06 チェイサー
「えっとこの辺りのはずなんだが…あれか?」
町のガイドマップを片手に、頭にRNW2用のゴーグルを掛けた男がきょろきょろしている。ミライは関わらないようにと思い遠ざかった。
「なんか面倒そうだったなぁ」
「誰が面倒そうだって?」
「さっきの観光客ですよ…って、え!?」
先ほどまで地図を見ていた男はいつの間にかミライの真横へと近寄っていた。
「なななな!?」
「お前さ、俺と目があったのに無視しただろ。良くないぜそういうの?」
「すみません…」
本人を目の前にして本音を吐いてしまった恐怖心なども入り混じり、とりあえず謝るミライ。
「分かればいいんだよ、分かれば!にひひ!」
(なんだか元気の良い人だなぁ)
ご機嫌そうにミライの方に腕を掛ける男、ミライは少々鬱陶しく感じていた。
「んじゃ、道案内ヨロシクゥ!」
はい、と手渡された地図を見る。勿論この町に生まれた頃から住んでいたミライに見つけられない場所など殆どない、しかし男の地図はどこかおかしい。真っ白なのだ。
「なんだこれ」
「ああ、わりぃ。ゴーグルつけないと見ても分かりにくいぞ」
ミライはゴーグルを装着しもう一度地図を見直した。すると地図に記載されていた地図は立体化し、3Dのビジョンとなってミライの手の平へと広がった。
現在位置が赤いアイコンで示されており、目的地と思しき場所が「!」マークで表示されている。
「どこぞのインターネットマップですかこれは…」
「目的地には行けそうか?」
「はあ、まぁ。行けますけど…ここって」
ミライは地図を再確認する、やはりそうだ。どう考えても"アソコ"としか思えないのだ。
◆ ― 星空が丘 ― ◆
「そうそう!ここだよ、ここ!」
(この男、かなりハイテクな地図といい。怪しいな…)
ミライが睨みをきかせる中、男はそれに構いもせず丘の天辺へと続く階段を上りだした。
「おーい!ガキ、出てこーい!」
男は突然、頂上に置かれているモニュメントを怒鳴りながら蹴りだした。急いで男の元へと駆け寄り、押さえつけようとするミライ、しかし男の力によって振り払われる。
「何やってんだよ!」
「あぁ?決まってんだろ、ここにいるっていうガキを取り押さえに来たんだよ。捕獲クエストさ」
(ガキって…ヨゾラのことか?だとしたら危険だ!)
ズボンについた砂を払い、ミライは立ち上がり言った。
「その子の名前は?」
「被検体、コード:TEPE-21。少女のような恰好をした実験体だ、お前も見たことあるだろ?」
「被検体?何を言って…」
「あぁ!そうか、確かお前らの間では…『ヨゾラちゃん』とか言われてたっけ?」
ミライの脳裏に電撃が走った。
最も先に想像し、最も当たっては欲しくない予想が見事的中したのだ。男が言う被検体とはヨゾラの事だった。
「お前、ヨゾラをどうする気だ」
「あん?さっきも言っただろ、連れて帰るってよ」
「連れて帰ってどうするのかを聞いてるんだ!」
「お前にそれを話す義理はねえ」
男はポケットから丸い物を取り出すとミライに向かって投げた!
「手榴弾!?」
「違うね」
球体はいくつか空いた穴から光を発し、光はレーザーとなってミライへと突き刺さった。
「本当にダメージを喰らっている!?お前、ネイティブか!」
男が驚いた表情で叫ぶ。ミライは足を貫通され、その場へと座り込んだ。
「ネイ…ティブ?」
「チッ!…まさかここでこんな厄介な者と巡り合うとはな」
男は自らのDWを抜き、ミライへと向かって走り出した!
「なっ!?」
咄嗟にミライもDWを鞘走らせ攻撃を防ぐ。しかしミライは男に力負けし、真後ろにあった階段へと押しやられた。
階段へと押し出されたミライは重力の向くまま階段を転げ落ち、最下部へとたどり着いたころには気を失っていた。
「さあて、とどめを…」
「おいおいそりゃ余りに酷すぎるんじゃないか?」
声のした方へと視線を向けるとそこには刀を持った男が立っていた。
「セトォ…」
「気持ち悪い声で俺の名前を呼ぶな」
「セトォォオオッ!」
男は再びDWを起動する。粒子が渦のように集まり形を成したその姿は、完全なる大剣だった。
「こういう相手はジャンに任せてたからなあ」
振り被りの一撃をジャンプでかわし、すかさず後ろへと回りこむ。
「あのバトルイベントの後、ずっとお前をつけてたんだぜ?」
「どこで俺の存在を知った?あのガキか、いやそんなハズはない…」
「ミウラ、だっけ?あいつの情報が流れて来てな」
「あの野郎…しくじったな!」
真後ろのセトへと大剣を薙ぎ、距離をとる。
「!!」
しかし気がつけばセトは居ない、それどころかミライすらも姿を消していた。
「…ろう、あの野郎ゥゥゥウ!!」
男は雄叫びを上げ、大剣をひたすら振り回した。
◆ ― 路地裏 ― ◆
「…う、うん?」
目を覚ますミライ、そこにはセトともう二人。
「お!気がついたか」
「革、少しはそっとしておくって考えは…」
「シロは黙ってろ」
「あー!またその名前で呼ぶ!」
何やら目の前で言い争う男女が二人、男性のほうは中学…いや高校生くらいの見た目だろうか?女性のほうも同じくらいだ。
「俺の名前は瀬野 革、IDはゼノ。よろしく!」
「私は香坂 真白、IDはシロよ。よろしくね」
「こ、こちらこそよろしく…」
差し出された手を握り返す。
「僕の名前は…」
「それはいい、こいつらにはもう伝えてある」
セトが言った。
「ミライ君だっけ?その傷を直したのはシロだ、ちゃんと感謝するんだぞ」
「そうだったんですか、本当にありがとうございます」
「いやいや私は別に…」
顔を赤くして照れるシロ、その表情を見てゼノが爆笑しだす。
「な、なにがおかしいのよ!」
「はははっ!が、柄にあわね~!」
腹を抱えて転げまわるゼノ、ミライはその光景に圧倒され傍観者となっていた。
「ほら、馬鹿やってないでさっさとアナライのオッサンのところに行くぞ」
「はっはい!」
「え?あ、はい!」
ミライは何が何だか分からないまま、ゼノ達についていった。