04 ヒットポイント
「バーストタイム!スタァァアツ!」
司会が叫ぶ。
「バーストタイムだって!?」
「ばーすとたいむ…?」
焦りだすミライ、アインはきょとんとした顔でそれを見つめている。
「バーストタイムって言うのは一定時間の間、希少モンスターやワンランク上のモンスターが出現するんだよ」
空から無数のクリスタルが降り注ぐ。地面に突き刺さったクリスタルはひび割れ、中から新手のエネミーが顔を覗かせた。
皆わざわざ遠くのエネミーを倒しに行く必要もなく、近くに降り注いだクリスタルを狙う。無論、ミライ達のすぐ近くにもクリスタルが降り注いだ。
「ちょっといいかな」
アインのメニューにパーティ申請通知が届く、すぐにOKを選択した。
「パーティなら全員に経験値もドロップ品もいきわたる、個人差はあるけどな。ボスじゃない限りはちゃんとドロップするよ」
「そうなんですか」
「僕は打撃派だから前線には僕が行く、アインはヒーラーになれる。だから後衛として回復を頼む」
「任せてください!」
「くるぞ…っ!」
目の前に落ちたクリスタルが一つ、中くらいの大きさである。
(良かった、中級エネミーなら経験値も申し分ないし二人でもなんとかなりそうだ…)
クリスタルが弾け、エネミーはその姿を現した。
「我、ここに立たん」
刀を持ち、鎧を着ている。見た目は武者というよりも洋風と和風の中間をとったような鎧に兜、顔は無く真っ赤な目が一つ頭部のど真ん中についている。
「いざ尋常に、勝負!」
こちらが敵だということに気がついたようで刀を構える敵、それに合わせてミライもDWを握った。
「サムライ・エクスか…厄介だな」
エネミーの頭上、ステータスウィンドウを読み上げる。
「破っ!」
左足に全体重をかけミライへと刀を振り抜くサムライ・エクス、ミライは寸前で刃をかわし懐へと飛び込んだ。
ミライは自らのソード系DWを起動しサムライ・エクスの鎧へと突きつける。サムライ・エクスはミライの腹部を蹴り飛ばしギリギリのところで回避した。
「痛覚がある!?」
確かに腹への痛みがあった。
基本的にデータなので現実にダメージは影響しない、HPゲージが減ってダメージエフェクトが出るだけのはず、にも関わらずミライの腹部には鋭い痛みが走っていた。
「吐きそうだ…」
「ヒール!」
アインがミライへとヒールをかける。ミライの顔色はみるみる良くなり、HPゲージも緑色へと戻っていった。
「回復した感覚もある…?」
「よそ見とは。我を愚弄するか!」
考える暇も与えず斬りつけてくる。
「アイン!リキャストが終わったらヒールをかける、それを繰り返して」
「りきゃすと??」
「スキルウィンドウのヒール、そこに出ている数字のことだ!それが0になったらまた使ってくれ!」
スキルウィンドウを見る。すると確かにヒールのスキルアイコンが暗くなり、真ん中に数字が表示されていた。
「あと2秒です!」
「了解!」
サムライ・エクスの足元へと滑りこむ。サムライ・エクスの足に蹴りを入れ滑り止め代わりにし、DWでもう片方の足を斬りつけた!
「ぬぐぅっ!」
サムライ・エクスのHPは思いのほか減り、既に黄色ゲージへと突入していた。
「ヒール!」
攻撃を続けるミライ、それを適度に回復するアイン。抜け目のないコンビネーションである。
「武装解除」
突然、サムライ・エクスは鎧を脱ぎ捨てた。
「弐の秘剣」
腰を深く落とし、刀の刃を横にする。
「氷晶一閃!」
急いで剣を縦にすることで攻撃を防ぐ。
しかし剣の腹へと当たった刀は光を増し、ミライのDWは氷漬けにされた。
「熱っ!」
剣を握っていた手まで氷漬けられる。熱いと思ったのは凍結による低温やけど、完全に凍らされていた。
(痛みが伝わってきやがる、これはキツい!)
「ヒール!」
ひたすらヒールを唱えるアイン。その効果もあってか発狂するほどに痛くはない、手が凍てついているにも関わらず泣くほどの痛みでもない。
「おりゃあっ!」
凍り付いたDWごとサムライ・エクスの顔面へと右ストレートを叩き込んだ。兜は弾け、顔半分に亀裂が入った。
「面白い、面白いぞ!」
「何が面白いだ…僕の手はメチャクチャだぞ!」
凍りつき、痛む手を抑えながらサムライ・エクスとの距離をとる。一応、サムライ・エクスにもダメージは入ったようで少々のふらつきが見られた。
「見せてやろう、最終奥義を!」
「お前もうボスでいいんじゃないか?」
最終奥義の構えに移る。他のプレイヤーは気づいていないが、このサムライ・エクスが恐らくこの場では最強エネミーだ。
「壱の秘剣…」
背負っているもう一本の刀へと空いている手を伸ばす。持っていた刀を腰の鞘に納め、背負っている刀の柄をもう一方の手で握った。
「双竜一斬!」
ミライがもう一度DWを縦にし身を守ろうとする、が間に合わない。
横薙ぎの攻撃はなんとか抑えたものの縦切り攻撃は防げない、もろに肩へと斬りこまれた。
「ミライさん!」
肩から噴き出す大量の血液、痛みも想像を絶するほどに伝わってきた。
「いいから、回復を!」
「は、はい!」
急いでヒールを唱えるアイン、その効果もあってか痛みは消えたがHPは思い切り削られた。
瞬間、ミライの脳裏に恐怖が過ぎる。
(これってHPが0になったら一体、どうなるんだ…?)
HPと連動したダメージ、身体への負担も大きい。もしかしてHPはミライの生命と連動しているんじゃないか、0になったら死ぬんじゃないかと。
「ミライ!」
はっと我に返る。気がついた時にはもう遅い、目の前には刃が迫っていた。
「しまっ!」
血しぶきが舞った。