無力化するまでは出所できない。
しかし施設で治療を受ければ、半年以内に出所できる者も多い。
冬華によれば『日本刀や拳銃を持っている程度の危険で、本人の性格や環境によっては害にならない』という。
『ランクB・広く社会を混乱させる危険性がある』
いわゆるフィクション的な『異能力者』の脅威で、拘束も厳重になる。
冬華によれば『機関銃や手榴弾くらいの危険だから、本人の意志はどうでも、周囲が悪用した時に深刻なんだよね』という。
『ランクA・広く社会を混乱させる危険性が高い』
冬華によれば『強引に例えるなら、戦車や戦闘ヘリのようなものだ。ひと昔前なら一課がすぐに出てきて……げふんげふんっ』という。
「今回は『ランクA』も入荷しているって聞いたんだけどなー。あ、私もいちおうは『ランクA』ね。優れた頭脳の補助もあるとはいえ『異能力探知』や『異能力解析』なんて、異能力の悪用にこれほど重要な効果もないもんな~」
秋実は冬華の危険性評価は人格も大きく考慮してほしい気がした。
不意に警報ランプが灯り、サイレンが鳴り響く。
「特別調査員からの緊急連絡です! 現在、護送中の患者に『ランク特A』が含まれています!」
職員が騒然となり、検診が中止される。
秋実は危険性のランク分けに関する最後の特記事項を思い出していた。
『ランク特A・最優先処理対象。ランクAの事項に加え、当局の職務に支障をおよぼす危険性がある』
異能力専門の管理機関すらおびやかす異能力……それは国家の危機をも意味する。
「よりによって今日か……秋実くんも初日でとんでもない当たりを引いてしまったね」
冬華も冷や汗を浮かべ、職員たちはうろたえて早口に連絡し合う。
「あわてたところでどうにもならん。特別調査員の幹春くんに連絡をつなげてくれ」
冬華はインカムで冷静に会話していたが、緊張は秋実にも見てとれた。
「調査員を含め、いっさいの影響がないのだな? ……わかった。とにかくそのまま来てくれ」
連絡が終わると、秋実はこわごわと聞く。
「制御ができていて、使用者の性格も問題なさそうなんですか?」
冬華は険しい顔でうなずく。
「報告を聞く限りではね……しかし、そのように錯覚している可能性まで警戒すべきが『ランク特A』なのだよ」
「主任、せめて診察中の患者は避難させたほうが……」
職員はささやくが、冬華はメガホンを握る。
「驚かせてすまない。だが国家……あるいは世界の危機がせまっている。気の毒だが、ここにいる君たちの『特異体質』が、必要な対抗手段となる可能性もある。場合によっては、我々で足止めだけでもしなければ……」
秋実は以前に冬華が冗談めかして言っていたことを思い出す。
『ものすごい田舎だろう? ここならもしもの時にも絨毯爆撃をしやすい』