11 無法者
「おーい、アナライ!」
セトが手を振ると、
店の屋根の上に登っていたアナライが気づいて降りてくる。
「よお、ひと段落着いたようだな。ってお前ら懐かしいなぁ!」
「久しいッスね~」
アナライはジャンやビートと握手を交わす、
本当に嬉しそうに。
「というか、アナライさん。店が凄いことになってるなぁ」
「ああ。ゲーム時代だったら、1000万GPってところかな」
「ゴールデン・ドラゴン100体狩っても足りないッスね~」
などと他愛無い話をしているが、セトの顔は険しい。
「なあアナライ、ゼノとシロを見ていないか?」
「ゼノとシロ…見てないなぁ」
アナライは首を傾げた。
「そうか、ありがとう」
「あっ!おいどこ行くんだ」
「ちょっと探してくる」
セトは路地を抜け、街へと走り去った。
「ぼ、僕もついていきます!」
ミライはセトの後を追い、同じく路地を出た。
「お前たちは行かなくていいのか?」
「ああ、俺たちはもっと別のやることがあるからな」
「そうか」
◆ ― 港 ― ◆
「今日のイベント会場?」
「ああ、今日のイベント会場はこの港。セトとミライとかいう奴らが来る確率が上がるってわけだ」
「……」
小学生くらいの女の子と前髪をたてた男性が港を見張る、
その横には白い髪の少女が寄りかかっていた。
「お嬢さん、あんたはどう思うよ?」
「……」
「はっ、スルーかい」
男の声を潰すようにブザーが鳴る、
盛大なBGMと共に司会がステージに登場した。
「皆さん、お待たせいたしました!今宵のイベントは手に汗握る、レイド戦です!!」
DJ風の司会者がマイクを力強く握りその場を盛り上げる、
夜というのもあってか皆のテンションは興奮状態だ。
「それじゃあいつもの、ヨゾラちゃんのライブから!どうぞ!!」
ステージに虹色のレーザーが当てられる。
中心部に向かって白い煙が噴き出し、マイクを持ったヨゾラが登場した。
「ヨゾラちゃあああんっ!」
「キター!!!」
イベントの参加者が一斉にコールし、会場はヨゾラの歌一色に染め上げられた。
「いくぞ、仕事だ」
「はぁ、はいはい!」
「……」
先ほどまで会場の隅に座り込んでいた三人が立ち上がる。
「皆、ありがとう~!」
一曲歌い終わり、会場のプレイヤーに向かって手を振るヨゾラ。
その背後には既に影が近づいていた。
「『チェーン・オブ・ディストラクション』!」
ヨゾラの身体に無数の鎖が絡みつき、ヨゾラを床へと伏せさせた。
ヨゾラと反対の鎖の先には杖型のDWを構えた少女が立っていた。
「私のターンは終了ね、レウス!」
「はいよ!」
ヨゾラの周りに集まりだす黒服、
その手にはDWが握られており黒服全員が少女へと刃先を向けた。
「おっと!お前たちの相手は俺だよ、ディフェンダー!」
ディフェンダー。
そう呼ばれる黒服達の前に立ちはだかるレウスという男、そのDWはハッキリと分かるほどの大剣だった。
「こいやぁ!!」
一斉に黒服が斬りかかる、
しかしレウスも劣らず大剣を大きく横に薙ぎディフェンダーを吹き飛ばした。
そんな中、
他のディフェンダーとは異なる真っ白な制服を着た男が一人。
「おっと!A級ディフェンダーのお出ましか…!」
白いディフェンダーはゆっくりとレイピア型のDWを起動し、当たりが青い粒子に包まれた。
「うぉらぁっ!…うっ!」
大きく大剣を振るうレウス、
しかしその攻撃は軽く流され懐には白いディフェンダーが既に飛び込んでいた。
「こんの…っ!」
レウスが肘で叩き落そうとする。
「『リヴァーシング・ブレイド』」
ディフェンダーはV字が如く肘をかわし、
下から突き上げるようにDWの刃がレウスの腹部めがけて突き抜けた。
「悪いが騒ぎになりそうなのでな」
白いディフェンダーはレウスを蹴り飛ばし、レウスの腹部へと突き刺さっていたDWを引き抜いた。
「ぐっ…」
レウスはステージ下へと転げ落ちた。
「回収班をよこせ」
ディフェンダーは襟を立てて喋りかける、小型マイクか何かがついているようだ。
レウスが地面に剣を突き立てて立ち上がるとディフェンダーはとどめを刺すべく、レウスへと剣先を向けた。
「大人しく捕まれ…うっ!!?」
突如としてディフェンダーの動きが止まる。
白いディフェンダーはそのまま体制を崩し、ステージから地面へと前のめりになって崩れ落ちた。
「…面倒を起こすな」
白いディフェンダーの元いた場所には白い髪の少女が立っていた。
その手には細く、地面につくほどの長さを誇る鋭利な刀が握られ、その表情は無に等しい。
「ヨゾラ…様?」
白いディフェンダーは意識が薄れゆく中、その女の顔を見て一言呟く。
「違う……お前は、ヨゾラ様の……」
「…チッ!」
少女は刀を走らせ、白いディフェンダーの首を跳ね飛ばした。
「いや…イヤーーーッ!」
「お、おい!逃げるぞ!」
プレイヤー達が一斉に逃げ始める。
「へっ、チキンどもが。そんじゃあその『コード:TEPE-21』を連れて帰るぞ」
「……私の仕事はここまで」
「おう……そうだなぁっ!」
レウスは表情を一変させ、少女へと大剣を振り下ろした。
少女は細身の刀でそれを受け止め、目の色を変えた。
「そうだよ、それだよ…てめぇの危険なところはよぉ!!」
少女の手からは刀へとつながる管のような物が飛び出しており、刀の刃にも血管のような物が浮き出ていた。
「はぁっ、はぁ…」
「やっぱりキツいみてぇだな?おい?」
「……っ!」
少女は手に一層力を入れ、レウスの剣を振り払った。
刀からは赤く染め上げられた破片の様なものが飛び散り、地面へと突き刺さると解けて液体へと姿を変えた。
「おおこわいこわい、血液を固めて武器にするとはなぁ」
「……仕事は、ここまで」
「わかったよ、悪かったな。口止めをしろと言われたが、お前さん相手じゃあ身体が持ちそうにねぇわ!」
レウスが立ち去るとその肩に乗っていた魔法使いの少女が満面の笑みでこちらへと手を振る、が刀の少女は無視してその場を離れた。
◆ ― 路地裏 ― ◆
「せ、セトさん…!ちょっと、休みません?はぁはぁ…」
「ん?そうだな、じゃあ俺は先に行くからその辺りで休んでから来い」
セトはポケットから200円取り出すとミライへと手渡し、路地裏の壁へと設置されている自販機を指さした。
「ありがとうございます。分かりました、目的地も覚えていますので…」
「おう、それじゃあ後でな」
セトは手を振るとその場を去った。
「じゃあ何を飲もうかな」
ミライは自販機に並べられたラインナップを眺め、自らの喉を潤す為の物を探した。
『カシャン!』
「これでいいか…ん?」
すぐ隣で響いた鉄の当たるような音、
もしかしたら敵かもしれないそう思いそちらへと目を向ける。
「はぁ、はぁ…」
「ヨゾラ!?…さんのそっくりさん?」
「……朔夜だ」
ミライは初めて聞くことの出来たその名前に少しばかり喜びを覚えると、更なるコミュニケーションを取るべく朔夜へと話題を切りだす。
「えっと…疲れているみたいですけど、何か飲みます?」
「…っ!」
瞬間、朔夜の表情が変わる。
ミライは「やっぱり喉が渇いていたのか」そう思い話を進めた。
「何がいいですか?種類はスポーツドリンク、お茶。それに天然水…」
「赤い…」
「え?赤…ああ!トマトジュースですか。ちょっと待っててくださいね」
ミライはトマトジュースのボタンを押し、出てきた飲み物を取り出した。
「はい、どうぞ」
「……ごめんね」
「え!いえいえ、そんな謝らなくていいですよ」
「ごめんね…ごめんね…っ!」
次の瞬間、ミライは朔夜によって押し倒されその場に倒れた。
「ごめんね、私…」
「朔夜さん?落ち着いて…」
「ごメンなサイ」
「ちょっと、待っ…」
「イタダキマス」
朔夜はミライへと喰らいついた。