18 伝授
「チッ!こういうのは気に食わないけど、命令なら仕方ないか……っ!」
嫌そうな表情を浮かべながらも拳を握りしめるナクル、レウス達の攻撃に加わる用にして連撃を繰り出す。
それに対して朔夜も全力で打ち返す。刃でナックルと大剣、それに魔法攻撃までも弾いている。
「……っは!笑えねぇ、バケモノかよ!」
「三対一でこの対応、本当にちょー人間離れじゃない!?」
「でも、砕き散らす!」
刀と身のこなしだけで三人分の攻撃を弾き返す、その姿は本当に人間とは思えなかった。
(これも時間の問題だな……)
「朔夜さん……っ!」
朔夜の視線が背後へと向けられる。
◆
「これはすごい……」
「やっぱりね」
ミライの傷がみるみる内に完治していき、数秒後には完全に治癒してしまっていた。
「DWの攻撃を受けるってことは、回復の干渉も受けるかなって思ってね。原理は分からないけど……」
「その理屈だと、ゼノさんや他の皆にも効くんじゃ」
「ううん、ゼノには効かなかったの。でもミライ君には効いた、だから原理が分からないのよ…」
何かが引っ掛かる気がしてしばらく考えるミライ、しかし途端にハッとした表情へと切り替わった。
「ゼノさんに効かなかったって、つまり……」
「ゼノは入院中よ。でも気にしないで、もう結構元気なのよ」
ミライはすぐさま屋上を出て、ゼノのいる病室へと向かった。
「ゼノさん!」
「ん?おぉ、ミライ。お見舞いに来てくれたのか」
「いや、それもそうなんですけど……」
◆
「そうか、セトさんが最後にそんな事を……」
「はい、攻撃が全然見えなくて」
ゼノはもしや、と思いつつ呟いた。
「デリトに頼めば……」
「じゃあ!そのデリトさんに、今すぐ合わせてください!」
「ちょっと落ち着け!」
ミライの両肩を掴み、傍の椅子に座らせるゼノ。その表情は怒り半分に、悲し気な表情を浮かべていた。
「すみません、でも……」
「悪いがデリトに頼むことは出来ないんだ」
「どうして!?僕が未熟だからですか」
「だから落ち着けって!!」
何かに焦るミライを止め直すゼノ、その表情は先ほどよりも悲しみに明け暮れていた。
「デリトは、もう居ないんだよ……」
「……っ!?……すみません」
ゼノの言葉を悟り、冷静になるミライ。
その表情を見て悪いと思ったのか、ゼノはミライの頭をぽんと撫でた。
「俺で良ければ、少しは力になれるかもしれない」
「……え?」
病院の庭、そこでミライはひたすらDWを振るっていた。
「これが何か、役にたつんですか?」
「ただ振るっていても習得なんて出来ないぞ、想像しなくちゃな」
そう言われてもよくわからない。
そう思いながらミライはひたすらDWを振るった、が何も起きやしない。
「じゃあ、特別な言葉を教えてやるよ」
『願え』
◆
「朔夜さんっ!」
三人と戦う朔夜を見て一層足に力を込めるミライ、しかしその思いは届かなかった。
「へっ!チャンス」
ミライに一瞬気を取られた朔夜、その隙を三人は見逃しはしなかった。
一気に攻撃を叩き込む三人。案の定、その攻撃を避けきることは出来ず朔夜は袋叩きとなる。
「そろそろお終いにしようや」
「『チェーン・オブ・ディストラクション』」
レウスに頭から持ち上げられ、キッドに魔法で拘束される朔夜。
ナクルは全力で拳を握り、朔夜の身体のど真ん中目がけて渾身の一撃を放った。
「……っ!」
ミシミシと朔夜の骨が軋む、その後もナクルは殴り続けた。
次第に朔夜の手は力なく垂れさがり、完全に身体中の骨が砕かれた状態となった。
「朔夜さぁぁああんっ!!」
ナクルが殴るのを止めると、キッドは拘束を解いた。
「そんなに欲しけりゃ、くれてやるよ!」
レウスは人形のように力なくなった朔夜をミライに向けて投げつけた。
「朔夜さん……っ!」
「あぁ、ミライか……」
血を吐き出しても良いほどに滅茶苦茶にされているはずなのに、一滴も血を吐かない朔夜。
かすれた声を出してミライに声を放った。
「私の血はもう切れた……。またいつか君が欲しいなぁ……」
朔夜は優しくミライの頬を撫でた。
「君に聞きたかったんだ……"君は私を愛してくれるかい"?」
「あぁ、俺は朔夜さんが大好きだ。どうしようもない、この上ないほどにっ!」
「……そうか、はは。嬉しいなぁ」
朔夜は手に持っていた刀をミライに渡すと静かに目を閉じた。
「ああああああっ!!!」
セトの時と同じだ、あの瞬間を噛みしめながらミライは朔夜の刀を握りしめた。
「お前らは俺が斬る……っ!」
「はっ!恋人が殺されて怒りMAXってかぁ?悪いが小坊に負けるほどやわじゃないんだよ!」
レウスが大剣を振るいあげる!
……が、その大剣はミライを斬る前に地面へと突き刺さった。
「どうしたレウス!」
「……駄目だ、こいつぁ」
レウスはその場に膝から崩れ落ちた。
「くそ、こんのぉ!」
キッドは杖を構えたが、先ほどまでの場所にミライはいなかった。
「ざっけんな!こんな……」
ぷつり、とキッドの言葉が途切れる。
それまで力強く杖を握っていたその手は、キッドの身体もろとも地面へと崩れ落ちた。
「こいつぁ、攻撃してんのか!?」
まるで見えないミライの攻撃を警戒するナクル、その姿を楽しむように時々姿を現しながら少しずつ、少しずつナクルへと近づくミライ。
ギリギリまで近づくとナクルは拳を突き放つ、がミライの残像は消え真後ろにミライが姿を現した。
「こっちだ」
「くっ!このぉ!」
連撃のように蹴りを放つナクル、しかしその攻撃が当たることは一度も無かった。
「確か、朔夜にとどめを刺したのはお前だったよな」
「それが……どうした!」
攻撃を放ってはかわされ、放ってはかわされた。ナクルは既に攻撃を当てられない事に、苛立ちを感じていた。
が、間もなくしてその苛立ちは恐怖へと変わる。
「確か、こんな感じだったかな?」
ミライは音の速さで、ナクルのみぞおちめがけて蹴りを放った。
「うがぁっ!!?」
その場にうずくまるナクル、しかしミライは攻撃を止めたりはしなかった。
「いやこうか?こうかぁ!?」
ナクルが地面に寝転ぶようにして倒れたその時、ミライの攻撃はやっと終わった。
「……気は済んだか?」
「え?」
突然の聞き覚えのある声に正気を取り戻す。
声の主と思われるのは、今まさに手に握っている刀だった。
「もしかして、朔夜さん……?」
「もしかしなくてもそうだ、こっちに少しだけバックアップを取っておいたのだ」
無駄な怒りによる攻撃と、ホッとした際の気疲れからミライはその場に座り込んでしまった。
恐る恐る背後を確認すると確かに朔夜さんの遺体が転がっている、まるで時が止まったかのように。刀を軽く握って、なんか変な感じだと考えるミライ。
「自分の死体を見ることになろうとは、確かに変な気分だな」
「あ、見えるんだ」
刃の部分から柄の部分まで、舐めるように見定めて目となる部分を探し始める。
が案の定見つかりはしなかった。
「はっはっは、そりゃあ見つかりはせんよ」
「じゃあどこで見ているんだい?」
「秘密だ」
◆
「おーい!って、ダメか」
狭い穴の中で叫ぶジャン、その上に座り込むビート。
二人がミウラに落とされてから既に30分程が経過しようとしていた。
「ジャンちょっと狭いっすよ!」
「俺だって我慢してんだよ!」
ビートがハッとしたような表情を浮かべる。
「もしかして、年下の女の子とこんな所に入れて喜んでるッスか?」
「なわけないだろ!」
「あ、何か下半身に堅いものが!やっぱり興奮してたッスね!?」
「それはベルトだ馬鹿!!」
既に落とし穴へと到着していたジョーカーは、助け出すべきか見守るべきかと迷っていた。
(もうしばらく様子を見るか……)