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暗黒通販ヘルネット中田  作者: haimret
願いを叶えるつぼ
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1話

 日曜日深夜0時少し前。チャンネル666。存在しないチャンネルであり、現在も黒い画面と共にテレビ自体がこのチャンネルが存在しないことを証明している。


「本当に通販番組なんてあるのか?」


 それはとある掲示板の噂話を見かけたのがきっかけだった。毎週日曜日の深夜0時。チャンネル666にてこの世には存在しない物を販売する通販番組が始まるというものだった。あまりの胡散臭さに正気を疑ったが好奇心を抑えることが出来ずに俺は一度だけならと受け入れてテレビの前に座り今に至る。

掲示板を含めていろいろ調べてみるとでるわでるわ胡散臭い話ばかりが出てくる。


曰く、魔界から何らかの電波が届いてこの世界に映る。

曰く、この世の物とは思えない商品が紹介される。

曰く、司会どころかテレビに映る者たちが皆人間でない。

曰く、本当に買う人物の前にしか放送されない。

曰く、6~7分程度の短い番組である。


 etc.と言った具合に頭のおかしい文字列が羅列されてた。ある程度調べ終えると似た様な物ばかりでこれ以上の情報はなかった。なによりも胡散臭いのは買ったという者の情報が出てこないことである。調べている間に時間は進んで丁度良い時間になったので噂話が真実であるか確かめるためにテレビをつけてチャンネルを合わせた所である。1分前から真っ暗眺めを眺めながら時間の針の音が正確に時を刻んでいき、0時になるとそれは唐突に始まった。


 有名な通販番組にあるような独特なテンポの音楽と映像。そこに映っているのはアニメーションで唐突に画面が切り替わったことに驚いた。そして、耳に残る番組名であろう『ヘルネット中田』というタイトル。


「マジで始まった……」


 まさかの本当に始まるとは思わず事態に口を半開きにしたまま呆然とオープニングを眺める。音楽が終わると魔界商会とか地獄商事とか、訳の分からない提供を流してテレビの画面は切り替わりさらに驚くことになる。


『みなさん。こんばんは。今日も始まりました。暗黒通販ヘルネット中田。今日ご案内するのはこの商品です』


 骸骨がカタカタ歯を鳴らしながら商品を説明し始めた。思いつく限り今の映っている骸骨が恐らく中田と呼ばれている人物であるのだろう。見える範囲で骨の部分は磨かれているのかやたら小奇麗で何故かスーツを着ている。まさに骸骨のセールスマンである。画像の右上にはヘルネット中田という番組名と電話番号0120 – 666 – 4910と映っている。


『今回の商品はこれ‼ 願いをかなえる壺‼』

「おいおい。初っ端から胡散臭すぎるだろ。ってか‼ どこから出した‼」


 骸骨は机の下から壺を取り出した。大きさは骨壺程度だろうか。いかにも詐欺で有りそうな見た目の壺に胡散臭さが今にも爆発しそうだ。


『胡散臭いとおっしゃるお客様も多いかと思いますが実際にこの効果を見ていただければ絶対に欲しくなりますよ。この壺は3つだけ持ち主の願いをかなえる力があります』


 胡散臭いという事は分かっているのか骸骨もそのことに触れつつ壺の前で手を合わせる。そして、奇跡は起きた。


『小銭がたくさん欲しい』

 

 目の疑うような光景がそこにあった。願いを言うまでは何もなかった。しかし、骸骨がツボの中に手を伸ばすと壺を持ち上げてひっくり返す。ひっくり返すと明らかに壺の許容量を超える500円玉が勢いよく出てくる。しかも、未だに勢い衰えずそれこそ無限と言っても過言ではない分量が、である。


「マジでどうなってんだ? いや、どうせ何かのトリックだろ。画像の編集が出来ればそんなこと可能だろうしな」


 俺はさっきの光景に驚きながらもあれがトリックであると言い聞かせる。俺のつぶやきが届いているのかは知らないがそれに骸骨が反応する。


『どうでしょうか? これはトリックではございません。全て現実に起こった出来事です。しかし、そうですねまだお疑いの方もいるでしょう。それではテレビを見ているあなたの手元にこの500円玉をお届けしましょう。視聴者様の元へお行きなさい』


 そう言って500円玉を骸骨が壺に入れると手を合わせて願いを告げる。その言葉を聞いて手を見るが500円玉など存在しない。


「やっぱり詐欺じゃないか」


 今見ているのに500円玉が手元にない時点でやっぱりあれは詐欺であると落胆する。自分が少しだけ期待していたことにも驚いたがそんなもんだと手を見ているといきなり手に違和感が現れた。その違和感に慌てて手を見る。


「まさか!」


 いつの間にか手には500円玉が握られていた。さっきまで手には何も持っていなかったはずなのに気がついたら握っていた。ありえないことに混乱する。これはきっと何かのトリックだ。ありえない。


『どうでしょうか? 視聴者の皆様の元に500円玉が握られている事でしょう。ちなみにその500円玉は視聴者様にプレゼントです。それとこれでも信じられないというお客様に買っていただけることを願っています。ちなみにこの商品、購入者のあいまいな願いをも叶えてしまえるほど高性能なんです。今からお見せする映像は餓鬼の願いを叶えるシーンです。どうぞ』


 ここから先は俺には理解が出来なかった。いや、趣味が悪いとしか言いようがなかった。餓鬼と呼ばれた存在の言葉が字幕付きでこの壺が3つ願いを叶えることを餓鬼に伝えてから骸骨セールスマンが立ち去る。そこから食料とだけ書かれたテロップと共に倒れた壺から食料らしき焼けた肉が出てくる。

 しかし、それを手に取ると炎に包まれ塵も残さず消えた。その時の絶望した表情が最後に映し出されてから画面は元の骸骨の映るスタジオへと戻る。


『いかがでしたでしょうか? 飢えと乾きでもがく無財餓鬼の願いですら叶えてしまうこの壺のすごさは? え? 餓鬼が持った食料が灰になった? あれはそういうモノなのでお気になさらず。あれは食料が欲しいとは願っていますが元々食べ物を持てば燃え尽きるというのはあれの必然なので。何が言いたいのかと言うとつまり、願いはあなたの基準で自動的に願いを叶えてくれます。さらに、この壺は願いを叶え終えるまではたとえ何があろうと購入者の手元から無くなることはありませんし壊れることはありません。さらにさらに、他の方の願いを叶えるというような心配もございません』


 骸骨のセールスマンが説明しているが頭に入ってこない。気分は最悪だった。正直あんな絶望顔を見た後に買う気など起きるはずがない。もう見るのを止めようと決心するが体はそれを拒否してなぜかテレビからは目が離せない。


『しかも! かなった願いに合わせて記憶や経歴が自動で上書きされるのでどんな無茶な願いをしても大丈夫』

「ごくっ」


 自然と喉が鳴った。言っていることは滅茶苦茶なのにこの壺が欲しいと思ってしまう。


『値段についてですが、この壺本来であれば1つ20万円の所、私どもがんばりました。なんと、18万円! 18万円ですよ! しかし、数には限りがあります。なので、この放送終了後30分までとさせていただきます。お電話番号は0120-666-4910。0120-666-4910(よくのとも)におかけ下さい。本当にチャンスは今しかありませんよ』


 人差し指を口元に当てて内緒のポーズを取りながら骸骨が言った。そして、俺の手にはスマホに番号だけ入れる。


『お支払いについてはクレジット、現金着払い、振込、などたくさんの方法がございますがお電話いただけたら支払プランにつきましてはご相談なさってくださればわが社員が責任を持って相談に乗りますのでお気軽にお電話を。これでこの商品については最後になりますが、もし壊れたとか願いが叶えられなかったなどのことがあれば返品保証付き。全額お返しします―――』


 そこから先はどんな商品があったのかは覚えていない。気がつけば番組は終わっていて覚えているのは願いを叶える壺とか言う胡散臭い商品の話と電話番号を入れたスマホが通話済みになっていたことだけだった。

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