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12 朔夜

 首筋を伝い、地面へと血が滴る。

 朔夜はミライの首へと牙を立てていた。


「うっ、朔夜さん…っ!」

「フー、フー…!」


 息が荒く、

 ミライが必死に突き放そうとするが全く持って離れる気配が無い。

 そうこうしている内に、ミライの意識は薄れ視界がぼやけ始めた。


「……っ!」


 突然、朔夜は何かが消え去ったかのように表情を変えてミライから離れた。


「す、すまない!おい、大丈夫か?しっかりしろ!」

「もう何が何だか…」


 身体中から力が抜けていく、それは極度の疲労と急な貧血によるものだった。

 朔夜はミライの頭部を自らの膝の上に乗せると、独り言のように何かを呟き始める。


「私が何故お前を襲ってしまったのか、それはこの武器の所為でもあるんだよ。言い訳がましいかもしれないけどね」


 ミライは目を閉じて、何も言わず話しに耳をただただ傾けた。


「君はあの死体を見て『綺麗だ』と言った、その理由は簡単なものだよ」

「……聞いていたんですか」

「ああ、少しだけな。そしてその理由は『血が出ていない』というものからだろうね」


 ミライは少し眉間に皺を寄せるも、何かを理解したのかすぐに元の表情へと切り替えた。


「多分、初めて見た"死体"へのショックとその不自然な切り口。それらの事が入り混じり、動転して思わずそう感じてしまったんじゃないかな」

「……そうかもしれない」


 ミライは自分の顔を隠すように瞼の上へと腕を乗せると、少しづつ不気味な笑いが込み上げた。


「何が面白い」

「いや、あのさ。僕が綺麗だって言ってしまった事についてだけど、多分あれ本心だよ」

「……そうかい」


 一通りただただ笑い続けると、今度は突然涙を流し始めた。


「僕は狂っているのかもしれないんだ。こんな命がけの状況で恐怖を感じない、それどころかゲームのクリアへと向かって楽しんでしまっている」

「……」

「さっき名前を聞いたばかりの人にこんなことを言うのは、やっぱりおかしいかもしれない…でも言う」


 ミライは瞼を上げた。


『君はこんな僕を愛してくれるかい?』


 ◆ ― 病院 ― ◆


「シロからのメッセージによるとこの病院らしいが、もうこの時間は閉まっているかな」


 時計を見ると既に夜の9:00を切っていた。

 早いとこミライを家に帰さないと捜索沙汰になるかもしれない、そう思いセトは病院の入口へと足を踏み入れた。


「鍵もかけないなんて無防備な病院だな」

「お前もな」


 セトは瞬時に身体を翻し、後ろを向きながらバックステップを踏んだ。

 そこには槍型のDWを持った男が殺気を身体中から溢れ出させながら、そこに立っていた。


「お前はアナライの店に来た…」

「おぉっと?覚えていてくれたのかあ、嬉しいなあおい」


 男は会話をしながらも槍を振るい、セトの急所を的確に狙って突いてくる。

 槍による攻撃を刀で薙ぎながら回避するセト、しかし男の槍捌きは一瞬の隙も与えない。


「この野郎!」


 セトは男の槍先を刀の腹で受け止めると、男の無防備な足めがけて足払いを放った。

 がしかし、男はひょいっとジャンプをしてかわし呆気なく不発に終わった。


「ほらほらどうした!そんなことじゃスタミナが持たねえぞ?」


 ひたすら刀で防ぎ、攻撃のチャンスを待つ。


(こいつ…っ!俺の槍を、さっきから一ミリも外さずに防いでやがる……っ!?)


 男は謎の焦りを感じた。

 このセトという存在に、その強さに、自分の攻撃が全く持って通らないことへの恐怖に。


「くそが、くそが!」


 男の攻撃は焦るにつれ滅茶苦茶になっていき、セトの刀の動きも穏やかになっていく。

 そして…


(ここだ…っ!)


 男の焦りから生まれた隙、そこをセトは見逃さなかった。

 すかさず槍を寸でのところでかわし、刀を相手の懐へと飛び込ませ、貫いた!


「うごがっ!?」


 男は勢いよく後ろへと押し飛ばされ、入り口の近くにあったソファーへと背中からダイブした。


「刀に大剣が勝てる訳ないだろ、Lost New Worldプレイヤー舐めんな!」


 ◆


「こんな僕でも、か。ふふ、それは私に対しての皮肉かい?」

「そんなこと言って…!」

「いやすまない、少し意地悪いことをしたな。いやね私も私で色々とあるものでな」


 朔夜は悲しそうに笑うと膝の上のミライの頭を撫でた。


「ここは人通りが少ない、少しだけなら話してあげよう。私とヨゾラの関係をな」

「やっぱりヨゾラと何か関係があったんだ…」

「そもそも、私とヨゾラは姉妹だよ。両親はいないけどね」


 その言葉を聞き、ミライは悪いことを聞いてしまったのではないかと少しばかり気を落とす。


「ああ、同情してくれなくていいよ。私とヨゾラにとってはこれが当たり前、なのだからね」

「そんな当たり前ってありかよ…」

「いやそうじゃない、私が言った同情しなくても良いというのは………君もそうだからだ」


 ミライは目を見開いた。

 自分の視界がぼやけ、脳が混乱しているのを足の先まで感じ取れた。


「僕は、僕は……っ!」


 ミライは朔夜の膝上から頭を上げると、すぐに立ち上がり目的地の方へ向かって走り出した。

 自分の何か忘れたい過去、記憶を振りきるように。


「はぁはぁ、ここだ」


 とある病院の前にたどり着いたミライ、その表情は無理やり笑顔を作ろうと必死だった。


「さてとセトさんは……」


 先に到着しているであろうセトを見つけ出すため、病院へと足を踏み入れようとするミライ。

 しかし突然の激音によってその行動は中断される。

 病院の入り口付近の窓が割れ、ミライの数メートル横を男が転がり出てくるのが見えた。


「へっ、やるねぇ」


 槍を背負ったその男は病院の中に向かって話しかけていた。

 病院の窓奥には人影、男は恐らくその人物に話しかけているのだろう。


「お前が単調な攻撃しかしないからだろ、阿呆」

「言ってくれるねぇ!」


 病院の窓から顔を出した人物、それはセトでは無かった。


「誰だこの人達……?」


 槍を持っている男はアナライの店に乗りこんできた男だとすぐにわかったが、窓の奥に居る男については全く持って見覚えが無い。


「死に晒せやぁ!」


 槍を持っている男は窓越しに睨みつけている男に向かって槍を振るった、

 がしかし病院内の男は足だけでその攻撃を受け流すと槍男の顔面に蹴りを打ち込んだ。

 顔に一撃貰った男は更に後ろへと吹き飛び、すぐ近くのゴミ箱へと背中から突っ込んだ。


「ん?君は…」


 窓の男がこちらの存在に気がつく。

 ミライはすぐに逃げようと後ろに数歩足を引いたが、男に襲ってくる気配はなかった。

 男は窓枠から飛び降りるとミライに近づき、数秒の間その姿をじろじろと見まわした。


「中学、いや小学生か?」

「小学生ですけど何か文句でも」

「ふむセトから聞いてるよりも気が強そうだな。それとも成長したのかな」


 何だこの人、そう思いながらミライは病院内へと足を踏み入れようとする。


「待ちたまえ」

「何ですか、セトさんに用があるなら中ですよ」

「セトにはもう会った、だからこそ敵の相手を任されたのだからな」


 男はポケットに手を突っ込み、何かを漁るとそこからバッヂのような物を取り出した。


「何ですかこれ」

「これは発信機、よくあるタイプだな。もし何かあったらここのボタンを押してくれ」

「……貰っておきます」


 いまいち胡散臭さを感じるミライ、男はそんな視線を受け流してゴミ箱の方へと向かった。


「これの処理は任せろ、俺はお前をこの先に向かわせなければならないからな」

「なんか面倒な言い回しですね…」

「……さっさと行け」


 ミライは謎の男を背に、病院の中へと進んで行った。


(バッヂの裏に何か書いてあるな……ジョーカー?)

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