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19 音速

「それで?どうして生きているんですか」

「先ほども申したように、私の元はデータだ。そしてお前もな」


 ミライの脳内で再び記憶がフラッシュバックする。

 自分が生まれた瞬間、どう見ても病院では無い場所での誕生。沢山の白衣の人達に囲まれる恐怖、ミライは思わず大声を上げて頭を抱え込んだ。


「落ち着け、私はここにいる」

「……俺は作られた?」

「そうだ、お前も私達の仲間だ。最高傑作のな」


 最高傑作?仲間?

 ただでさえ理解できないような言葉が一気に脳内を駆け巡り、ミライの視界は既にぼやけ始めていた。


「しっかりしろ!現実を受け止めろ」

「……っ!!」


 ミライは拳を強く握ると、自分の頬目がけて腕を振るった。

 音とは言えないような鈍い音がミライの耳へと木霊し、痛みによる気つけと共にミライの精神は安定していった。


「一から説明してくれないか?」

「……といっても、説明するほどのことは無いんだがな」


 刀は鈍い音をたてながら地面から自力で抜け出すと、そっとミライの膝元へと横になった。


「これが膝枕というやつか、ふむ悪くない……」

「僕にしてくれたじゃないか……」

「私はされたことが無いんだよ、それよりも話を戻そうか」


 カチャリと音をたてて向きを変える朔夜、なんとなくだがミライは自分の方を向いているということが感じ取れた。


「先程も言ったようにお前はとある一つのデータから作られた、いわばデータ人間だ。勿論、私のようなことも出来るが……その場合は"器"となる物が必要だがな。」


 訳のわからない内容にミライの脳内はオーバーヒートしていた。


「この刀も所詮はデータから作られた物、こいつが消えれば私も消えるな。つまりお前には器にできるものが無いから、事実上は出来ても不可能だ」

「そ、そうか」


 結局のところ訳が分からないままなので、適当に返事を返す。

 ミライは(サクヤ)を持ち上げると自分の着ていたパーカーを鞘代わりにし、巻き込んで背負った。


「どこに行く気だ?」

「ヨゾラを助けに行く」


 刀は一言も声を発しはしなかった。



 ◆



「さあて、このDWと世界を完全にするには君が必要なんだよなぁ。ヨゾラちゃあん♪」

「こ、こないで!」

「そう邪険にしないでよ、別に酷いことをする気はないよ~?」


 信用できるかという表情でミウラを睨む、ヨゾラは必死に階段を駆け上がっていた。


「逃げるヨゾラちゃんがあまりにも可愛いから、虐めたくなっちゃうなぁ!!」


 逃げるヨゾラを弄ぶように、階段をゆっくりと上がっていくミウラ。

 現在、ヨゾラはとあるタワーの内部でミウラから逃げ回っていた。しかし、タワーというものはいつか頂上の訪れるもの。

 ミウラから逃げ回っているうちに、ヨゾラはとうとう最上階に到達してしまった。


「ほうらもう鬼ごっこはお終いだぞっと、そろそろ言うことを聞いてもらうよ~?」


 ヨゾラは咄嗟に近くの扉を開け放ち、外へと飛び出した。

 そこに広がっていたのは数百メートルもの高さから拝む夜の街並み、それから半径30メートルほどの広さを誇る足場のみだった。

 打開策を考えている間にも扉の先からは、鉄の階段を上がってくる音が響き渡り近づいてくる。


(とにかく逃げなきゃ……っ!)


 といっても先には数百メートルという高さの崖があるだけで、他の逃げ場など存在しなかった。

 少しでもミウラから離れるべく壁などを模索するが、ヨゾラの期待を踏みにじるような結果しか残されてはいなかった。


「はい!チェックメイトォ~、これで僕の勝ちだねヨゾラちゃあん」

「その気色の悪い喋り方を何とか出来ないんですか」


 瞬間、ヨゾラの視界からミウラが消えた。

 気がつくとヨゾラは地面へと押し倒され、上にはミウラが馬乗りになってまたがっていた。


「な、何をっ!」

「なぁに、ヨゾラちゃんをちゃんと言うことを聞く子にするだけさ。安心して身を委ねると良い」


 ミウラは自らの唇をヨゾラの唇に近づける。


「い、いやあぁああっ!!」



『ヨゾラぁぁぁああああっ!!』


 突然の声に気を取られるミウラ、目の前にはミライがDWを構えて着地していた。

 横には大きな鎌を担いだ女性が並んでおり、おそらくはこの女性が何かをしたのだろうとミウラは悟った。


「また君か、総合ランク下位評価の雑魚くん……あ?」


 ミウラが瞬きをし、次にミライを目視しようとした時には既にミライは消え去っていた。

 何かを察した表情をし、真後ろへとDWを振りかざすミウラ。そのDWは背後に回っていたミライの髪の毛を撫でるように切り落とし、再びミウラの腰元へと収まった。


「君も"音速"を手に入れた、そういうわけですか」

「やっぱりな、お前は消えているわけじゃ無かったんだ。音速で移動し、相手をかく乱させながら攻撃を仕掛けていた。そうだろ?」


 ミライの言葉を聞き、ミウラは嘲笑する。

 何が可笑しい、そうミライが言おうとしたときには既にミウラは攻撃の体勢へと移っていた。


「では質問です。なぜ私は音速という最強の武器を手に入れたというのに、その状態で殺しにかからないと思いますか?」

「……それは音速の状態では攻撃出来ない、とかか?」


 瞬間、ミウラの姿が消える


「正解は楽しいからですよ」


 気がつけばミウラは耳元で囁いていた。

 ミウラへと刀を突きつけるべく、身体をひねるミライ。しかしそこにもミウラはおらず、既に建物の入り口の方へと移動し拍手していた。


「勘は良いようですねぇ?」


 ミウラがそう言うとミライが笑い出す。


「そういうお前は勘が鈍いようだな!」


 ハッとした表情で辺りを見回す、しかしどこにもヨゾラの姿は無かった。


「あの女かぁ!!!」

「ご名答、カルマさんにヨゾラを救出して貰ったのさ」


 怒りの表情から何かに気づいた表情へと変化するミウラ


「カルマ……そうか、あのクソジジイの実験は成功していたのかっ!!」


「ククククク……ハハハハハハッ!!これは愉快だ、痛快だ!」


 転げまわるように笑うミウラ、その姿を見てただならぬ恐怖を覚えた。


「あのカルマとかいう女、利用しない手はない!」


 ミウラが姿を消す。

 同時にミライも加速した。


「ほう、ついて来るか。ならばここらで決着をつけてやろう!」


 自らに向かって走ってくるミライの方へと身を翻して向き直り、音速化為に起動していたDWを必要最小限の範囲で振りかざしミライへと斬りかかる。

 自分へ向かって光り輝く細い剣先を砕くが如く、ミライは(サクヤ)をある程度の力を込めて振り上げた。


「阿呆だな君は、大人との力の差。体格差の大きさを分かっていない」


 攻撃を薙ぎ払った後のミライのカウンター攻撃を身軽にかわし、ミライの脇腹目がけて風を切るように足を薙ぐ。

 その強烈な蹴りは小学生であるミライには重く、まるでボーリングの玉を投げつけられたかのような痛みと衝撃が身体中を駆けまわった。


(まだだ、こんなもんじゃない!セトさんなら、ここで終わらない……っ!)


「うおおあああああああああっ!!」


 痛みと怒りを吹き飛ばすが為、体内の全ての空気を1CC残らず吐き出すように叫ぶ。叫びながらミライは全身全霊の力を刀に込め、ミウラへと精一杯の突きを放った!

 まさかミライが耐えると予想をしていなかったが故、ミウラは突きを避けきれなかった。


「くそっ…!このガキィあぁああっ!!」


 ミウラは自分の腹部に突き刺さった刃先を直に掴むと、血管が浮き出るほどの力を拳に込めた。

 刃を握りしめた手からは血が流れ、刀の刃はガタガタと震え始める。ミウラは自らの腹部へと突き刺さっている刀を引き抜くと、もう片方の手でミライの頭部を鷲掴みにした。


「なっ!?」


 頭部を支点とし、ミライの身体を持ち上げる。

 ミウラは砲丸投げのように体を捻ると、ミライをガラスもろとも窓の外へと投げ飛ばした。


 ガラスを砕き、地上から数百メートル離れた空中へと放り出されたミライ。

 その髪の毛は真っ白に染め上げられ、目の前にはオレンジ色に輝く夜景を背にする形ミライの身体は急降下を始める。


(あぁ、こうなってしまってはどうしようもないな……)


 やがて音速と言う空間が解け、とてつもない風圧がミライの身体を押し潰す。

 もう身体も果てた、これ以上は何もできない。様々な形式あれど、結果的にヨゾラは救えたのだからこれで良かったのだろう。そうミライの脳は語っていた


「そうは行きませんよ」


 瞬間、ミライの身体は軽くなる。

 最早夢を見ているのではないか、とてつもない恐怖から現実逃避に走ったのではないかと冷静に分析をする。がしかし、その分析は無駄となる。

 常識を覆すような身体能力でミライを救ったのはカルマだったのだから。


「またお姫様だっこ、ですね」

「恥ずかしいから言わないでくださいよ……」


 カルマはミライの髪の毛を軽く撫でると、微かに笑みを浮かべた。


「まぁ、また白くなってしまわれたのですね。まるでseto様そっくり」

「え?僕の髪って白くなってるの!?」


 慌てて髪の毛を一本抜くミライ、抜けた髪の毛を確認すると白髪よりも白く輝いていた。


「うわぁ、きっとさっきの恐怖で白くなっちゃったんだ……」

「それはありませんよ、恐怖ごときでは白くなったりなどしませんから。元々、白かったのです」


 何がなんだがよくわからないミライ。

 しかし、カルマさんが言うのだからそうなんだろうと適当に納得した。

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