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一方その頃、中年男性は目を覚まし、呻き声をあげながら上体を起こす。
そして周りを見渡すが、少女の姿を捉えることができなかった。
「クソ、やられたか! あんな可愛い奴にやられるなんて……」
彼はひとまず例の看板周辺にある武器を眺め、当然のように自転車に目が止まる。
そう、ダンジョン内のアイテムは元通りになっている為、同じく赤い高級そうな自転車が置かれているのだ。
「何気に自転車があるな。普通にワロタ」
興味を示した彼だが、自転車に近づいただけで、結局乗らなかった。
また、数種類のペンダントの方にも目を向け、地面に置かれている全てのペンダントを持ち上げた。
「このペンダントたちはあの美少女に似合いそうだから持っていこうか。もう一度束縛して、更に可愛くして、それから……あんなことや、こんなことを……」
その後、彼は剣を右手に、盾を左手に持ち、
先が見えない洞窟の中をひたすら歩きだした。
やがて、彼も二階への階段を発見する。
「お、階段か。鮮やかな青色で綺麗な色だけど似合ってないな」
その階段は青色のペンキで塗られたような跡を残していた。
「よいしょ!」
足腰に力を入れ、最初の一段に足が着地すると、青い液体が彼の足を伝って急速に服を溶かす。
「何だ? 服が溶けてるぅぅぅ」
次に彼は足を滑らせ、後ろ向きに転倒する。その際、かなり大きな声で叫んだ。
「うるせぇー。っていうか、これは美少女の声じゃない?」
実は、その青色のペンキの正体はスライムだったことを彼は知らず、襲われる事態となった。このスライムには、ある一定の量のスライムが集まると服を溶かす芸当ができるようになる。が、スライムたちはどうやら相手を間違えいる様子。
「げっ。君はオッサンじゃねーか」
スライムたちは全神経を触覚に集中させていた為、誰かが階段を通ろうとした瞬間に襲うように準備していたので、実質彼らはただの馬鹿だろう。
「俺の服を返せ! このままだと、尚更美少女にキモがられる」
パンツ一丁である彼は、スライムまみれで弱体化していた。この事から、彼は起き上がることができずにいる。
「すまないが、このペンダントを使わせて貰おうか」
スライムたちは、彼の服が溶けた拍子に落としたペンダントの一つを彼の首に掛けた。
これによって、彼の身体は制御不能となり、暴走し始める。
「我らスライムはこの身体を利用する絶好のチャンスを獲得した。これを逃すでない」
その声とともに、スライムたちは彼の口から彼の体内に侵入し、脳をコントロールする力を得る。これを利用することで、実質スライムたちは一人の人間となった。
「見ろよ、我らスライムが人間の手を動かしているぞ⁉︎」
側から見れば、中年男性が自らの手を見ながら騒いでる様子が繰り広げられていた。一言で言えば痛い奴である。
「確かこの状態だと魔法が使える筈。赤いペンダントは炎が使えるようになるから、ついに我らスライムがファイヤーボールを撃てる日が来たぞぉぉぉ!」
彼の言う通り、赤色のペンダントを首に掛けている間は炎を操れる才能が与えられる。しかしこれには欠点があるが、まだ知らない様子である。
彼は床に転がっている剣と盾をそのまま置き去りにし、二階に向かうべく階段を駆け上がるのであった。
◆ ◇ ◆
「ついに見えたぞ、我が家が!」
二階にあるトイレを見ると、彼はそう叫ぶと同時に喜びを額に堪え目を輝かせる。
早速トイレの中に入り、そこで待機する彼。
万が一、少女が尿意を催した場合を想定してとのことだが、わざわざ二階に行ってまで用を足すなんてそんなことが起こる訳がなかった。そんな少しお馬鹿なところはスライムらしさが残る彼である。
結局、とある侵入者が彼を発見するまで、相当な時間をそこで費やす末路を辿った。
すみません。諸事情で更新が遅くなりました。これから更新する時間を一応伝えておきます。
明日から23時を目処に投稿しようと思います。毎日投稿できるかは分からないですが、投稿できる日はその時間帯ぐらいになるかと思われます。