07 武器屋アナライ
「ん?あぁ、セトか久しぶりだな」
セトに引っ張ってこられたその場所は何とも風変わりで、RPG等によく出てくる武具屋を連想してしまうような内装をしていた。
「アナライさんは現実世界でも武器屋か」
「はっはっは!前にやっていた仕事も丁度、飽きていたところでな。RNW2が出たときに真っ先に開店させてもらったよ!どうだ、新作のDW買っていかないか?」
「だったら、シロにでもおススメを出してやってくれ」
なんだか嬉しそうだ、と思うミライ。
(このアナライっていう人、セトさんだけじゃなくゼノさん達とも知り合いだったのか…)
なんだか自分だけが取り残されたように感じる。居心地が悪いミライは近くのDWを見て回り、一つのDWにふと惹かれた。
「なんだろこれ…」
そのDWを持ち上げると、アナライが青ざめる。
「お、おい!そいつは…っ!」
「え?」
アナライの声にビックリし思わず起動スイッチを押してしまう。
DWは深い紫色の光を放ち、本体ごと形を変え初めた。
「サーベル…?」
「…違う、薙刀モドキだよ」
大きくしなやかな粒子の刃を飛び出させたそれは、一瞬サーベルかと思ってしまうような見た目だ。薙刀にしては持ち手の幅が狭く、刃のほうが大きいし、現在出ている刃とは逆のほうからも同じ大きさの刃が出ている。
「両側に刃がついているのか!」
アナライは「あちゃ~」という素振りを見せ、頭を抱えた。
「どうしたんだよアナライさん」
「起動させちまったかあ…」
「?」
途端、アナライの店の扉が蹴破られる。
「アナライ、あれだけ言ったのになぁ!」
槍のDWを背負い、煙草をくわえた長身の男がずかずかと踏み入ってくる。
「おや?完成しているじゃないか、まったく。小僧、そいつを渡せ」
「ソイツを渡すんじゃねぇ!」
アナライの声にはっとし、男の伸ばした手を振り払った。ミライはその勢いのまま破壊された扉から外へと飛び出した。
「チッ!逃がすか…!」
「おっとぉ!ここは俺の店だ、槍の使い方くらい伝授してやるぜ?」
ミライを追おうとした男の前にアナライが立ちはだかり、槍を構えた。
「ハッ!老害はもうすっこんでいな、お前らアナログゲーマーはもうお終いなんだよ!」
「ヘっ、命がけのプレイを見たことも無いくせによ」
男はアナライの頭部を狙い槍を突き始め、アナライはその槍をはじき返した。
「ミライ!行くぞ!」
店から駆け出たセトがミライの身体を持ち上げ、ゼノ達と共にその場から離れる。
「くっそ、あいつらァ!」
「よそ見すんじゃねぇよ、ゆとり世代!」
アナライは男へと全力で槍を振りかざした。
が、その槍は寸でのところで止められ腹へとカウンターを決められる。
「ぐぅっ!」
後ろに積んであった木箱へと背中から突っ込むアナライ、男は吸っていた煙草をアナライの店へと投げ捨てた。
「じゃあな、アナライ」
男の去り際、アナライが見たのは燃え盛る自分の店だった。
◆
「はぁ、はぁ!なんとかアナライさんが食い止めてくれたみたいだけど」
「大丈夫かしら」
「気にすんな、アナライさんが負けるわけないだろ」
少し距離のある港の方へと逃げのびたミライ達。その港には沢山のRNW2プレイヤー達がはびこっており、人ごみのようになっていた。
「人を隠すなら人の中ってな」
「それにしてもこの武器は…」
ミライは店から持ってきた武器をジッと見つめる。
武器の詳細表記を見てみると、ジャンルには「ダブルブレイド」と書いておりレア度もそこそこだった。
「名前は流星槍…、レア度は星7か」
「でも槍って感じじゃないよな」
背後からウィンドウを覗き込んだゼノが呟く、確かに槍には見えなかった。
「微妙な武器だな、お前にピッタリじゃないか」
「それってどういう意味ですか…」
「あはは、気にするなよ。ちょっくら俺は偵察に行ってくるからさ」
ゼノはその場から立ち上がり、人ごみの外へと歩き去って行った。
「ゼノさん一人で大丈夫なんでしょうか?」
「大丈夫よ、ゼノはあれでもデリトの一番弟子よ?」
(デリト…?)
シロは立ち上がり何かをセトと話した後、どこかへと駆けていっていまった。
「ミライ、あの男のところに行くぞ」
セトは険しい表情をして刀を抜いた。
◆
「くそが、あいつら逃げやがって!!」
男はゴミ箱を蹴飛ばし大剣を振り回していた。
「そう暴れるなよ、ゴミが散らかるじゃないか」
「てめぇっ!…へへ、戻ってくるとはなぁ!」
セトは星空が丘でミライを襲った男、大剣を背負った男の前へと立ちはだかった。
「ネイティブが手にはいりゃ、ボスにも顔向けが出来るってもんよ!」
男は大剣を振るい上げ、セトへと斬りかかった。
「くっ!何が狙いだ」
「お前らネイティブだ!」
どういう原理が働いているのか、セトの細身の刀身は男の大剣を軽々と防いだ。刀は大剣を押しのけ、男に距離をとらせた。
「どうしてネイティブの事を知っている?」
「さあな、詳しくはボスに聞いてくれや!」
負けじと男は大剣で切りこんでくる。
「ミライ!」
路地に響いたその声は、男を大剣の動きを止めた。
「うおおおっ!」
「何!?」
ミライは男の背後をとり、身体の中心を狙って武器を振るった。
「隠れていやがったのか!」
「悪いな、これも戦術の一つってことで」
「図に乗るなぁああっ!」
ミライへと大剣を振るう男、ミライの武器は刃を砕かれその場へと転がり落ちた。
「なにっ!?」
「ミライ!」
追撃をセトが防ぎ、ミライは男から距離をとった。
「こりゃあ、一筋縄ではいかないかもな」