表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/19

09 裏切り

「未来ー、お母さんちょっと出掛けてくるからねー」


 休日の朝、階段の下から母の声が響き渡る。

 バタン!という玄関の戸が閉まる音が聞こえた後、未来は一階へと降りてきた。


「朝食…」


 テーブルの上にラップで包まれ置かれていた朝食を見て、未来は席についた。

 テレビをつけニュース画面へとチャンネルを変える。


「いただきます…」


 いつもほど進まない食事スピードで箸を進めながら未来はニュースへと目を向けた。


『新発売!遠距離攻撃型データ・ウェポン!』


 ワイプに流れる作り笑い。

 RNW2の新武器の発売映像を見ながら未来はため息をつき、部屋に置いてあるDWのことを思い出した。


『次のニュースです。先日、H市のRNW2専門店で火災事故がありました。幸い、負傷者は店長以外におらず原因は煙草とみられており…』


 瞬間、未来の視線はテレビ画面に釘付けになった。


「アナライさんの店が!」


 テレビ画面に映っていた黒い残骸、アナライの店で間違いは無かった。

 未来は映像を見た途端、荷物をまとめて家を飛び出した。


「アナライさん!大丈夫ですか!」


 黒こげになったアナライの店前に座り込むアナライ、それにミライは駆け寄る。


「大丈夫に見えるか?」

「す、すみません」

「気にすんな。お前が悪い訳じゃねぇ」


 アナライはミライの頭をそのごつい手でぐしゃぐしゃに撫でた。


「それより燃やした奴が原因だ」

「全く酷いことしますよね」

「そうじゃない。燃やした奴はお前らを追っていたあの男で間違いねぇ、だが煙草で俺の店をあそこまで焦がすのは無理があるってもんよ」

「じゃあ、つまり…」

「誰かが本格的に燃やしやがった、だな」


 アナライは吸っていた煙草を携帯灰皿に入れる。

 確かにアナライの消火ミスで火災が発生したとは考えにくい、つまりバックに誰かがいるということ。


『ヴォン…』


 メッセージ通知が届く。


「あれ、セトさんからだ」


 ミライはセトのメッセージに記載された場所へと向かった。


 

 ◆ ― 倉庫群 ― ◆


「セトさん!」

「しーっ!こっちだ」


 静かにしろ、という指先合図を見せるセト。

 ミライはセトの隠れている倉庫の扉の影へ、一緒になって隠れた。どうやらセトは中を覗いているらしく、仲には二人の男女がいた。


「へぇ…アイツ死んじゃったんだ」

「そうみたいね、まぁ元からああなるとは思っていたけど」

(死んじゃった?誰の話だ?)


 もっと覗こうと身を乗り出すミライ、しかし倉庫は暗くどちらの顔も確認することが出来ない。


「ミライ、もう少しさがれ。ばれるぞ」


 セトの言葉に従う。


「そういえばあの子は見つかった?えっと、ヨゾラだっけ?」

「アイツ、LIVEの時には姿見せるけど。すぐに消えちゃうのよね~観客がいるから手出し出来ないし」

(ヨゾラの話…!こいつらヨゾラに何かしようとしているのか?)


 さらに聞き耳をたてるミライ。


「ヨゾラと顔の似ているってやつ、あいつはどうしたんだよ」

「あれは失敗作だろ?放っておいても問題ないよ」


 その時、ミライの脳裏に過ぎった女性。

 路地裏で刀を持ち、大剣の男を瞬殺した女性だ。


「あの人はヨゾラと別人…?」


 無意識のうちに扉から離れていたミライ。その足は近くにあった小枝を踏んでしまった。


「誰だ!」


 中の二人に気づかれる。


「ここは何とかする、逃げろ!」

「すみません!」


 ミライが逃げた後、近くの積み荷を崩して倉庫からの出口を塞ぐセト。

 セトの前には先ほど会話していた二人が姿を現した。


「あの子を追えないようにしたってわけか」

「味な真似してくれるじゃない」


 男は細長い剣を持っており、女の方は杖を持っている。


「…っ!?お前は…」


 女の方を見て驚く。


「へぇ、あんただったのか。でも今の様子から察するに、私の顔までは見えてなかったみたいだね」

「てめぇ」

「じゃあまだ騙し通せるってわけだ」


 杖を構えて女は話す。


「おい、お前はあの餓鬼を追え。ここは私がやろう」

「了解」


 セトの前に男のほうが立ちはだかり、女は裏口から姿を消した。

 男は細身の剣をセトに向け無言のまま斬りかかる!


「気が付け、ミライ!!」



 ◆ ― 星空が丘 ― ◆


「ヨゾラ!どこだ、ヨゾラ!」


 必死になってヨゾラを探すミライ、

 しかしいつもの場所にヨゾラは居なかった。ここ数日ヨゾラは姿を見せない、あの日から。


「俺が悪かった、君を疑ったりして。だから少しでいいんだ、話を聞いてくれないか?」


 丘の頂上で叫ぶ、

 その声は丘中に響くもヨゾラは姿を見せない。


「どうしたの?」

「ヨゾラ!…じゃない」

「そんながっかりしないでくださいよぉ」


 モニュメントの裏から姿を見せたのはアインだった。


「誰かを探しているの?」

「ああ、ちょっとな。アインさんはどうしてここに?」

「それは…」


 アインはゆっくりとミライに近づき、勢いよく抱きついた。


「えっ、ちょっとアインさ…」

「私ね欲しいの」

「欲しいって何が?」

「…貴方よ」


 瞬間、ミライの身体に電撃が走った。

 杖の先から発せられたそれはミライの身体の自由を奪い、その場に仰向けに押し倒された。


「ごめんね~期待させちゃった?」

「アイン…何を」

「ヨゾラって子目当てだったんだけど、君も見つけられてないみたいだし。倉庫でのこともあるしね」


 アインは仰向けのミライの上に馬乗りになり、抵抗されないようにミライの両腕を自らのひざ下へと持っていく。


「顔は私好み、性格も私好み。任務じゃなかったら付き合ってたかも」

「くっ、誰か!たすけ…ウッ!」


 ミライの口が塞がれる、テープなどでは無い。

 口に触れる触感は柔らかく、感じたことの無いもの。アインの唇だった。


「ぷはっ」

「駄目よ、大声出しちゃ。まぁ、出せないようにするけどね」


 アインは腰のホルダーからナイフを取り出し、それをミライの手首へと突き刺した!


「うがああっ…ンン!!」

「駄目って言ってるでしょ?後噛んだら、殺すから」


 アインの唇によってまた声が出せなくされる、それどころかアインは舌先を口の中へと侵入させてきた。


「んっ、くっふぅ」

「どう?おいしい?私も気持ちいわよ」


 もう一本ナイフを別の手首突き刺す。

 ミライは溢れんばかりの悲鳴を上げそうになったが、それは許されなかった。


「ぷはっ!良い姿になったじゃない」


 アインが口を放すと、ミライの口からは糸がひきアインと繫がっていた。


「ふふ、どう?痛いでしょ」

「お前狂ってるな」

「今から貴方も狂わせてあげるわよ」


 もう一本ナイフを取り出し、今度は足めがけて振り下ろした!


 …ハズだった。


「あぶねぇなぁ、お嬢ちゃん」

「邪魔を…するな!」


 アインは手元の杖で背後の男に魔法を飛ばすと、それは軽く防がれた。


「大剣?あなた一体…」

「回収回収ッス~!」

「しまった!」


 アインが男に気を取られているうちにミライが女に連れ去られる。


「あんたたち、何なのよ!」

「俺たちは元守護者(ガーディアン)だ!」


 大剣のDWを軽々と振り回す男、こんなにも大剣を使いこなせるプレイヤーはそうは居ないだろう。しかし男のランクを見れば、最下位に物凄く近かった。


「そこから動くんじゃないッスよ!」


 足元が光る矢で囲まれる。

 矢の光はアインを包むように伸びあがり、やがて光る檻となった。


「この弓遣いも常人レベルじゃない…けど、ランクは最下位付近…!?」


 アインには何が何だか理解が出来なかった。

 腕前は上級プレイヤー級、にも関わらずランクは最下位に近い。雑魚エネミー一匹すら狩っていないといった感じだ。


「そりゃまあRNW以来、オンラインゲームなんて殆どプレイしていなかったしな」

「ジャンはともかく、私はやってたッスよ。RNW2じゃないけど」


 ほのぼのと余裕そうに話し始める二人、

 アインはどうにかして檻を出ようと杖を振るった。


「ヴァーン・トリニ…」

「動くなって言ったッスよね?」


 女の一言が旋律のように響く。

 直後、アインの上部。檻の最上部からは雨のように矢が降り注ぎ、アインのHPを一瞬にして削り去った。


「うあああああっ!!」


 アインはその場に倒れ、痙攣をおこしビクビクと動いていた。


「まぁ、死ななかっただけ良かったッスね」

「お前殺してたら殺人犯だぞ」

「貴方達は一体…」


 ミライは自分を抱き上げている女性のほうを見上げた。


「さっきも言わなかったッスか?」

「まぁなんだ。ただのゲーマーさ」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ