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14.真面目な人ほどはまるようです

 ボクたちは一つの扉の前まで案内してもらった。領主夫人はうるさかったので応接室で護衛たちとともに留守番をしてもらっている。


「ここに領主がいるのか?」


 ボクがそう訊ねるとジェイクは無表情なまま頷いた。

 木でできた扉には派手な飾りはなく、その代わり彫り物が施されている。狼を模したそれは、あの小さな村の守り神を思い出させる。

 この扉の向こうに領主がいるんだなぁと考えていると扉の下のほうから淀んだ空気が流れてきているように感じた。実際には何も見えないのだけれど、ボクの中の何かが訴えかけている。


「ここは父上の執務室でした。今は……」

「今は?」

「……見ていただければわかります」


 ジェイクはつらそうな表情を浮かべたまま、ノックもせずに執務室の扉を開いた。


「わぁ!」

「小さくて可愛いー!」

「踏み潰したくなりますね」

「……」


 ミアは驚きの声を上げ、テトラは嬉しそうに、ヘキサは不快そうにし、リザベラは無言を貫いた。開いた扉の向こうに広がっていたのは、ロックハンド領の領都をそのまま模した小さな小さな街並み……ジオラマだった。

 

「やっぱりこれか……しかし、すごいなぁ」


 予想通りではあったのだけれど、広い部屋の半分をジオラマで占めているこの状態には驚いた。

 そのジオラマの端っこで目の下に隈を作りつつも嬉々としながら、小さな建物に色を塗っている人物がいる。まぁ、あれが領主だろうねぇ。


「父上! 王都よりジルクス殿下がいらっしゃいました!」


 ジェイクが領主を呼んでも一切反応せず、ひたすら小さな建物に色を塗っている。その姿はある種の狂気を感じるし、別の何かの存在も感じる。


「申し訳ございません。このように父上は私たちに全く反応を示さないのです」

「いつ頃からこうなったんですか?」


 ミアが不思議そうな顔をして、ジェイクに問いかけると思い出すような仕草をした後答えた。


「半年以上前……だと思います。急に街並みを再現し始めて、領主としての仕事は一切しなくなりました。始めは領主印が必要なものだけ、なんとか父上に印を押してもらっていたのですが……だんだんとそれすらもしなくなり、途方にくれた私と母上は父上の代わりをするようになったのです」


 正式な代理を立てずに他の者が代理で行う……それは、この国では犯罪にあたる。


「犯罪だとはわかっていたのですが……病気ではない父上の代理を立てるということは、私たちはここから去らねばならない。母上はそれがどうしても許せなかった」

「それで税率を上げたのか?」


 たしか、酒場の人たちの話だと通常3割から4割になって2割になって6割に変わったと言っていた。それをやったのは領主夫人の勝手な判断だということか。


「はい……。ここを去る前に贅を尽くしておきたいと思ったようでして。私はそれをすぐに下げるように指示を出しました。急に上がって苦労をかけたので、今までよりも低く」

「それでまた6割に上げたと?」

「6割ですか!? それでは領民は生活できません。すぐに戻さなくては!」


 本当は今にも飛び出していきたかったのだろうけれど、ボクたちを置いて出て行けないようで視線を泳がせていた。


「主様ー?ここは空気が悪いから外へ出たほうがいいですよー」


 ボクとジェイクの会話に割って入ってきたのはテトラだった。両手を使って×印を作っている。扉を開ける前に淀んだ空気が漏れているような感じがしたけれど、本当に何かがあるのだろうか。

 何かがあるのかもしれない。それがわからない。ならば、鑑定すればいいじゃないか。

 ボクは部屋の中すべてをざっくりと鑑定し始めた。じっくりと見ていくと、視界の隅っこに状態:呪いの文字があった。隅っこにいるのは領主だ。つまり、領主が呪われているということ。

 また呪いかよー。ついついボクは眉をひそめて変な顔をしてしまった。

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