01 リアル
「おおっ!よく見える」
ゴーグルを装着し起動する。辺りは別次元へと一転しゴーグルも消えた、これが新機種の技術。
「さあて、一丁やりますか!」
セトは家から踏み出し武器を握りしめた。
◆ ― 星空が丘 ― ◆
「今日、イベントあるってよ!」
「おっ、緊急か!?じゃあボス狩りだな~!」
夕暮れに響く子供たちの声、中には女の子の声も混ざっている。
「お前は弱いから来るなよ、回復アイテムが勿体ねえ!」
「うっ!」
グループの男の子一人が押し倒される。少年は地面に尻持ちをつき、押し倒した男子を見上げた。
「最近母ちゃんにお小遣いの使いすぎで怒られたばっかなんだよ、回復薬一個でも高級なんだかんな」
「そ、そんなぁ…」
「行きたきゃ一人で行け~じゃあな」
子供たちは少年を置き去りにしてそれぞれ自宅へと帰っていった。
「うっぐ、えっぐ」
自分の意志とは反対に目からあふれ出す涙を拭う。ゴーグルを外して剣をしまい、少年は丘の上へと座り込んだ。
「僕だって強くなりたいよ…」
「どうしたの?」
「弱くてみんなに仲間外れにされるんだ…え?」
少年は声のしたほうへと振り向く。そこには雪のように白く、とても美しい髪を持つ少女が立っていた。
「誰?」
「誰だと思う?」
「し、知らないよ!」
「なら私も知らない」
少年は不審者を見るような目で少女を見た。
「とにかく構わないでくれ」
「それでいいの?」
振り払おうとする少年の手を掴む少女。
「弱かったら強くなればいい」
「無理だよ…」
「願うだけじゃ叶わない、叶えるんだって」
少女の目は真っすぐに少年を見つめていた。
「…うん!僕、頑張ってみる!」
そう言って駆けだす少年の背中を見つめ、少女は呟いた。
「"願ったなら、叶えて"…」
◆ ― イベント会場 ― ◆
イベント会場の周囲の道路などは安全の為封鎖されており、会場には既に大量の人が集まっていた。
「ふう晩御飯食べてたら遅くなっちゃったな、イベントはまだみたいだ」
少年は辺りを見回しながら人ごみを進む。
「あ、おい。あれ未来じゃないか?」
「あ、ほんとだあいつ来てたんだ」
仲間外れにしたグループに見つかる。
少年こと未来はなるべくその集団から離れようと心がける、がすぐに肩を掴まれた。
「おい未来、何しに来たんだよ?」
「お、お前たちには関係ないだろ。俺は俺のやり方でゲームを攻略するんだ」
「ほう!言うじゃねえか、じゃあその力を見せてみろや!」
胸ぐらを掴まれ足をかけられる。未来はその場に背中から着地した。
「痛っ!」
「はははっ!おい見ろよ、やっぱりコイツてんで弱いぜ?」
近くの少年たちも笑い出す。
未来はすぐに起き上がり殴り返してやろうと拳を握った、しかしすぐにその拳を納めた。
「どうした、殴らねえのか?」
「こんなので勝っても嬉しくない。いいからもう俺に構わないでくれ」
「ケッ、あーそうかよ。ヒーラー程度には使ってやろうと思ったのによ、なら一人で戦って一人で殺されるんだな」
笑い声を響かせながら離れていく集団、未来はその後ろ姿をただただ見届けた。
(あそこで殴っていても強くなんかなれない、それはただのプライドだ。本当の強さは…)
「おっと!」
ぼうっと一人で考えていると後ろから誰かがぶつかる、すぐに振り向いて念のため顔を確認した。
「いやあ悪い、なんかこのゴーグル使い慣れてなくてさあ」
「は、はあ?」
目の前に立つ高校生かそれ前後の年層の男、未来にぶつかったのはどうやらこの人らしい。
「プレイヤーネーム…seto?本名ですか?」
「ああ、よく本名と間違えられるんだよね。これは昔貰った名前だよ」
「それにランク210000位って、最下位と大差ないじゃないですか」
「はは、お恥ずかしいことです。って君も208990位じゃないか」
「しょうがないじゃないですか僕弱いし…」
未来は男の言葉に傷口を抉られた様な思いでその場にうつむいた。
「でも1010人は抜いてるじゃないか」
「アカウント登録して間もなくやめるユーザーだっているじゃないですか、多分そういう人達ですよ」
「じゃあそれ以下の俺ってヤバくね…?」
頭を抱えて慌てふためくセト、その姿を見ていた未来はなんとなく笑ってしまった。
「おっ、笑えるじゃないか」
「そ、そりゃあ人間ですから…」
「よし!じゃあその調子でボス戦頑張ろうぜ!お前の心は経験値ブースト+100%だ!」
「何を言っているのかは分かりませんが、ありがとうございます」
未来はこの時、この男に何となく惹かれていた。その真っすぐな考え方、その真っすぐな眼差し。この男こそ本当の強さを知っているんじゃないかと。
「あ、あの!もしよろしければ、僕とパーティを組んでは頂けないでしょうか」
「まあこっちでジャン達にも会ったことが無いしな、ソロでいきなり挑むよりはいいだろ。その招待乗った!」
早速ビジョン端末を操作し招待申請を送る、すぐに了承メッセージが返ってきてなんだか心が躍るようだった。
「えっと、ミライ?お前も本名っぽいな」
「…本名です」
「え?あぁ、そうか!いい名前だな、ははは」
『テーテテッテテー♪』
聞き覚えのあるBGMが流れ出す、これがイベント開始の合図だ。
「みんな~!今日は来てくれてありがとう~!」
みんなの目の前に出現したステージ、その上に一人の少女が登場する。
「へ~、今のゲームにはアイドルも登場するのか」
「…あ、あれ!」
思わず声を漏らす未来。それもそのはず、ステージの上の少女には見覚えがあるのだから。
「知り合いか?」
「う、うん。さっき丘の上で会った少女だ…」
「ほう、アイドルもNPCじゃなくてPCなのか。よく出来てるなあ」
ステージの上で少女が歌いだすとみんなの身体にブーストのエフェクトがかかる。
「レアドロップ率+100%、獲得経験値+100%、獲得GP+150%か、中々のブーストだな…ん?」
セトが目をやると未来はミライは話を聞いておらず、ステージ上の少女に見とれていた。
「じゃあみんな!頑張ってね~!」
歌い終わった少女は声援を受け、ステージからフェードアウトしていった。
「いやあヨゾラちゃんのライブ最高だったなあ~!」
「いやいや、今回のメインディッシュはまだだろ?」
「そうだった、ははっ!」
「おい!来たぞ!」
先ほどまでステージのあった場所に巨大なクリスタルのような物が浮かび上がる。クリスタルの中にいる"何か"が瞼を上げると、消滅エフェクトと共にクリスタルは飛び散りエネミーが姿を現した。
「トライポッド・バーミルド!」
「これはレアドロ確定だなぁ!」
BGMが流れ出す。
「おおっ!RNWの頃のボス戦BGMか!」
「燃えてきた~!」
トライポッド・バーミルドは咆哮を上げ、炎を吐き出した。
「行くぞミライ、狩りの時間だ!」
「はい!」