16.治癒術をたくさん使いました
「とりあえず、近づかないから腕を離してくれ」
「ほんとにぃー?」
「本当に」
「近づいたら、お仕置きですからね……ふふふ」
二人はしぶしぶ離してくれた。ヘキサのお仕置きが謎すぎて本当に怖いんだけど……。
仕方なくその場で呪いの発生源である筆に狙いを定めて、治癒術を施すことにした。
「……封呪!」
魔道具に込められていたのは呪いを撒き散らすものだったので、封呪することにした。
封呪と魔道具に込められていた呪いのスキルがお互いに混ざり合っていく。今までの感覚からすれば、簡単に封じることが出来ると思ったいたのだけれど、今回はなかなか掛からない。魔力負けしそうな勢いだったため、慌ててボクは両手を前に突き出して抑えるように構えた。するとみるみるうちに呪いのスキルがボクの封呪に抑えられ、バチンという音とともに筆が転がった。
「「「おお!」」」
ミアとテトラとヘキサの3人が驚きの声をはもらせていた。
もう一度鑑定してみると、状態:封呪になっている。これでとりあえずは大丈夫。
「主様ってすごかったんだねー」
「やはり、ジルクス様は我々が認めたお方」
「封呪なんて治癒術知らなかった……」
正直なところ、4m近く離れた場所から筆という小さなものに狙いを定めてそれそのものに対して上級治癒術を使うというのは至難の技だ。素人にはわからないかもしれないけど、すごいことなんだよ!
ボクは3人に褒められたことでつい頬を緩ませた。大元は止めたけど、まだ領主の呪いを解除していないのだから、笑ってる場合じゃない。
「呪いの元は止めたから、もう近づいてもいいだろう?」
ヘキサとテトラに向かってそう聞くと2人はお互いに顔を見合わせた後頷いた。
領主に近づこうとしたのだけれど、領主の周囲に名前のついた空気がぷかぷかと漂っていることに気付き立ち止まった。怪しさ満点のそれを鑑定で詳しく表示させてみたのだけれど、『領主を取り巻く空気』と『作成者:バート』という表記しかなかった。……どう考えたって怪しいだろ!
「どうしたの?」
ボクが急に止まったからか、ミアが問いかけてきた。よく見なければ気付かない謎の空気についてどう説明しようかな。
「うーん……怪しい空気があってさ、罠だと思うんだよね。……これくらいの蓋付きの小瓶ってないかな?」
ボクは栄養ドリンクくらいの大きさを示すと首を傾げたミアがアイテムバックから空っぽの瓶を出して見せてくれた。
「ジャムが入ってた瓶だけど、これでもいい?」
「うん、ありがとう。もらうね」
缶ビールくらいの大きさだったけれど、しっかり蓋ができれば問題がなかったのでミアから瓶を受け取った。
ボクはジャム瓶の蓋を開けて、領主とみんなの間くらい離れた床に瓶を置き、一歩離れた。
「……集約!」
生活魔法の集約……落ち葉を集める時に便利な魔法なんだけれど、これを使って謎の空気を瓶に詰めることにした。謎の空気は生活魔法に抵抗することなくひゅるひゅると瓶の中に入っていった。集約の範囲にジオラマもあったのだけれど、びくともしなかった。じっと見ると固定の生活魔法が組み込まれているようだ。実に細かい……。
他に同じようなものがないかと鑑定で確認したけれど、見当たらなかったのでしっかりと瓶に蓋をした。
「……施錠!……保護!」
瓶が開かないように魔法の鍵をかけ、瓶が割れないように保護をする。瓶の中を覗くとキラキラとした魔石の粉末が舞っていた。つまり、謎の空気は粉末の魔石を利用した魔道具の一種だということだ。粉末魔石にスキルか魔法を込めるなんて、これを考えた人間は高度な魔術師なんだろう。というよりも転生者なんじゃないかな。ジオラマ知ってるくらいだし。この瓶の中身はあとで解析しようと思い、アイテムバックにしまった。
「とりあえず、もう領主の周りに怪しいものはないみたいだから、さっさと解呪するね!」
みんなの返事や頷きを確認した後、ボクはさくさくと領主に近づいていった。領主はボクが近づいても何の反応も示さずに、ずっとミニチュアの建物に色を塗っていく。その手際のよさはプロと言ってもいいようだ。
大きく息を吸って、吐き出す。さっきの封呪の時、魔力負けしそうだったから今度はさっきよりも慎重に魔力をいつもよりも多く込めて唱えた。
「……解呪!」
領主の体が眩しい光に包まれると同時に身体からたくさんの真っ黒な文字が飛び出すように出ては宙に消えていった。シェライラ様を解呪した時よりも、真っ黒な文字が暴れていたように感じる。きっとそれだけこの呪いをかけた術師が強い魔力を持った者なのだろう。身体から文字が出なくなると光は消えていった。
光が消えてすぐ、領主がぱたりと後ろへ倒れた。長い時間呪いにかかっていたのだから鑑定しなくても衰弱しているのがわかる。
「父上!」
ジェイクがすぐに駆け寄ってきて、領主を起こそうとしたけれどそれに待ったをかけた。
「ちょっと待って」
「ですが!」
「待って、治癒術かけるから」
「私がかけます!」
近くまで歩いてきていたミアがにっこりと微笑んで歌うかのように唱えた。
「……大治癒!」
あああああ!またしても、ミアにおいしいところを持っていかれた!もしかしてわざとやっているのだろうか。ちらっとミアの顔を見れば、満足したような表情をしていた。そんな顔じゃわざとなのか治癒術使いたかっただけなのかわからないよ!
またしてもミアさんがっ