17.領主は無事のようです
ミアの治癒術によって、衰弱から立ち直った領主は仰向けのままポツリと呟いた。
「私は何をしていたんだ」
「父上!私のことがわかりますか!?」
ジェイクが駆け寄っていったけれど、領主はぼーっと天井を見ていた。状況が理解できずに困惑しているのかもしれない。
声をかけたのに反応がなかったため、ジェイクは領主を覗き込むように見た。覗き込まれたことで、ジェイクに声をかけられていたことに気がついたようだ。
「ああ、わかる……今まで何かを夢中になって作っていた」
どうやら領主には呪われていた間の記憶があるようだ。
領主はジェイクの肩に手を置き、手伝ってもらいながら身体を起こした。そしてボクの顔を見て目を見開いて驚いた表情になった。
「なぜここにジルクス殿下がいらっしゃるのだろうか」
領主はボクのことを知っているようだった。きっと兄の結婚式かもしくは夜会かなにかに参加していたのかもしれない。まぁ、領主であれば知ってて当然か。
「それはロックハンド領の憂いを沈静化させるようにと勅命をいただいたからだよ」
ボクはアイテムバックから勅命書を取り出して、領主に渡した。領主は食い入るように見ていたけれど、勅命書専用の上質な紙に国王のサインとハンコがついてるんだから疑いようがない。何度か見返した後、ボクに返してきた。
返した後すぐにその場で片ひざを立てて臣下の最上級礼儀作法をして見せた。真っ青な顔色のまま少し悩むような表情を浮かべ唇をかみ締めて数秒ほど眼を瞑った後、くわっと眼を見開いて真剣な表情でボクを見てきた。
「すべては国王陛下の御心のままに。処罰を受ける覚悟はできております。ジルクス殿下、ご決断くだされ」
領主の真面目発言に口を開けて驚いた。国王から言われたのは、沈静化だけでそれには処罰は含まれていないと思うんだ。ボクが勝手に処罰を決めるのはお門違いな感じがする。
「ボクは憂いを沈静化しにきただけで、処罰をしに来たわけじゃない。そういったものはきちんとした部署か国王陛下が決めるよ。それよりもどうしてこんな情況になったのかを聞かせてほしい」
「ある日、帝国からきたという商人が……」
領主は深く頷くと話し始めたのだが、途中でパタリと後ろへ倒れて黙り込んだ。すぐにジェイクが支えたので、大事には至らなかったが領主は気を失っているようだった。
「は!?」
もしやまだどこかに魔道具が隠してあって、真実を語ろうとしたら口を閉ざすとか意識を失うとかされているのか!?
しばらく、周囲を鑑定しまくってみたけれど、怪しいものは何もなかった。
「……診察!」
ミアの声が部屋に響いた。
……もう何も言うまい。ミアは治癒術師としての役目を果たそうとしているのだと思うことにした。
「ん~今はただ眠っているだけみたい。他に悪いところはないようだよ。ただとてもお腹がすいているみたいだから、起きたら何か食べられるように準備しておくといいかも」
ミアはにっこりと笑いながらそう言った。
呪いのせいで睡眠も食事も碌に摂れない生活をしていたのだから、その反動で倒れたのだろう。
「起きたら話を聞くことにしよう。今はしっかり休ませてやってくれ」
「それでは、父を寝室へ連れて行きたいと思います。みなさんは先ほどまでいた応接室でお待ちいただければ! 案内はうちの執事が行いますので」
「おやつ食べたーい!」
「ほう名案だな、テトラもたまにはいいことを言う」
「ヘキサも甘いもの大好きだもんねー!」
「皆様をご案内させていただきます。その後、紅茶とお菓子も準備いたしますので、こちらへどうぞ」
そうしてボクたちは最初に案内された応接室まで戻ることになった。
無理矢理、会話入れた感が半端ない……
もうすぐ4章終わります
5章のプロットがうまくできてないので、5章スタートはしばらくお待ちいただくことになりそうです
あとゆっくりと書籍化に向けての作業も入ってきているので、更新頻度は今くらいにゆっくりだと思います