05 ドロップ
「ミライさん!」
地面に刺さる、正確には刺さっているように見える刀の先。その切っ先はミライを通過してはいなかった。
「悪運の強い奴だな」
「…本当にな」
サムライ・エクスの腕を見ると、肘から先が無くなっていた。
「これまで…か」
消滅エフェクトと共に消えるサムライ・エクス、その姿をじっとミライは見つめていた。
「いやぁ、間一髪でしたね」
サムライ・エクスの腕を切り落とした張本人、その男が目の前に立っていた。
「ありがとうございます」
「いえいえ、お礼なんて。そんなことよりお怪我は?」
男はミライへと手を差し伸べた。その手を掴み立ち上がるミライ、その身体には無数の傷が残っていた。
「その傷…」
「え?ああ、これはちょっと夢中になってしまいまして」
「そうですか。気をつけてくださいね」
ぐっと手を引きミライを立たせる。立ち上がりついでにミライは男のプレイヤーネームとランクを、不本意ながらも確認した。
「Miura…ミウラ?」
「え?あぁ、本名でやっているから。ははは、珍しいかい?」
「い、いえ。僕も本名です」
「ミライ君かあ、今度またどこかで会ったらよろしくね」
握手を交わすとミウラは他のエネミーを狩るために去っていった。しかしミライが驚いたのはそんなことではない。
「ランク23位…」
今や20万人以上ものプレイヤーがいるこのゲームでランク23なんて上位中の上位、二桁ランクだ。ミライはそんな大物と握手を出来たという感動の余韻に浸っていた。
「ミライさん!傷は…」
「大丈夫、ヒールを唱えてくれれば」
「ま、任せてください!」
必死にヒールを唱えるアイン。その姿を見て、不意にミライはドキッとしてしまった。
(僕が女子に手当をしてもらっている…!?)
胸が高鳴る。生まれて初めての女子とのふれあい、しかも結構美人な女子とだ。ミライは次第に顔が熱を持っていくのを感じ、慌てて手で顔を覆い隠した。
「?」
「な、ななな!なんでもない!」
「でもどこか痛いんじゃ…」
「それより、君はドロップ品を回収するといいよ!」
ミライに言われてはっと立ち上がるアイン、しかしその場を動こうとはしない。ミライは気にかけていることに気が付き、「気にしなくていいよ」というと申し訳なさそうにアインは回収に向かった。
「可愛い子じゃないか…」
「ですよね~、って!セトさん!?」
地面に座り込むミライの横にはいつの間にかセトがしゃがみこんでいた。
「何しに来たんですか!」
「いや何しにって、そりゃあお前…人だかりが出来ていたからだな」
「イベントのことも知らないで来たんですか」
呆れるミライ、それとは反対にセトは盛り上がっていた。
「イベント、ということはボスか!どこだ、ボスは?…ん?お前のその傷、ははーん。さてはボスにやられたんだな?」
「すみませんね、中型モンスター程度に手こずるようなユーザーで」
ミライの不機嫌な表情に苦笑いするセト、手を合わせて一生懸命に謝った。
「ミライさん!」
ロッド型のDWを振りながら満面の笑みで走ってくるアイン、その姿を見たミライの表情はすっかりと穏やかになっていた。
「このアイテムってどうやって使うんですか?」
ウィンドウを表示させミライへと向けるアイン。ミライは差し出されたウィンドウを見て、お!っと表情を変えた。
「これはインストール武器だね」
「いんすとーる?」
「このDW本体、一々捨てたりしないだろう?じゃあどうやって皆は新しい武器を入手しているのか、それはこのインストール武器を使っているのさ」
アインからロッドを借りると今度はDWの持ち手、底のほうにあるスイッチを押して何やら"筒"のような物を取り出した。
「乾電池?」
「違う違う、これがインストール本体。つまりスキルの場合の本体はチップ、武器のインストール本体はその電池っぽいものってわけ」
「難しくてよくわからないけど、これで使えるんですね!」
チップと同様の方法で武器をインストールする。起動させると、先ほどとは打って変わり、赤く光るロッドへと姿を変えた。
「凄い…」
「これが武器のインストール」
「なるほどな…」
「どうしてセトさんまで感心しているんですか…」
「そんなこと言ったって、初めて見たし」
ますます呆れるミライ、セトはとにかくヘラヘラして誤魔化す。
「大体、セトさんのDW。見たこと無いですよ?」
「俺も知らん、貰い物だし」
「カタナなんて武器ジャンル無かったですし…」
「そうか?」
全く持って話を気にしないセト。ミライは段々と怪しさを感じ、セトの持っているDWを見せてほしいと言った。
「ほれ」
思いのほか簡単に手渡された。
「これは…」
スイッチを押してみても起動しない、その上インストールケースらしきものも見当たらない。ますますセトへの疑惑は浮上していく。
「ん?」
「え?ああ、すみません!」
ミライがDWを夢中で見つめる以外にも、夢中で見つめている視線が1つ。アインも興味津々の表情で見つめていることにセトは気がついた。
「さてと、俺はちょっくら行ってくるかな」
「まだイベント終了までは時間がありますよ?」
「ちょっと、な」
セトはニヤッと笑うとその場から去っていった。
「じゃあ僕たちも続けましょうか」
「うん!」
ミライの言葉にアインは笑った。
◆ ― 星空が丘 ― ◆
「ってなことが今日、あったんだ~」
「そっか、仲間が増えたんだ」
ヨゾラと語り合う。いや、一方的にその日あったことを話しているのかもしれないがそれでも心地良いのには変わりない。
◆
「どうだった」
「いえ、少々珍しい男を見つけまして」
何かを話す男と女、女の方は…
「まったく初心者のフリをして歩み寄るなんざ、酷なことをするねえ?」
「貴方も、助けるなんて珍しいじゃない」
アインだった。アインと男の話に割って入るようにミウラが姿を現す、この状況はこの三人で成り立っていた。
「この後も任せたぞ」
「御意」