17 DW
「くそ、まだ走ったりは出来ないか」
病院の屋上に設置されたベンチへと腰を掛ける。
身体中の骨がすごいことになっていると医者に言われ、改めて病院に居た女のDWの恐ろしさを知った。
「そういえば病院はどうなったのかな、屋上とかボロボロだったし……」
コンクリートを砕くような一撃を受け、むしろ生きていた事こそ軌跡じゃないかと思うミライ。
「あれ?ミライ君!?」
屋上入り口で何かを持ちながら驚き、固まっているシロ。
ミライに気がつくや否や、飛びつくようにミライの肩へと掴みかかり揺さぶった。
「怪我したの!?大丈夫?!」
「いたたたたっ…!」
「あ、ごめんっ!」
急いでミライから手を放す。
「それにしても、どうしてミライ君がここに……え?」
ミライの持っているDWを見てシロが一瞬硬直する。少しずつ何かを理解したのか、震えながら動き出した。
ミライはDWを自らのポケットにしまうと、ベンチから立ち上がって屋上の出口へと向かった。
「ちょっと待って」
シロがミライを呼び止める。
その手に握られていた杖型DWはミライに向けて起動されていた。
「試してみたいことがあるの」
「え?」
◆
「ミウラ様、侵入者です」
「放っておけ。私はまだ傷が癒えていないのだよ?」
「……それは失礼しました」
途端、部屋中に警報が鳴り響く。
側近の男は急いで機械を操作し始め、基地中の防衛用ゲートが降りる。
「ジャン、壊せる?」
「このDWさんが頑張ってくれりゃあね!」
シャッターのように下りた分厚いゲートを次々と破壊しながら進んで行く二人、ジャンが壁を破壊しビートが細かい敵を始末していく。
最後のゲートを壊した時、目の前には一つの巨大な扉がたたずんでいた。
「こりゃあ、月の涙のダンジョンを思い出すような巨大さだな……」
「壊せるッスか?」
ジャンは大剣の先を扉の合わせ目に突き刺すと、鍵を回すがごとく大剣をひねらせて扉をこじ開けた。
なだれ込むかのように中へと飛び込む二人、
「……っ!?」
そこには真っ赤に染まった男の死体が転がっていた。
男の物と思われる血で作られた道の先には、椅子に深々と座るミウラがDWを握っていた。
「ミウラ…っ!」
「あぁ、そこの男かい?そいつは使えないと思ったから、試し切りの案山子として使わせてもらったよ」
ミウラは椅子から立ち上がるとDWの電源を切り、腰のホルスターへと納め拍手を始めた。
「よくもまぁここまで来られたものだ。リアルに干渉できるDWということは、ネイティブ製なのかな?」
「ネイティブ……!?なぜそのことをお前が」
「そりゃあ知っているとも、データを全て見たんだからなぁ?デリトとリンク、だったっけ。ゲームだけではなく現実に干渉した女神二人、これは利用しない手はないだろう?」
ジャンは深く、強く大剣を握るとミウラに向かって大ぶりの攻撃を繰り出した。
(あんな細身の武器で受け止めようとしたら、砕いて叩き潰してやるぜ!)
そんなジャンの考えに吸い込まれるようにミウラはDWを構えた。
それどころかジャンに向けて斬りかかるくらいの勢いでDWを鞘走らせ、ジャンの大剣とミウラのDWの刃がぶつかる……はずだった。
「……っ!?」
ジャンの大剣をすり抜け、ミウラのDWの切っ先はジャンの右肩を貫通していた。
急いでビートが弓を引いてミウラを遠ざける。
「これで分かっただろう、セト?とかいう雑魚がこの私に勝てなかった訳も。このDWは特別製だ、相手のDW粒子を瞬時に分解することが出来るんだよ」
ジャンはすぐに立ち上がると大剣を地面に突き刺し軸にして周り、その長い足でミウラの横腹めがけて蹴りを放つ。
ミウラはすぐにDWを構え、ジャンの攻撃をDWの刃で受け止めた。
「DWのように粒子を固めたものじゃなければ防げるとでも思ったのか、馬鹿が物体も切れるんだから身体も切れるに決まってるだろ。数秒前のことも覚えられないのかサルゥ!!」
案の定、ジャンの右足はスッパリと。レーザーで切断したかのように、綺麗に切れて宙へと舞い上がった。
がしかし、それと同時にミウラの左手も宙へと舞い上がる。
「う、ぐっ!」
ジャンの攻撃に気を取られ、後ろで弓を引いていたビートに気が付かなかったのだ。
ミウラは近くに転がっていたジャンの右足を持ち上げて、ビートへと投げつけた。
「この糞どもがぁっ!!何故だ、何故なんだぁ!?」
狂ったようにDWを振り回す。
「お前たちのような底辺、ゴミクズ、カス共がぁ!この私に二度も傷をつけやがってぇぇええええっ!!!」
しばらくするとピタッと動きを止め、大きく深呼吸を始めた。
「しょうがないから見せてあげるよ……ランキング2位の実力をね。」
DWをジャンに向け、突きを繰り出すように地面を蹴り飛んだ。
「見えない……っ!?」
ミウラの姿が瞬間的に消えたのだ。
気がついた時には時すでに遅し、ジャンの腹部をDWが完全に貫通していた。
「急所は外したよ、苦しんで死んでもらわなきゃねぇ!」
ミウラの姿は再び消え、ビートの肩から突然刃が飛び出した。
「ビートォ!」
ミウラは元の椅子へと座り直し、DWを手で転がして勝ち誇ったように嘲笑した。
「これはねぇ、思いの力?とかいう物の賜物だよ。あのセトとかいう奴が使ってきたときには驚いたなぁ、博士と私しか知らないはずなのにってね」
ミウラが機械を操作し始めると、ジャンとビートの足元の床が消滅する。
「しばらくそこで大人しくしていてくれたまえ、後でちゃんと始末してあげるから」
そう言い残すと、ミウラは建物から姿を消した。
◆ ― 星空が丘 ― ◆
「ミライ……」
緑色の欠片の入った瓶を握りしめ、ヨゾラは満点の星空を眺めた。
しばらくして、階段を上がってくる足音に気が付き振り返る。
「ミライ…!?」
しかし、その足音の主はミライでは無かった。
「悪いな、ミライじゃなくて」
「ミライミライ、って彼氏か何か?」
そこには大剣を背負った大男と、その肩にちょこんと乗った女の子だけが立っていた。
「さてと、そろそろ行くぞ。お前を欲しているお方が居るのでな」
レウスがヨゾラの腕に掴みかかろうとしたその瞬間、その太い腕には無数の切り傷が現れた。
「っ!!てめぇ…」
「すまない、気が変わった」
そこに居たのは刀を振りかざした朔夜だった。
しかし、その表情は前回とは打って変わり、彼女にしては不気味なほどの笑顔だった。
「確かに俺とお前、一対一で殺りあえば勝てないだろうよ、だがこれならどうだ?」
「何を……っ!?」
瞬間、朔夜の足元が砕け散る。
正確には何者かの攻撃によって砕かれたのだ。
「あぁ~っ!いいねぇ、攻撃を余裕でかわす感じ。最高だよぉ!!」
砕け散った地面から拳を抜き、指を弾いて音を鳴らして喜ぶ。
「アタシの名前は『ナクル』、ナックルだからナクル。いい名前だろぉ、なぁ?」
「……どうでもいい」
朔夜はナクルに向かって刀を突きだし、ナックルを弾くように斬撃を繰り出した。
刃に弾かれる拳を見て焦りを感じるナクル、そして限界はすぐに来た。
「終わり」
最後の拳を弾いた時、朔夜の切っ先はナクルの喉元めがけて突き放たれた。
「そうわさせないわよ」
朔夜は瞬間的な閃光に気が付き、数歩後ろへとバックステップを決めた。
次の瞬間、先ほどまで朔夜の立っていた場所には目が潰れそうになるほどの電撃が撃ち落とされる。
「つーまーり、俺たち三人なんてどうよ?おっと、汚いなんて言わないでくれよ。これが"戦法"ってやつなんだからさ」
「……構わん、こい」