10.まずは情報収集から始めます
あの後すぐにロックハンド領の領都へ戻り、宿を取った。
まだ明るい時間だったので、各自で情報収集をすることになった。
ミアとリザベラはお菓子を買った後、孤児院へ向かい、ボクは宿屋の部屋で滅多に見かけない影を呼び出すことにした。
「いるよね」
「こちらに」
影は本当にボクの影から姿を現した。忍者を思い出させるような黒い服に頭と顔を覆う布。目の部分には少し薄手の黒い布を巻き付けているようで、こちらから瞳の色を確認することはできないけれど、向こうからはこちらが見えるのだろう。
王にだけ仕えている影。これが人なのかそうでないのかは王しか知らないし、王にならなければ知ることができない……らしい。ボクは鑑定すれば、これが何なのかわかるような気がするのだけれど、あえて知らないままにしている。たぶん、知ってしまったら、王にならなければいけないような気がするから。これは絶対、鑑定してはいけない!
「領主の住居の内情を調べてきてもらってもいいかな?」
「御意」
国王の命令でボクの護衛としてついている影に情報収集を頼むのは本当はよくないのかもしれない。でも、短時間で領主の住居の内情を知るには影に頼むしかない。頼んで拒否されなかったんだから、大丈夫なハズ。
たった一言しか言わなかったのに、影はすぐにまた影の中に消えていった。たぶん、夜までに情報を集めてくるのだろうなぁ。
ボクは一人で領館へと向かった。
建前としては、村の鐘を直してきたと伝えるため。本音としては、今の領館がしっかりと機能しているのか確認するためだ。
領館は前世でいうところの役所のような場所で、入口に受付嬢がいて、内容を聞き担当者が案内するハズなんだけれど、ロックハンド領の領館の中に入っても受付嬢はいなかった。
奥へ進んで行くと、最初に出会った領館に勤めている役人に話しかけた。
「結界鐘の修理の件でお伺いしたのですが、担当はどの部署ですか?」
「あぁ、魔部の人間は全員出払っていていないよ」
魔部というのは魔術を行使する部署で、今回の結界鐘の修理は修理というか魔力を注入するものなので、魔部が担当なのだろう。
「1人もいないんですか?」
「あぁいない。あいつらは領主様に直接頼まれた仕事をしてるんだとさ」
役人の言葉に首を傾げてしまった。だって、領主って病床にいるんじゃなかったっけ。
「領主は、病で倒れたって聞いたんだけれど」
「俺らもそう聞いているんだけどさ、魔部のやつらだけは領主様が直接何かを頼んでいるらしいんだ」
「そうなんですか……」
領館の役人も領主が病で倒れたと思っている。だが、魔部の役人は直接領主と話をしているということだ。直接話せるのであれば、税金のことや政策の発表などを代理に頼む必要はないのではないだろうか。
やっぱり、おかしい。
次にボクは、酒場へと向かった。
そこでは、四六時中飲んだくれてうだうだと愚痴を言っている人がいっぱいいる。聞き耳を立てていれば、だいたいは宿屋にいた酔っ払いが言っていたことと同じ内容を話していた。
「税金を上げたのも変な政策発表してんのも領主様の奥方だって話だぜ」
「じゃあ、税金を下げたり政策の取り消しをしてるのは……」
「そんなもの次期領主である子息に決まってんだろ」
領主と奥方と子息ってなんだかきな臭い話になってきたなぁ。
色々と他人の話に耳を傾けていた中で、一人だけ違うことを言っている人がいた。
「領主様は変わられた。真面目過ぎたのがいけないんだ。あんな風になるなんて!」
「へぇ、どんな風になったんですか?」
ボクはしれっとその男の隣に座り、なくなりかけていた酒を注文して渡してやった。
「おう、坊主気が利くな。俺は領主様から直接頼まれて、領都の詳細な地図を作ってたんだ。家の形や高さ、色なんかもわかる物を求められてな。一枚の紙じゃおさまんねーから、何百枚にもわけて渡したら、相当喜んでな。次に領都の周りの景色なんかまで求められたんだ。そんなもの何に使うんだ?って聞いたら、今まで一度も見たことないような真っ黒い笑顔で『…………だ』って言ったんだ。聞いたことねー言葉だったから、うまく聞き取れなかったけどな。あんときの領主様の顔はやばかった」
何のことだかさっぱりわからない。とにかく、領主がどこかおかしくなっているのは正しいようだ。
っていうか、この男ってもしかしないでも魔部の役人なんじゃないのか?
本来であればまだ勤務中の時間に酒を飲んでいるとは……ここの領主といいその家族といい役人といい、末期といってもいいのではないだろうか。
バレバレすぎみたいなので、もっとボカしました(T ^ T)